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2-6 食事会と眷属契約

重苦しい雰囲気も説明回パートもここで終わりです

食べているのはビーフシチューのイメージ

「お待たせ、料理ができたわよ」

「ご主人さま、おかえりなさい!」

「レンカ、顔色が悪いわよ。師匠、余計な話はしていないでしょうね? 意地悪したらいくら師匠でも容赦しないわよ」

 

 リーザベルがべレイクスに指摘する。元師匠が相手だというのに強気であり、冷静でもあった。

 

「君の説明不足を解消したまでだ。特に不必要なことはしていないな」

「あらそう。ならいいけれど」 


 ベレイクスが言いかけたところで、リーザベルが鍋を運んでテーブルに乗せてきた。談話室の中や廊下にまで瞬く間によく煮込まれた具材の香りが漂ってくる。

 料理とは不思議なもので、そのほかほかした香りだけで先ほどまでの寂寞感が消えていくようだ。いくら生存に食事は必要ないといっても、やはり何かしらのシチュエーションに合わせてあった方がいいに違いない。丁度今のように。

 鍋からシチューを深皿に分けていく。それから深皿からスプーンですくい、口に運ぶ。


「これは美味しいです!」

「それは良かったわね。作って良かったというものよ」

「腕を上げたかな?」

「少しね。念のためシトニに何度も味見してもらったわ」

 

 何種類もの野菜と牛肉、そして香草をはじめとした調味料が熟成されたであろうそれは絶品の一言に尽きる。具材は丁寧に煮込まれ、口に運んだ途端ルーの深みが口いっぱいに広がっていく。

 野菜にしても食べやすいサイズで調整されており、特有の苦みは一切なく取り除かれている。

 レンカから見たリーザベルは、その気になれば料理でもできるだろうという主観だったが、名門の貴族令嬢がここまで料理の腕があるとは感心する他ない。

 食事会もその後片付けも済んだ後、先に口を開いたのはリーザベルだった。


「レンカ、私と眷属契約して眷属にならない?」


 眷属契約、という単語に眉を上げて反応したのは話しかけられたレンカだけではなく、紅茶を淹れていたベレイクスもだ。それでもベレイクスは口を挟まない。 


「眷属って何ですか? ご主人さまと私がしている契約とは別種なんですよね」

「眷属とは従者のようなものであり、互いに強固な、何人にも破られない関係を築く契約よ。私とレンカとの契約は願いを叶えることを前提とした主従契約。願いが叶った今も継続いえ永続されているわ。そして既存の契約は私的なものだけど、私の場合は眷属契約したら公的なものとなる事情があるのよ。だからお披露目する必要が出てくるわ」

「なるほど……固い結びつきになるのは分かりましたけど、ご主人さまに利点はあるのですか? あまりないように見えます」

「私にもあるし、レンカにもあるわ。まずごく僅かな魔力で互いに召喚を気軽にしやすくなるというのは大きいかしらね。つまりレンカと私が離れていてもすぐに、何度でも呼び出せる。そして眷属と主人で魔力を融通しあえる。そして眷属は従者のようなものと言ったでしょう? 数を誇示して競いたがる連中にとって分かりやすい指標というわけ。私の場合、家を継いだら領民全員が眷属も同然だから大っぴらにしてこなかった事情があるわね」


 眷属。それは人界に流通している魔女の知識では知り得ないもの。続きの解説を聞けば獣だった者もやがて眷属契約を交わすという。

 契約の重さを考えるとあまりにも唐突すぎる提案だが、話を振られたレンカは驚愕と歓喜を隠せずにいた。眷属になれば主人の膨大な魔力の恩恵にあずかれる。そうすれば今まで行使できなかったより高度な魔術も使えるようになるだろう。


「それなら是非、ご主人さまの眷属になりたいです! 私は新参の悪魔ですけど……」

「新参なんて名乗れるのは今のうちだけで百年、千年なんてあっという間よ。それからシトニにも眷属契約を持ち掛ける予定でいる。私付きのメイドになってそれなりに経つし、褒美のようなものと考えているわ」

「私とシトニで一気に二人も増えますね!」

「そうね。今のところレンカとシトニでいいわ。というわけでベレイクス卿、頼みがあるわ」

「その話からするに、私が立会人を務めるだけでいいのか?」

「大いに結構。ベレイクス卿にこれを任せるつもりで来たのだから」

「そういうところ、誰に似たのやら。良し、決まったなら始めようか」

「——!」


 早速儀式を始めるらしい。ベレイクスが指先で空中に四方形を描くと、料理の残り香が漂う食卓が置かれた食堂から一気に何もない空間へと3人で移動していた。

 河川に大地や草木といった自然はないが、呼吸はできる。そもそも呼吸そのものが必要ないらしい。

 

