第9話 旅立ちの準備
私が転生してからあとだいたい一ヶ月で10歳の誕生日を迎える。私がこの世界に転生してからもうすぐ十年が経つのか。速いもんだな。ヨボじいは元気にヨボヨボ過ごしているのかな。そうだといいな。色々なことを学んできた。お父さんとお母さんからは、解体やちょっとした薬の作り方。剣の振り方や弓を使った矢の飛ばし方も教わった。私は毒魔法を極めたり、干渉魔法で遊んだり。自分で一からオリジナルの魔法を作ったり。初めての戦闘でゴブリンヘ向けて使った毒魔法を私もくらって共倒れしたりもしたっけ。よくよく考えてみたら私は第二の家族との触れ合いが少なかったと気づいた。つい魔法に夢中になっちゃって。だから死を司る鳥を完成させてからは家族との時間を大切にした。もちろん喧嘩をしたこともあった。でもどれだけ私のことを愛してくれているのかがユヒィナとマハトの言動から伝わってくる。その度に私は本当にこの人たちの子供でよかったなと思うのだ。前世でも現世でも本当にいい両親と巡り会えることができて、本当にありがたいとただただ思ってる。
私が今年の誕生日を迎えて少ししたら、家を一度飛び出して外の世界で過ごしたいという私の意思を二人には伝えてはいる。とはいえやっぱり早いのかな?旅に出て冒険者になろうとするのは。不安がないと言ったらそれは嘘になる。私だってもうすぐこの世界に来て十年が経つ。この世界の事も多少は分かっているつもりだ。この世界が私にとっては、いや私たち人外にとっては厳しい世界なのは知っている。人外の種族は幾つかのグループに分けられている。魔物の身体的特徴を一部持っている魔人族。
最強の生物と言われている龍の特徴を持っている龍人族。獣の耳と尻尾が生えている見た目は人と同じな獣人族。人間から魔の物ヘと堕ちたもの達から生まれたとされている悪魔や吸血鬼、鬼人などの人魔族。そして人間と友好的な立場であるエルフ族やドワーフ族。ちなみに人魔族は人間から魔の物ヘと堕ちたもの達の子孫をまとめた呼び方だ。
とにかく大まかではあるけど人外のグループ分けはこんな感じ。そして魔人族や人魔族は人間からまとめて魔族と呼ばれ、敵対されている。獣人族は敵対されるとまではいかないけれど、人間から下に見られることが多い。悲しいけれど、奴隷として扱われているなかで二番目に奴隷として出回っているのが獣人族だ。一番多いのは人間。この事実に闇を感じてしまうのは私だけではないと思いたい。こんな制度無くなってしまえばいいのに。本当にそう思う。
この世界の種族の分布としては、魔族のほとんどは北の大陸タリタリア大陸で暮らしていて、獣人族や龍人族は南の大陸ヤハトン大陸で暮らしている。そして人族は東のルナール大陸、西にあるサンドイチ大陸、そして私が暮らしている中央に位置するマスタンヤ大陸で暮らしている。私はサリアに会いたいのと、お父さんが働いている魔王城がどんなところか気になるという理由から、取り敢えず北の大陸に行くことを旅の目的のひとつにしようと考えてる。
私は気ままにぶらりぶらりとあっちこっちで過ごしながらの旅が好きではあるけど、何も目的地がないのもなんか嫌だからね。一つ大まかな指針を決めといて、あとはその場その場のいいなと思ったことをやる。そんな旅がしたい。そんな自称自由人の私に適している職業は危険はあるけれど稼ぎがよく、尚且つ国を越えての旅ができる上に、身分を保証することができる。これらの理由から私は冒険者になろうと考えた。危険はあるけど冒険者になることでのメリットもでかい。私にはこれしかない。自分で納得できる職業はこれしかない。大事なことだと思うので二回言ってみた。幸いにも、両親のお陰で自衛できるくらいの剣の腕はあると思うし。両親とゴブと動物との経験しかないから断言できないけれど。
危なくなったとしてもとにかく毒を撃ちまくればなんとかなるとは思うし。毒が完全に効かない生物はこの世にはいないと信じたい。ファンタジーだから居ないとは言いきれないところが不安。少なくとも前世では私が知る限りはいなかった時空間魔法の収納に食料をたんまりと注ぎ込んどけば餓死の可能性はあまり無いだろうし。なんとかやっていけると思いたい。ゴブを倒す度に一要回収してたチビ魔石を売れば冒険者になるための初期費用はもらえるだろう。時空間魔法の収納に魔石を取ったらすぐ入れてたから正確な数は分からないけど、多分100はあるはず。何でさっきから曖昧な事しか言えてないかだって?分かんないんだよ。冒険者になるために必要なお金と手順。あと、町へと入る時の手数料。だって私、この世界に生まれてこの方生まれ育ったスラム街から出たこと無いもん。しょうがないじゃん。
