第10話 VS マハト戦
「おはようお父さん、お母さん!」
「おはようリニナ。ゆっくり眠れたかい?」
「おはようリニナ。元気そうで良かったわ」
「ゆっくり眠れたよお父さん。あと確かに今日は模擬戦があるから緊張はしているけど、一応元気だよ」
「模擬戦はご飯を食べて、少しゆっくりした後でやるとしよう。それでいいかなリニナ?」
「もちろんいいよお父さん。お父さん、模擬戦をする場所は私が決めてもいいかな?」
「もちろんだよ。リニナのための模擬戦なんだからリニナが好きな場所を選んで良いんだからね。場所はもう決まっているのかい?」
「うん。前にお父さんに無属性魔法を教えてもらった場所にしたよ。いつも私が魔法の練習をしている場所だよ」
「分かったよ。取り敢えずみんな揃ったし、ご飯にしようか」
「「「いただきます!」」」
「お母さんいつもありがとう。今日も美味しいよ。」
「ありがとうリニナ。いつもリニナは美味しそうに食べてくれるから見ていて気持ちが良いわ」
「それだけお母さんの料理は美味しいからね」
お母さんが作ってくれた朝ご飯を食べ終わった私たちは私が勝手に名付けて呼んでいる修行場にやって来た。
「ここがいつもリニナが修行をしている場所なんだね。ここで良いんだね?」
「いいよお父さんここで。ここが私にとっては第二の家と言えるくらいには過ごしてきた場所だから。お父さんを迎え撃つのにふさわしい最高の場所だよ。」
私が模擬戦の場所に選んだのは、森の中にある木々に周りが囲まれている少し開けた場所だ。
「分かったよリニナ。じゃあ改めてルールの確認をしよう。まず、リニナの勝利条件はお父さんに一撃を与えること。お父さんの勝利条件はリニナの攻撃を一度も喰らわずに耐えきる。もしくはリニナを三分間戦闘不能の状態にする。リニナに対して攻撃をこちらからはしない。そして制限時間は一時間。これで良いかいリニナ?」
「うん大丈夫。」
できる限りの準備はしてきたんだ。一ヶ月間の準備の力をマハトにぶつけてあっと言わせてやる。
「準備はいいようだね。それじゃあ始め!!」
お父さんが模擬戦の開始の合図を宣言するのと同時に、私は時空間魔法の収納から細かいさらさらとした手触りの砂の入った砂袋を取り出して、袋の口を開けておもいっきり中身を空へとぶちまける。大量の砂が宙を舞うなか、私はマハトに向かって強風を吹かせて一時的にマハトの視界を遮ろうとする。砂を纏った風がマハトの視界を遮るのをチラッと確認して、私は次の作戦へと行動を開始する。あらかじめ準備していた魔法を【属性付与】で付与した魔石、長いから魔法封石と今から呼ぼう。魔法封石を収納から取り出して少量の魔力を込めて、私がもといた位置へ向けて投げる。地面に転がって止まった魔法封石が一瞬ピカっと光って魔石が砕け散った。そして私が現れた。魔法封石を使いたい時は少しの魔力を込めることで魔法が発動するのはこの一ヶ月間の間に確認済みだ。私がこの一ヶ月間で準備した魔法封石は今まで私が倒したゴブ達と、準備期間中に倒したゴブの魔石をもとに作り出した数は合わせて100個。この数を用意するのに相当の時間がかかったんだ。その分しっかりと働いてくれよ魔法封石達!!
「最初に視界を奪って確実に隙を作ろうとする。お父さんは良い案だと思うよリニナ。」
私がお父さんの視界が一時的に奪われている間に、木々が繁る茂みのなかに逃げ込んで、身代わりを設置し終えた時、お父さんの視界はもとに戻ったようだ。お父さんには私が正面に佇んでいるように見えていることだろう。むしろ見えてくれてないとほんとに困る。今使った魔法は私が死を司る鳥を完成させた後に思いついて作った魔法。その名もリニナ流分身の術!毒人形の見た目は私そっくりだ。でも色は紫色で統一されている。そこで干渉魔法を使って見た目を私と同じに見えるようにしちゃえば分身体を作れるんじゃないの?という思い付きから始まったこの魔法。喋れないし、複雑な命令を実行することもできない。でも、それでも、誰もが一度は描く自分の分身を作りたいという夢を私は叶えられて嬉しいけどね。ちゃんと満足です。ちなみにいくらでも分身は作れる。作るのにものすごく時間と魔力は必要だけどね。
分身1号に命じたのはとにかく毒魔法を分身の保有魔力がなくなるまでマハトに放ち続けること。この隙に私はマハトにばれないよう音をたてないようにしながら匍匐前進で移動する。移動がしやすいように昨日ここら辺一帯の落ち葉や枝等の音が鳴りそうなものを予め除去しといてほんとに良かった。
マハトの声や魔法を避けるときの足音らしきものが聞こえてくるからまだばれてないと思う。今のうちにマハトを囲うように魔法封石に込められている分身達を茂みの中に設置していこう。今回のために作っておいた分身は合計十一体。マハトの相手をするのに一体。囲っているのが七体。私と一緒に戦うのが二体。潜伏するのが一体。
全ての分身を配置した私は次の段階に入る。
ちょうど分身一号がマハトに捕えられたようで、マハトの【血液操作】によって作られた網に捕まって
グルグル巻きにされて地面に転がっていた。お疲れ様。おまえは良くやったよ。
少し気を抜いたであろう今がチャンス!私は収納から取り出した魔法封石に魔力を注ぐ。それと同時に模擬戦を行う場所を重点的に予め至るところに埋めておいた魔法封石58個分の魔法がマハトを襲う。仕込んだ魔法は毒触手×10、猛毒魔法によりさらに毒性が向上した死を司る鳥×48(今回は相手がマハトのため毒無し)となっている。58個の魔石と今私が魔力を込めた魔法封石は時空間魔法のゲートで他の魔法封石と繋がっていて、魔力を込めることで一斉にゲートで繋げておいた魔法封石に魔力が行き渡って魔法が発動する仕組みだ。毒触手は今起こった物量で一撃を与える作戦が失敗したときにマハトを足止めするために、死を司る鳥は魔法封石一つにつき十羽の魔力鳥が入っているから合計480羽の魔力鳥という物量で一撃を与えるために。多くの場合、物量はだいだいの問題を解決する。これ私の自論です。果たしてうまくいったかな?
