第11話 旅立ち
「そうだね、リニナ。お父さんの負けだ。良く頑張ったね。」
お父さんに大口を叩いて勝ちを宣言した手前、勝敗を決めるのはお父さんとお母さんであることを今更ながらに思い出して、私は勝てたのかなという不安と戦いでの緊張の糸が切れたことによる安堵やらで、足がプルプルしていた腑抜けの私の耳に聞こえたのはお父さんからの私への勝利宣言だった。
「よ、良かった。ありがとお父さん。私ギリギリでのお父さんの腰へのパンチだったから大丈夫かなって不安だったんだよ」
「ちゃんと大丈夫だったから安心してねリニナ。二人の様子を見ていたけど、最後はちゃんとリニナが勝っていたんだから。良く最後まで諦めずに頑張ったわねリニナ。お母さん見てて感動しちゃった」
「お母さんもありがとう。お母さんが見ていてくれたお陰で私もしっかりと今出せる力を出しきることが出来たと思うから」
お母さんが作って持ってきてくれたお昼のお弁当を美味しいお弁当をありがとうと伝えてから食べた後、模擬戦で使った場所の地面を整えたり、粉々になった使い終わった魔法封石を一つ一つ片付けたりして、私達は家へと模擬戦での反省やたわいもない雑談をしながら、家へと戻った。
家へと戻った私はお父さん、お母さんと一緒に夜に食べる夕御飯を作った。自然と三人で作る流れになっていて、私は二人との時間を大切に感じながら夕御飯を作っていった。
「「「いただきます」」」
「リニナ、改めておめでとう。リニナがここまで立派に成長してくれたことがお父さんは嬉しいよ」
「ありがとうお父さん」
「マハトの言うとおり、リニナがここまで立派に大きくなってくれたことがお母さんも嬉しいわ。でもね、今の状態で旅に出るのは私もマハトも心配なの。だからねリニナ、お父さんとお母さんがリニナに家を出るお祝いとして幾つか物を用意したから受け取ってくれる?受け取ってくれたら私もマハトも安心してリニナを見送ることができると思うの」
そう言って笑ったお母さんの顔には受け取らない選択肢はないわよねという圧が籠められていた。
私としても二人からの贈り物を受け取らない選択肢はないし、その気持ちだけでも嬉しかったからちゃんと心から感謝してもらうことにした。
「ありがとうお父さんお母さん!!私大切に二人からの贈り物を使わせてもらうね」
そう言って貰った木箱はしっかりと封がされていて何が入っているのか楽しみになった。
「お母さん、お父さん、早速開けてみてもいいかな?」
「「うん、開けてみて」」
木箱の結びを解いて蓋を開けるとそこには沢山の道具や服が入っていた。
「多分だけどリニナ、旅に出るための条件であった模擬戦の準備に多くの時間を費やしていたんじゃないかな?日々の暮らしのために必要な物の準備が不足していると思ったからお父さんが仕事の合間に調達したり、勝手に抜け出して調達しといたよ。万全ではないと思うけど少しでもリニナの旅の手助けになってほしいと思ってね。僕も若い時に生活必需品で苦労したから。」
「ありがとうお父さん。そしてお母さんも。大事に使わせてもらうね。でも情けないな。自分から旅に出るって言ったのに結局頼ってしまってるし。」
「リニナはまだ10歳だ。僕達からしたらリニナはまだまだ子供なんだよ。だから堂々と自分だけの力で解決できないと思ったら、遠慮無く頼って良いんだよ。分かった?」
「うん、わかった。私は本当に二人の子どもに生まれてこれて良かったよ。本当にありがとうお父さんお母さん。二人の子どもになれて私は幸せだよ。愛しています二人とも」
「こちらこそありがとうリニナ。生まれてきてくれて、立派に大きくなってくれてありがとう。お父さんも二人を愛してる」
「私も二人のことを愛してる。リニナ、生まれてきてくれてありがとう。あっという間の十年間だったわ。本当にここ十年は時間の流れを早く感じた。リニナは楽しかった?私は初めての子育てで大変だったことも多かったけれど、とても楽しかったわ。ありがとうリニナ。」
「私だって二人と過ごした日々は本当に本当に楽しかった。私、二人の子どもになれたこと誇りに思ってる」
「ありがとうリニナ。明日には行くんだね?」
「そうだね。今日の内に荷物の整理をして肩掛け鞄に入れるものと時空間魔法の収納に入れるものに分けて入れておこうかなって」
「分かったよ。お父さんとお母さんからの贈り物をしっかりと確認して、自分の頭で考えて準備してみるといいよ。明日の朝に確認するからリニナは安心して準備してね。リニナには悪いとは思ってるし早く準備に取り掛からせてあげたいところだけど、後少しだけお父さんの話を聞いてほしい」
「分かったよお父さん」
お母さんが夕食の片付けをする音だけが響く中でお父さんが話し始める。
「前にリニナが話してくれたことだけど旅に出たら冒険者になりたいって言ってたよね?」
「そうだね。そう言ったけど、何か問題があるのかな?」
