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2-2 約束と小旅行

レンカのお披露目パーティーの開催が決定された

パーティーなど未経験だが、当日までいくつも準備ができるのであった


「それで、これからどうするつもりなのか訊いてもいいかい? レンカの社交界デビューに協力したいという私の出来心が働いてしまってやや過労気味なんだ」

「レンカには話していないことが沢山あるからこれから買い物をして手土産を確保し、べレイクス卿に会いに行くわ。仕立て屋に出向きたいし新しいドレスも早ければ二日で出来上がるわ」

「ドレスの方は問題なしか。ベレイクス卿……となると遠いヴェルクローデンの当主で、貴女の師匠だったね。あの御仁なら問題ないだろう」 

「その方がご主人さまのお師匠さまですか?」

「そうよ、どうしてもレンカに会わせたい人物の一人なのよ」


 自然と流れで出てくる社交界デビューという単語に凍り付いてしまうがそうしている場合ではないらしい。これから買い物をし会いに向かう者の名は、ヴェルクローデン=べレイクスという。


「ベレイクス様って、ご主人さまの一族なんですよね?」

「そう。私から見て高祖父……相当前の元当主で、今は別邸で隠居している。そしてアルヴィの言う通り私の魔術の師匠でもあるわ」


 主人の年齢を詳しくは聞いていない。そもそも永劫の時間を生き続ける種族なのだから、邪推するだけ無粋というものだ。……いずれこっそりと知ることとなるのだろう。

 人間にはない翼も角も生えているというのに自分がその同胞となったことはいまだ実感がない。強いて言うならば魂を口にしたくらいか。

 十年とわずかしか過ごしておらずまだ百年も遠いのだが、気付けば千年すらも通り過ぎるのだろう。

 ——―遠い時間の果てに想いを馳せてみる。

 そのとき、自分はそれなりの魔女、そして悪魔になれているだろうか。

 それも含めて不安になっているのかもしれない。それならそれで主人であるリーザベルに相談してみよう。それから会うであろうベレイクスにも相談してみよう。


「それでレンカは今、リーザベル嬢のところにいるのかな?」

「某っと考え事してました済みません! そうです。この服もご主人さまが用意してくれたものなんです」

「そうね、今後もレンカには基本私と一緒に行動して貰うつもりよ。第二都市だし不便はないと思うわ」


 そのうち第一都市に案内するわと締めくくる。


「アルヴィ、そろそろ時間ではなくて?」


 喫茶店の壁時計が朝の3時過ぎを指している。


「おや、楽しい時間というのは過ぎるのが風のように早い。それではお暇するよ。リーザベル嬢、レンカ」

 紅茶のカップと皿を空にしたアルヴィベリトはそう挨拶すると優雅に店を後にし、翼を広げ飛び去っていった。後にはリーザベルとレンカが残される。


「私達も行きましょうか」

「はい、ご主人さま。ここの喫茶店とてもよかったです!」

「そうね。また来ましょう」


 会計はリーザベルとアルヴィベリトが割り勘定で支払ってくれた。来た時と同じように翼で飛んで2階の喫茶店から降り、建物から外に出る。

 そのままベレイクスへの手土産にとお菓子を買いに行く流れになった。


「クッキーが好きなのよ。それにしましょう」

「はい! 手土産は良いですね」 

「いらっしゃいませ」


 クッキーの専門店に足を踏み入れると店員の挨拶とともに途端に甘い香りが漂う。干した果物を生地に混ぜたもの、チョコレートチップの混ざったものなどがガラス瓶に詰まって展示されており、思わず目移りしてしまうくらいには品ぞろえも豊富だ。

 数ある中から果物の混ざったクッキーを選び、会計を済ませる。


「ベレイクス様、喜んでくれますよね?」

「えぇ、その点は心配ないから。さて、移動よ」


店を出てそのまま駅まで向かう。ベレイクスの邸宅へは、馬車で向かうこととなった。馬車ではなくとも瞬時で移動できる術も存在しておりリーザベルが使えるとのことが、挨拶をする前にレンカとする必要のある話があるということでそうなった。