「ここはどこなんですか?」

「私が異界構築の魔術で造った空間だ」

「ベレイクス師匠が見せびらかすために使ったようなものよ」

「そんなつもりは一切——」

「ともかくレンカにもいずれ伝授するわ。結構簡単だったし覚えると楽よ?」

「リーザベル卿の言う簡単を信用するな、レンカ」

「はい? そりゃまあ高度な魔術だというのは私でも分かりますし簡単じゃないですよね!」

「そうだ。そして儀式は翼を出して行うものだ。翼を出した状態が正式な姿だからな」

「えぇいいわ」


 リーザベルは即座に翼を出す。広大な空間であってもその身の丈よりも携えてあるその漆黒の翼はいつ見ても壮麗だ。見とれていたレンカも慌てて小ぶりな翼を出す。


「ヴェルクローデン=リーザベル。汝の誓いの言葉を」

「我が名においてレンカを眷属にせん。この誓いと契約は永遠に互いを結び魂に刻まれる。“至高”の呼び名にかけて」

「続いてレンカ、汝の誓いの言葉を」

「えぇっと、私レンカはヴェルクローデン=リーザベルご主人様を永遠の主人として未来永劫従者にあり続けます。この誓いを血と魂に刻みます」

「それでは両名、互いに魔力を注ぎ込んで」

 

 リーザベルとレンカは目を閉じ手の平を合わせ、互いに互いの魔力を注ぎ込む。

 リーザベルから絶え間なく流れてくる魔力は膨大で、レンカの器からこぼれそうになる。

 増水した河川という域を遥かに超越している。これではまるで海どころか世界中の水を集めた量と同等ではないか。それが滾々と湧き出るのだから。

 

 ——―あぁ、そうか。

 ―——ご主人様の魔力は単に膨大ではなくて、無限に湧くのか。

 

 事ここに至ってレンカはようやく、主人の凄まじさの片鱗を知った。 

 自分はなんて悪魔と契約したのか——―


「完了したわ。これでレンカは晴れて私の第一眷属よ」

「ありがとうございます!これでご主人様をより身近に感じられますね」

「儀式が完了したようで何より。しかしレンカ、最古の名門貴族のヴェルクローデンの令嬢、そして”至高”の大悪魔とも呼ばれている著名人。そんなリーザベル卿の眷属ともなれば影響力は計り知れないね」

「ご主人様って、大悪魔のお一人だったんですか!? いえ、凄まじい魔力と知識をお持ちの方ですし不思議ではないけど」

「レンカ、そこのべレイクス卿も大悪魔の一人よ。私より先、最初に列せられたわ」

「ベレイクス様もですか!?」

「そうだよ。ちなみに私も大悪魔のうちの一人だ。大悪魔というのは冥界に唯一存在する称号で、いくつかの条件を満たした者に贈られるものだ」


 レンカはこの場にいる二人がどちらも大悪魔であると聞いて、驚嘆の感情が隠せないでいた。しかし同時に納得した。そうでもなければ理解できない、埒外の絶対的存在なのだ。


 冥界における大悪魔とは、冥界において唯一無二、永久に与えられる最大の栄誉を持つ称号である。

 厳しい条件を満たすことになるが得てしまえばたとえ一般の市民であっても、冥界に住まう悪魔達を統べる冥魔帝と貴族の間の地位を持つことになる。社交界に堂々と顔を出せるようになるのだ。


「主に我々の職務は主上より貸し与えられた二つの領土を管理することだ。つまり領主になることを意味している」

「二つの領土ですか?」


 一つは冥界における領土。但し元より領地を持つ貴族は与えられない。既に領土を保有しているヴェルクローデン家の令嬢たるリーザベルは自ずと自領を継承にすることが決まっている。過去に当主であったベレイクスも同様だ。

 そしてもう一つの領地とは——


「人界の土地の支配だ。人間達の財産は全部私達のものだ」

「人間の土地ですか、意外です! 人間の土地を本当に管理しているのは皆さんなんですね」

「腐敗し民を苦しめる貴族を始めとする者達をあらゆる手段で、民の何倍も苦しめては潰してきたのよ。民まで駄目なら年齢に関係なく国ごと葬り去った。勿論魂ももれなく獲ってね。それは人間共の集団が村や町、そして国となってから繰り返されてきたわ。腐敗する要因はいくらでも存在するからキリがなかった。所詮は土塊(つちくれ)の考えることなど限られているということ。そして私の場合は私的に、魔女と術師への支援をしてきた」


 冥界においては悪魔と契約し、魔術を行使する魔女と術師の存在を疑問視している勢力が一定数存在するという。魔術を悪魔だけの財産と、あるいは資産とする見方をすぃている勢力だ。しかし大悪魔であるリーザベルは堂々と支援ができるという寸法だ。


「私が統治することになった人界の土地は腐敗していた。そこでも魔術に縋る魔女や術師がいる——あなたのようにね、レンカ」

「——え」

ここまでお読みいただきありがとうございました!

腰をやってしまいました 

ちょいと更新はお休みです

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