6ー2 魂だけ味わっていていいの?
今回は間接的な残酷描写が含まれています
苦手な方はご注意ください
副題通り血を飲む方向性になっていますが別に種族が変わったわけではないです
魂を食べる他に新たな趣味嗜好が加わっただけだと思ってください
「ところでレンカ殿。貴女はリーザベル卿の弟子でもあると聞いていますが、実際いかほどの魔術を行使できるのですか? 参考までに聞いておきたい。かつて住んでいた村が教団に狙われているという今回の主題においても重要ではないですか?」
「そのことですか! 訊かれたので答えますよ」
ゼブタイトはレンカと魔術の腕比べをしたいだとかそういうつもりでその質問を投げかけたわけではないらしい。ただの雑談で取り扱う話題のようで。
レンカとしてはそれが雑談であっても主人リーザベルの弟子でもある立場を利用して主人の知る限りの術を習って使いこなしてみたい。
「……ゼブタイト卿。私はまだまだ未熟ですが、それでも飛行の作法くらいは心構えがあります」
「ふむ。飛行を魔術に入れるのは少し問題があるとします。がしかし良しとしましょう。他には?」
しまった。翼を使った飛行はあまりにも初歩の初歩過ぎた。この世界で歩行と飛行はほぼ同義だ。
じくじくと今にも言葉と一緒に突き刺さってきそうなゼブタイトの視線が痛い。
初めて翼を広げて飛行した時の風の爽快感は今でも鮮明に思い出せるが、ここでそれを語ると元人間だと露見してしまう。それは非常にまずいのではないか。だが。
――それならば。それこそイレーユに立会人となってもらい使ってみせたアレがあるではないか。
「 他にはイレーユ様にも見せた異空間構築でしょうか。きちんと使えましたよ」
「……何と! 貴女は未成年者だと聞いていますが、まさかそれほどまでとは思いませんでした。どうやら小生は新参の弟子だと侮っていたようですね」
「ゼブタイト卿、私が新参の弟子なのは本当だし。それに使えたのはほぼほぼご主人様の教えが良かったのと、魔力を供給してもらったっていうのもあると思いますよ」
レンカ自身の魔力量では絶対に扱えなかった術式。レンカの―人間の観測可能な知識の外にある―それはゼブタイトの反応を見るに、寿命や病に縛られることなく魔術の研究が盛んな冥界であっても行使できる術者が限られているようだ。
「それでも、構築できたといっても小規模でしたよ。さらの上位にあるって聞いた異界構築なんてまだ先の話なんじゃないかなって思います。あとは自分の到達したことのある場所への遠見ですかねー」
「謙遜は不要です、レンカ殿。小生も異界構築まで可能ではありますが、きちんと使えるようになったのはごく最近、数百年前のこと。イレーユ嬢が証人ならば信じるとしましょう」
「ありがとうございます!」
自分の何倍も生き続けている大貴族の当主から称賛された。それでも、リーザベル達最初に出会った人達から褒めてもらった方が嬉しく感じるのはここだけの話。
「……ところでリーザベル卿、事前に打ち合わせしておいた例の件に移りたいのですが、宜しいですか? 次の冥界学会に提出しようとしているところまで進んでいます」
「構わないわ。私も直接意見を聞いてみたかったのよ」
なんだかんだ和やかだった場の雰囲気が手土産だという魂を事もなげに口にしているゼブタイトからの発言で一気に変わる。
リーザベルは突然話を振られても、ティーカップから口元を離し冷静沈着に応えた。
温度は変わっていない。常に一定のそれが使用人達の調整によって保たれているからだ。
……この空気は感じ取ったことがある。まるで何でもないことのごとく蹂躙あるいは搾取するように人間の魂をお菓子と評した、ルーノディアナと話していた時のそれである。明るい彼女と話していて楽しいのは確かなのだが。
――そう。人界にいた時では感じられない空気。元人間のレンカにはまだ早い、甘やかで深く冥い闇の雰囲気。
ここは、今は場違いだからとか理由をつけて立ち去りたい。
