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4-2 リオクの誓い

久し振りの更新です!

パーティーはもう始まっています

「人間の集団が、悪魔は鏡に映らないって偽の情報を流していたのよ。ただそれだけの話だわ、ルーノ」 

「ふーん、へーえ。人間って面白いこと考えるのね。それじゃ、私は特等席に行くわ。リーザとレンカはどうする?」

「私は来客に個人的な用があるから会いに行くわ」

「私は特に何もないので、ルーノ様の側にいます!」


 そう二人に問いかけるルーノディアナの目は笑っていない。種族に対する無用な謗りが許容できないのだ。


「リーザが用事? いいわ。一緒に行きましょう、レンカ」

「はい、よろしくお願いしますねルーノ様」


 この本邸の構造は知り尽くしているらしく、迷わない足取りでルーノディアナはレンカの手を取ると引っ張ってどんどん進んでいく。

 パーティー会場の特等席へは特別な通路があるようで、途中で勤務中のメイドともほとんどすれ違わわないままにたどり着いた。


「どう? なかなか豪勢でしょ?」

「わぁ……! シャンデリアがまぶしいです! お客さんもたくさんいます」


 特等席に着くなりメイドがつき、グラスにジュースが注がれる。やや小さめのテーブルには既に振る舞われている料理の数々が出来立てのまま並べられている。

 目下の大広間では様々な角に飾りをつけ、ドレスや礼装で着飾った客人の数々が視認できる。

 どれだけの格の客が来ても、主人には敵わないだろう。レンカには謎の自信があった。 

  

「ジュースもおいしいです!」

「そうねー。このお菓子好きだわー」

 …

……

………

 二人が茶菓子とディナーを堪能している間。

 リーザベルは自身の着ているドレスを誤認させる魔術を用い、地味な客人の一人と扮して会場の中にいた。

 あの家には間違いなく招待状を出した。きっと息子が来ているはずだ。

 

「しっかし豪勢なパーティーだ。流石はヴェルクローデン家といったところか? ひぇー、料理のランクが違うぜ。というわけでたっぷり食べていくとするか」


 聞き覚えのある声がする。そこだ。用事のある彼がそこにいる。

 

「あら、パーティーが苦手と噂が立てられているところのじゃない。お久しぶりね、リオク坊ちゃん」


 パーティー用の礼服に身を包んだ、肩に届かない長さの朱と茶の混じった髪色をした青年がそこにいた。パーティーには不慣れらしく大勢の来客に戸惑いを隠せないのか辺りを見回している。髪の隙間から覘く一対の角は赤黒い。

 ころころとよく動く朱色の双眸はアルヴィベリトのように知的なものではなく、どちらかといえば外見年齢相応の溌溂な青年といった体。すっと通った鼻筋、よく動きそうな口元。

 一対の角と横に尖った耳、そして今は仕舞っている翼さえなければ冥界の住人、悪魔、まして貴族の子弟には見えないだろうといった軽妙な軽口でも叩いているような話し方、態度。

 しかしその青年こそバスティカ=リオク。冥界における南方の名家バスティカ家の嫡男である。但し名家と言ってもその仲間入りをして数千年しか経っていないような家柄ではあるが、幾度か顔を合わせて会話した経験はある。 

見かけたリーザベルはリオクに近づき、挨拶がてら声をかける。


「おっと、これはリーザベル卿じゃないか! 久しぶりだなー。主催がこうも早く姿を現すとは思ってなかったからよ、驚いちまった」

「そんなつもりはなかったのだけれど、まあいいわ。招待状を送った甲斐があったというものよ」

「そう言ってもらえるとは光栄だ――ってまたか」


 リオクはパーティー会場のあちこちで響き渡る賓客達の話し声が聞こえなくなったのに気付き、周囲を見回し語尾を上げる。

 何の苦労もせずリーザベルが異界構築ではなくとも異空間構築の魔術を一瞬で行使したのだ。よってこの空間には二人しかいない。一度発動させてしまえばいかなる魔術であっても外部からの侵入などによる介入は実質不可能となっている。

 異界構築・異空間構築の術者はそれだけで誰よりも優位に立てるのだ。

 返答次第ではリオクを閉じ込めるつもりだ。


「お得意だなー、それ。俺は最初から最後まで理解できなかったけどな、あっはは!」

「……少なくともそれは自慢するように語るものではないわ。明け透けに話すのもその程度にしておきなさい」


 秒より遥かに短い合間に大魔術を難なく行使してみせたリーザベルは事も無げに話すが、魔術の才能に関しては平凡も同然なリオクにとって理解の外でしかなく、再び驚愕せざるを得なかった。