土煙が晴れた後、マハトの居たところには大きな血でできた球体があった。判断が早すぎる。恐らく当たっていない。仕方ないや、これで終わればいいなと思っていたけれどそう簡単にはいかないらしい。
お父さんがお父さんへと伸びる毒触手を根本から全て切り落として処理しているのを見ながら、私はタイミングを見極めて
「分身9号、10号行け!」
9号、10号に合図をするのと同時に茂みから出てマハトに向かって走る。走りながら収納から左手で魔法封石20個入りの袋を取り出して、マハトに向けて袋に入っている魔石に十分魔力が届くように魔力をしっかり込めてから投げつける。右手には稽古で使った木刀を握ってマハトに向かって分身9号、10号と共に同時に三方向から木刀で斬りかかる。さすがに三つの方向からの攻撃を避けるのは難しいはず。さらに死を司る鳥(毒無し)20発を剣を避けながら向かってくる魔力鳥200羽を当たらずに逃げ切るのは困難だと思う。私にはできない。
投げつけた袋を柔らかくした血液のクッションを作り受け止めたマハトが三方向からの攻撃と袋から出始めている魔力鳥達を見て、「転移」と呟いた。
マハトがそう言うのと同時に三つの木刀の攻撃が空を切る。
「惜しかったねリニナ。これで終わりだ」
声のした方へと振り向いた私の目に写ったのは、マハトの手から出た大量の血で作られた網が私の目の前に広がっている光景だった。
ドテ。網でグルグル巻きにされた私と分身9号、10号は土の上に転がされていた。網の強度が強くて破って抜け出せそうもない。マハトは私たちが逃げ出さないかすぐ隣で三分間を計ることができる砂時計を地面に置いて、時間を確認しながら見張っている。
そろそろかな。
私が首を傾けてマハトの方を見ると、分身2号~8号がマハトに向かって木刀でマハトを牽制してじわじわと包囲しながらマハトを追い詰めようとしていた。さすがに七体からの攻撃を囲まれているなか避けるのはあのスキルを使わないと難しい。
「蝙蝠化」
スキルを使い無数の蝙蝠へとマハトの体は姿を変え、包囲網からマハトは脱出した。そして姿をもとに戻したマハトは分身体の2号~8号を一網打尽に血で出来た網で拘束する。
私が今回の模擬戦でマハトを鑑定して厄介だと思ったスキルは二つ。時空間魔法の転移と吸血鬼の種族固有スキル【蝙蝠化】だ。どちらも攻撃から逃れるのに便利なスキルであり、この二つのスキルが使える限りはどんな攻撃でも確実に当たらないから、この二つが使えない状況を作り出さないと私の勝利は無かった。
ありがたいことにどちらのスキルも、一度使ったら再使用までに少しの時間がかかるという欠点があった。だから私はこの二つのスキルが使えない状況を作り出した。マハトを私の分身達が包囲している隙に、最後の分身11号が茂みの近くまで転がって近寄った私の手と足に巻き付いている部分の網をナイフで切ってくれた。網自体は外していないから私の拘束が外れたことをマハトは知らない。そしてまだ分身が残っていることも。
「拘束して一安心したと思わせたところを複数の分身体を使っての奇襲。お父さんビックリしたよ。リニナがここまで考えて作戦を無事に成功させたんだから。でもあと三十秒位で僕の勝ちだ。リニナ降参したらどうだい?」
マハトはたくさん転がっている分身がいる中、迷わず本物の私の所まで来て近くに置いてある砂時計へ視線を向け、確認しながらそう言った。恐らくマハトも私と同じでスキルの鑑定を持っているからそれで私の位置が分かったのだろう。
「まだ勝負は終わっていないよお父さん!!」
私がそう言うのと同時に私からマハトの背後の茂みへと移動していた分身11号がマハトへと大きな足音をたてながら向かう。マハトが後ろへと完全に振り向いて11号へと意識が向いた所を、私は網が体に絡まったままの姿でお父さんの腰へと抱きついて腰に弱めのパンチを一発お見舞いしてやった。
「私の勝ちだね、お父さん」
こうして私とお父さんの模擬戦は幕を閉じた。