「あの私、別の部屋に移動しますね! 冥界学会というのもよく分からないけど、私には関係ありませんよね? 聞いちゃダメな話題ですよね?」
「小生は一向に構いません。レンカ殿のように幼き少女からの視点というのも必要ではありませんか? 時には冥界学会に属していない者の感想が欲しいのです」
血について聴講者から意見を聞く場面もあるから、と。
「私も別にレンカがいてもいいわ。レンカ、これは貴女がこの世界に慣れる為の訓練だとでも思いなさい。発言してもいいし、したくなくば私達の話を聞いているだけで良い」
「……分かりました。魔術を学ぶ身である以上はこれからその冥界学会にもお世話になるかもしれないし、聞きます」
そのリーザベルの言葉を要約するなら『この場から立ち去ることは許されない』だった。
ならばせめて、余計な発言を横から挟まなければいい。
「人間の魂と血液の味が似ている、という提言だったわね。それを公開するということは実際に試したのかしら?」
「無論です、リーザベル卿。かのべレイクス卿の調査により、人間の魂が食用になると判明して以来、残った血肉は全て処分してきました。商人の立場を利用させてもらい、生きた人間を狩人に捕獲させては冥界で痛めつけ、飽きた頃に魂を抜き取り残り物に価値はないと、そう伝えられ信じてきたので処分しました。ですが、ふとある考えが浮かびました。肉は食べられたものではないと。しかし、血液ならば?」
…
……
………
それはゼブタイト卿が公務の合間にある有閑な時間を割いて行われる、人間への拷問と言う趣味の実行をしていたある日。
法も何も人間の扱いを尊重しろとは書かれていない。ただ、残った肉体を冥界の土に埋めるなと定められているだけ。
口枷を付けられながらも叫ぼうとする人間の首筋に浮かび上がっている血管が目に入った。
肉は不味いどころの話ではないが、血液を試しに飲んでみたならば、どのような味わいなのだろうか。
『スクハ、その人間から血液を抜き取ってください。手段は何でも構いません。そしてそれを小生に味わわせてください』
『……はい、畏まりました、お館様。この件は他の大悪魔の方々に報告いたしますか?』
『べレイクス卿に話しても一笑に付されるでしょうが、リーザベル卿ならばこの実験に賛同していただけるでしょう。まずは試飲してからです。さあ、急いで抜き取るのです。一滴たりとも残さず、慎重に新鮮なものを味わいたい』
…
……
………
ゼブタイトは自身の経験談をリーザベルに語った。高祖父たるべレイクス卿までもが水端の大悪魔だという、自分より先に大悪魔に列せられた至高なる存在。
冥界の絶対君主たる冥魔帝によってこの三名は三域大魔公などと称され、主上の代理者とも呼ばれるようになり冥界の領土のみならず人界をも現在にわたって支配、統治している。
「それで、肝心の味はどうだったのかしら。それは個人の好みによるというものにでもする?」
「詳細は冥界学会で提出する論文にて記しますが結論から言えばほとんど似ている、というのが小生の感想です」
「……そう。それが本当ならば私達は美味な飲み物を肉や骨ごと焼いて灰にしていたということになるわ」
「こちらとしても今までどうして血液にまで目を向けないで来たのか判りかねます。ですが、そうなっては一層人間の市場価値が上がってしまうでしょう。魂と血液、セットで取引されることになるでしょう」
「市場価値、ねぇ。人間共の肉体の更なる有効活用だと思えばある程度の変動は仕方ないわ。放っておけば自分達の住む世界の自然を汚し尽くした、そして手遅れになってから右往左往するだけの、二足歩行が特技だけの家畜連中に新たなる価値が生まれたと素直に喜ぶべきね」
「えぇ、ですから今回お越しいただいたほんのお礼として、リーザベル卿に新鮮な人間の血を味わっていただきたい」
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