 しかしこの状況になった理由はそれなりにあるだろうと察することはできる。どうやら空気は読める方らしい。


「あーそうかい。そーいう意見もありますよねっと。本当に魔術の才能は俺にはないからなー。平凡だと世間の目が痛くて敵わないぜ」

「バスティカ家の貴方が? 確かにあまりそういった噂は耳にしないけれども。何か心当たりは?」 

「あー、魔術の授業の時寝てたかもしんない。家庭教師はそれなりだったのに、学院の教師が本当に頭硬くて話も退屈だしで――って怖ろしい顔しないでくれって、リーザベル卿」

「運が悪かったとしか言い様がないわ。それなら今度覚えるまで教授してあげましょうか? 時間ならほぼほぼ無限にあるし、基礎からでも構わない。貴方、魔力量はそれなりにあるのよ。あとは慣れね」

「はいよ、その時はよろしくお願いしますっと」

「真面目に聞くといい。それはともかく貴方に話があるのよ。先に言っておくと世間話ではないわ」

「ほほー、リーザベル卿の話なら耳を澄まして聞かなきゃな。ってことは他の奴に聞かれたくない内容ってことだよな? どんと何でも来てくれ。協力は惜しまない」

「そうね。では短く単刀直入に言うわ。私の眷属に手出しをしないで頂戴」

「おいおい、それが掟で禁じられているってことぐらい、授業中寝てた俺でも知っているぜ」


 招待客も大ホールに入りつつあり、リーザベルの眷属のお披露目はもう少しで始まる。リオクはどのような眷属なのか全く知らないのだ。

 他の眷属に手を出してはならない。それは冥界に住まう悪魔達にとって広く知られている掟の一つだ。今更、わざわざ習得が困難な大魔術まで行使して話し合う内容ではない。それでもやはりそれ相応の事情があるのだろう、とリオクは何となくだが察した。


「そうでしょうね。いえ、そういうことではないのよ。私の眷属、レンカに手を出さないで頂戴」

「レンカ、かぁ。まだ見ていないけどさぞ可憐な少女なんだろうなー。ちなみにどこの学院の出身なんだ?」

「どこの学院も出ていないわ。そもそも彼女は私を主人として契約した魔女よ」

「魔女だって!? ってことは元人間ってことだよ、な? そうか、元は人間か――」

「だからその部分を今は隠し通して欲しいのよ。いずれ領民にも話すべき時が来るでしょうけれど今は、ね」

「――えーと、リーザベル卿は魔女擁護派閥の筆頭だっけ? そんで後ろ盾にあのべレイクス卿がいるって」

「きちんと把握しているじゃない」

 

 リオクは目の前の人物から発せられている内容に驚愕が隠せないでいた。魔女、つまりは元人間だということの何よりの証左だ。 

 そのように短命で少しの魔術しか扱えない存在と、冥界において至高と呼ばれる大悪魔リーザベルが契約した。

 リオクはかかない冷や汗をかいた気がした。それからしないはずの寒気がし、しばらく何と返事するべきなのか考えることができず喋れなくなっていた。

 それよりもリオクが派閥について知っていた事実がリーザベルにとって驚きだった。

 派閥というものを理解していないような青年というのがリーザベルの認識である。

 しかしそうでもなかった。

 べレイクス卿が協力している時点で立ち向かう気力はない。


「わかった。リーザベル卿とそのレンカに誓うよ。その秘密はリーザベル卿がいいと言うまで明かさない。協力させてもらうぜ」

「物分かりがよくて助かるわ。それが貴方の美点でしょう、だから頼んだのよ。ちなみにシトニも第二眷属にしたから」

「シトニってリーザベル卿付きのメイドだろ!? そっか、リーザベル卿のメイドは長年仕えているからなぁ。いや、誰を眷属にするのかすでに選んでいたってことか。はー、俺も考える時期が来てるようだぜ」

「そういうことよ。リオク、貴方の眷属のお披露目が今から楽しみだわ、ふふっ。ぜひその時は私とレンカも招待して頂戴」

「お、おう……お手柔らかに」

 

 その会話を最後に断絶された空間は解除され、元の何も変哲もなくあちらこちらから歓談が聞こえるパーティー会場へと戻っていた。


「あれ? リーザベル卿はどこに行ったんだ?」


 あれだけ紫紺の髪とドレスで目立つであろうリーザベルの姿も、他の客人に紛れて見えなくなっていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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