「普通の人間の場合なら何の問題もないんだけどね。リニナも私もユヒィナも人間から見れば等しく魔族として扱われる。相手の性格とか価値観とか日々の行動に関係なく、等しく僕らは嫌われていることはリニナも知っているね。嫌われるだけの理由は確かにあるのだけど今の話しには関係ないからそのことには触れずに話すよ。僕達と人間の間にはどうしようもない溝があるんだ。例え姿を偽って人間のような見た目になって過ごしたとしても正体がばれてしまったらそこでの生活は崩れてなくなってしまう。昔から冒険者になって過ごそうとする魔族はいたんだ。その中で多くの魔族が正体がばれて殺された。あの時よりは少しずつ状況が落ち着いてきたけれど、今でも恐らくばれたらただでは済まないと思う。だからリニナには悪いことをすると思うけど冒険者登録はしないでほしい。この通り頼むよ」
そう言ってお父さんは腰を折って私に頭を下げてお願いをした。前に二人に向かって私、冒険者になりたいって言ったことが二人のことを深く傷付けていたんだね。ほんとにごめんなさい。迂闊だった。良く考えれば分かることなのに。あーあほんとに嫌になる自分が。今の私は本当にクズだ。まだまだ私がクズから卒業できる時は果てしなく遠いらしい。最悪だ。一番なりたくない人間に危うくなるところだった。あの時に決めたのにな。こいつらだけにはならないって。なりたくないって。後でちゃんと自分のやってしまったことは反省しよう。お父さんは悪くはないし、私は半吸血鬼に生まれたことに後悔はない。だから私の答えは元から決まっていた。
「お父さん、お父さんは何も悪くないからさ顔を上げてよ。私は二人の元に生まれたことを後悔してない。だからいくらお父さんだとしても世界の情勢が私達に厳しいからといって、悪くないのに頭を下げないでほしい。私にとっては自慢の両親なんだよ。誇りに思ってるし、二人のことを心から大切に思っているんだよ私は!だからさそんなに申し訳ない顔しないでよ」
「ありがとうリニナ!!そうだね、今の行いはリニナからしたら私達への侮辱でしかなかったね。これからは気を付けるよ」
「分かってくれて良かったよお父さん。そんなことよりさっきの話の続きをしようよ」
「さっきも言ったけど冒険者になることはできないんだ。でも何もギルドに冒険者登録をしていないからといって冒険者になれないということはないんだ。どんな町や村にもギルド以外の動物や魔物の解体を専門とする解体屋があるんだ。ギルドよりもはお金を貰うことはできないけれど、ここならお客の素性を詮索されることもないし、町の人に魔族だとばれる危険性も減る。そして一定のお金も稼げる。薬草は薬剤師に売ることもできる。ギルドに入ることで貰える身分証明書の代わりにいちいち町に入る度に通行料と身分の証明をするための手数料もかかる。その分も込みでお金を多めに木箱の中に入れておいたから後で確認しておいてほしい。後、普段使いの剣はなるべく早めに買ってほしいんだ。木箱に入っているのは魔王領で作られた剣だから剣の性能には自信がある。だけどもし使っている所を見られたら分かる人には分かってしまい捕まるから。いざというときの切り札としてあげた剣は使ってほしい。これでお父さんからの話はおしまい。どうしようもない状況になってしまったらお父さんがあげたブレスレットに魔力を注いでね。何があっても必ず守るから」
「ありがとうお父さん。いざというときに頼れる所があることが改めて解ったから、安心して過ごせそうだよ。おやすみなさいお母さん、お父さん。また明日!!」
「「お休みリニナ」」
次の日
「おはようお父さん、お母さん!」
「「おはようリニナ」」
「取り敢えず朝御飯出来てるからみんなで食べましょ」
「そうだね、ユヒィナ。まずは食べよう」
「「「いただきます」」」
ご飯を食べ終わった私達は少しゆっくりと過ごしてから家の外へと出ていた。
「もう行くんだねリニナ。確か旅の一端の終わりは北の大陸タリタリア大陸の魔王領なんだよね?」
「その予定だよお父さん。それがどうかしたの?」
「どうもしないよ。ただお父さんとお母さんから一つだけ課題を出そうと思ってね」
そう言ってお父さんは私の頭を優しく大きな手で優しく撫でながらこう言った。
「僕達は魔王領でこれから暮らしているからさ。必ず、必ず無事にお父さんとお母さんが待っている魔王領まで来なさい。どれだけ時間がかかっても良いから。幸い吸血鬼は寿命が長いんだ。だから安心してリニナのペースで僕達の所に来なさい。それが僕達からリニナに贈る課題だよ」
「う、うん、必ず、必ずさ、会いに行くから、ま、待っていてね。お父さん、お、お母さん心の底から愛してます。後これ頑張って作ったから受け取ってほしい。」
お別れの挨拶を告げながら私は二人に感謝の気持ちを籠めた贈り物を送った。泣きながら渡すことになったのは予定外だったけど。魔石で作ったペンダント。気に入ってくれたら嬉しいな。
「「リニナ、行ってらっしゃい!!」」
「行ってきます!!!!」
泣かないで家を出ようと決意していたはずだったけどやっぱり無理だった。だってしょうがないじゃん。それくらいあの家と、お父さんとお母さんのことを愛しているんだから。
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