怖かったんだよ。お父さんとお母さんからもし吸血鬼、延いては魔族であることが人間達にばれたらどうなるかについて聞いたらさ怖くなっちゃうよ。良くて街から追放されて(追放という名の命がけの逃走)の指名手配。最悪その場での処刑。他にも拷問された上に他の魔族への見せしめとして、人間達への魔族への認識を維持するための処刑。手足を切断し反撃できないような状態にしてからの、奴隷にするための儀式をして、逆らえないようにする。その後に仲間の場所を吐かせたり、魔力を魔道具ヘと絞り出すためだけの道具として扱ったりなど。とてもじゃないけど聞いたときは耐えられずに吐いてしまった。内容が生々しすぎて。魔族にだって悪いやつはいると思う。それは人間だってそう。でもさ、私の両親の様に優しい人たちもいると思う。だって私はお父さんとお母さんが人の血を吸ったところを見たことない。きっと人に命を狙われたことがあったはずなのに。自分達からは命は奪わないと。魔族の為に自分の命を使いたい。だからこの命は復讐のためには使わないと。お父さんに聞いたことがあった。魔族の暮らしはどんな感じなのと?お父さんが話してくれた北の大陸での魔族の暮らしは農作物を作る人がいたり、商品を売る行商人がいたり、家を建てる大工さんがいたりと種族関係なく助け合って過ごしてるって。子供が集まって追いかけっこして遊んだり、お祭りは街で暮らすみんなで総出で準備をして、みんなで楽しむんだって。
私はその話を聞いて嬉しくなった。行ってみたいとも思った。そして変えたいと思った。今の魔族への人間達の意識を少しでもよいものにしたいと。魔族には悪い奴だけでなくいい奴らも居るんだぞって。だって悔しいから。強烈な凝り固まった印象だけで、私の大切な家族が悪く思われる。そんなの嫌だ。だから私は冒険者になりたい。冒険者になって有名になってたくさんの困っている人を助けて、そして私は吸血鬼だって言ったときに恐れる人がほんの少しでも減っている。そんな夢のような未来をつくりたい。それが私の細やかな小さな夢だ。
とはいえまずは冒険者にならないと始まらないけどね。私が旅に出る条件として、お父さんとの模擬戦で勝つことがある。お父さんに一度だけでいいから攻撃を与えるというのが私の勝利条件。そしてお父さんは私の攻撃を当たること無く耐えきる、もしくは私を三分間戦闘不能の状態にすることで勝ちという、私にとってはありがたいルールだ。これだけのハンデを負っているお父さんにも私が勝てる勝率は五分五分だと思う。それくらいにはお父さんは強い。
お父さん曰く、リニナが外に出ても大丈夫と言えるほどの実力があるかを見極めるためと言っていた。後でお母さんにその事を伝えたところ、お母さんはこう言っていた。『おそらくリニナとまだ一緒に居たいんでしょうね。マハトは仕事の都合上あまりリニナと過ごせていないから、リニナにいなくなってほしくない。でもリニナの考えも尊重したい。二つの想いの葛藤の末で行き着いた答えだと思うから、リニナが良かったらだけどマハトとの模擬戦を受けてほしいな。私もリニナがどれくらい戦えるのか気になるから。でも無理だけはしないでね。』
さすがお父さんの最大の理解者と言えるお母さんだ。私の図りきれないお父さんの意図まで汲み取れるとはすごい。
私はお父さんとの模擬戦に向けた準備と、家を出ていく時にお父さんとお母さんに感謝の気持ちを込めてプレゼントを贈りたいと考えているからその準備もしよう。
私がプレゼントにしようと思ったのは、魔石を使ったペンダント。私には宝石を使って作られた宝飾品を買えるほどのお金がない。そもそも値段も売っている場所も知らないしね。それからあまりプレゼントに費やせる時間がない。具体的にはあと一ヶ月くらいしか時間がない。やばい。だから私は頭を捻って考えた。一日くらい悩んで思い付いたのがこの案だ。でもただの魔石ペンダントだと駄目だと思う。なんかこう二人への私の気持ちはこんなものなのかと私が思ってしまうから。そんなわけ無い。私の二人ヘの想いはこの程度じゃない。そこで私は私の想いを物理的に魔石にも魔法を使って込めることにした。前に魔石に試しに魔力を込めてみたことがあった。でも魔法を込めたことは無かったから、魔法入り魔石ペンダントを作ろう。形にも力を入れたい。魔石の大きさはゴブリンから手に入れた魔石だから大きさは小さい。サイズは大きい奴で500円玉ぐらい。でもいいんだ。大事なのはいかに贈るものに気持ちを込めるかだ。もう会えないけど前世でのお母さんが私に言ってくれた言葉がある。『夏美、母さん嬉しいよ。夏美はきっとたくさん悩んで悩み抜いた末に私にプレゼントを渡してくれたんでしょ。母さんは夏美が真剣にお母さんに喜んでほしい、そう考えてプレゼントを選んでくれたことが嬉しいの。夏美、母さんはね、大事なのはプレゼントの価値ではなく、相手への思いがどれほど込められてるかだと思うの。』とのこと。
私も相手に私自身の相手への気持ちを表す一つの形がプレゼントだと思う。しっかり妥協しないで今できる最高のペンダントを作ろう。
(それから一ヶ月後)
あっという間に一ヶ月が経ってしまった。夢中になって物事に取り組んでいると時間があっという間に過ぎ去ってることってよくありますよね。あれです。やりきった。やれることは全部やった。ペンダントも作ったし模擬戦の準備もした。勝てるかは分からない。前に剣の稽古をした時も一度も体に当てることができなかった。お父さんいやの強さの果てが見えない。それでも挑んで勝ちたい。そして証明したいんだ。私は変わったんだぞって事を。もう前とは違うってことを。精一杯いざ挑もう。
次回 VSマハト戦
お楽しみに!!