 駅周辺にも様々な店があり、行き先へ向かう市民でごった返していた。中にはドレスをまとった貴族らしき人もいる。 


「お客様、2名様ですね。……ご予約の確認が完了いたしました。出立の準備が整ってございます」

「待たせたわね。乗るわよ、レンカ」

 既に荷馬車に荷物が積んである。レンカが持ってきた手帖も何となく手放せなくて持ってきている。 

「飛行馬車に乗るのですよね? ご主人さまは慣れていますか?」

「慣れているしかなり便利よ? 防水機能に防風機能もかけてあるし丈夫だわ。といっても強風が吹かないよう術で制御しているけれどね」

「それなら安心です!」

「それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」

「行ってきますー!」  


 レンカが駅員に手を振り、程なくして飛行馬車が浮き上がる。馬車内の乗り心地は驚くほど快適だった。揺れも一切感じず、朝食にしても器から料理がはみ出たり紅茶がカップから零れることもない。


「ベレイクス様ってご主人さまの血縁者でしたよね。えーっと、高祖父にあたる方でしたっけ?」

「そうよ。会えば分かると思うわ。ただしいつもの外見は成人ではないのよ。どうもその姿が気に入っているらしくて少なくとも数千年以上はあの姿だと、母様も言っていたわ。ちなみに成長……外見の変化はある程度年数を重ねると留まるわ。ちなみに老人の外見にする者なんてほとんどいないわ。何せ動きにくいもの。翼で空を飛ぶのも一苦労だから私はしない」

「なるほど。今の外見の方が動きやすそうですね」


 リーザベルの言によればいつも少年の姿をしているとのこと。外見年齢を変える魔術はやや高度であり、多くは高等学院を卒業した者が使えるとのこと。実年齢はあまり気にしない方がいいのだろう。


「その、高等学院って何ですか?」

「そうそう、レンカは知らなかったわね」


 ……リーザベルの説明によれば。

 まず市民でも貴族でも関わらず誰でも通う義務のある初等学院っていう学び舎があり、そこで魔術の基礎、社会の成り立ち、商品の値段の計算など生活する上で必要な知識を学び蓄えるという。

 初等学院さえ卒業してしまえばそこで必要な教育は終わり、社会に出ることが許される。

 そこから先、更なる魔術の高みを目指したい者、更なる商人への道を開きたい者、つまるところ更なる勉学を積みたい者が通うのが高等学院であるとのこと。


「初等学院も高等学院も学び甲斐があったわ。魔術のせいで高等学院はつい長居してしまったほどよ。レンカには知識があるけど、通ってみる?」

「機会があればですかねー。やっぱり悪魔の皆さんの方が魔術を使った技術が発達していて驚きの連続です!」

「ふふふっ、他にも技術はあるから今度紹介するから楽しみにしていて頂戴。レンカならきっと出来るわ」

「はい! ご期待に応えてみせます」

「卒業後も高等学院は出入り自由だから、いつか落ち着いたら連れて行ってあげるわ。貴女は私の契約者だとかそれ以前に弟子なのよ?」


 学院への通学は保留になったが、魔術の知識はこれから学んでいけばいいとの方針になった。何よりレンカは主人から直接教えを請う立場にいるのだ。

 それに、時間もたっぷりある。残り時間を気にする必要もない。一体、どれだけの術の資料がこの世界に溢れているのか。

 ――想像しただけで魂の震える感覚を覚える。

 自分は限界だと思っていたが、召喚および契約でそれは大きく変わった。

 ただ、未熟者である今をいつまでも忘れないでいようと思えた。主人の弟子だからと威張ることなく、地道に学んでいく方が自分の方針に合っている。

 飲灰洗胃ものの騒動を引き起こすなど御免被る。

 ……今の体に、胃なんて臓器が健在なのか今一つ実感できないから分からないけれど。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

ちょっとした会話文のみですが更新です


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