3-4 シトニの眷属契約
メイドのシトニも眷属契約をします
とはいえちょくちょく出番のあるサブキャラであることに変わりはないです
「お風呂気持ちよかったですー」
「それは良かった。今のうちに言っておくけどドレスに着替える前にもう一度入ってもらうわ」
「ありゃー、そういえばそうでした。でも楽しみにしておきます」
入浴を終えてリーザベルとレンカは邸にあったサイズの合う服に着替えていた。次に何をしようかと思い悩んでいたレンカだったが。
「レンカは客間でお茶を楽しんでいて頂戴。私はやることがあるわ」
「分かりました。では行ってきますね。行ってらっしゃいませ、ご主人様」
主人とは別行動となることが決まり、レンカはシトニとは別のメイドに案内され客間に移動していった。
リーザベルは久しぶりの本邸の自室に転移する。部屋の主は長らく不在だったが、きちんと清掃がされており不快感は一切感じ取れない。
一式のテーブルセットとソファ、本棚と研究用の机が置かれている。
「お嬢様、お茶が入りました」
「丁度良いわね。いただくとしましょう」
部屋で待機していたシトニが紅茶を淹れる。卓上の、淹れたての紅茶が注がれたティーカップは二つ分。一つはリーザベルの分であるが、もう一つはレンカの分ではない。
「シトニ、貴女に話があるのよ」
「はいお嬢様、何なりとお伺いします!」
「シトニ、貴女を私の第二の眷属とするわ。私と契約しましょう」
「お、お嬢様それは、レンカさんと同じ立場にして頂けるということではないですか!? 私がお嬢様の眷属になれるんですか!?」
主人の衝撃的な発言にシトニは持っていた銀の盆を取り落としそうになる。もう片方の手でそれは何とか防げたが。
長い冥界の歴史に於いても、主人がメイドなどといった使用人を眷属にした事例はない。ましてやリーザベルほどの大悪魔ともなれば。しかし、主人が誰を眷属にするのかは自由なのである。
「そうよ。無論メイドとしての仕事は続けてもらうわ。これは長年私に仕えてくれた功績よ。悪い話ではないでしょう?」
「勿論ですお嬢様、謹んで喜んでお受けいたします!」
「だ、そうよ。来ているんでしょうルーノ?」
「来たわよー。私が立会人ということでいいのかしらー?」
「ルーノディアナ様! いらっしゃいませ、よろしくお願いいたしますね」
程よく華美なドレスへと着替えたルーノディアナがリーザベルの自室に転移していた。
シトニは銀の盆をテーブルに置き、リーザベルの目前に静かに跪く。
「では主人ヴェルクローデン=リーザベルよ。誓いの言の葉を」
「我が名においてコーセ・シトニを眷属にせん。この誓いと契約は永遠に互いを結び魂に刻む。“至高”の呼び名にかけて」
「続いて眷属シトニよ。続けて誓いの言の葉を」
「私コーセ・シトニはヴェルクローデン=リーザベルお嬢様を永遠の主人とし、未来永劫侍女として仕え続けます。この誓いを血と魂に刻みます」
リーザベルは詠唱をシトニの頭部に手をかざし、自身からすれば微小な、それでもシトニにしてみれば膨大な魔力を送る。送られた魔力はシトニの体から魂へと侵入し、永続する契約を刻み込む。
あたり一面に膨大な魔力の奔流が溢れ出すが、一瞬にして消え去った。
「リーザ、シトニ、終わったわよ」
「ありがとう、ルーノ」
「此度は立会人ありがとうございます、ルーノディアナ様! そして改めてよろしくお願いしますね、お嬢様」
「いえいえー。これくらいはお安い御用よ」
「シトニ、今後とも頼むわよ。紅茶を淹れて」
「かしこまりました!」
リーザベルに命じられ、シトニは紅茶を淹れにいく。ルーノディアナはリーザベルの隣に座り、テーブルに置かれたクッキーを摘まんで紅茶を待つことにした。
「それで? パーティーが始まるまで私はここで紅茶を飲んでいればいいのかしら?」
「それでもいいけれど……まだやることがあるのよ。少しの間でいいから観察して欲しいわ」
「観察? リーザの頼みなら何でもいいわよ」
「召喚術式起動——ゼグ」
「お呼びですかい、お嬢様」
リーザベルが口を開き、簡易な詠唱をすると冴えない髪色に冴えない双眸をした青年が召喚された。先日強制的に契約を結んだゼグであり、こうして本邸の一室に召喚された。周囲を見回しているゼグは眉根を寄せており、どことなく顔色も悪い。片膝をつきながらも左手で胸部を押さえている。
「お嬢様の術、まーだ魂が痛いんですが?」
「存分に痛めつける用途だからそれでいいのよ、罪を犯した貴方にはピッタリだわ。そうそう、貴方に用があるわ。しばらくそこにいなさい」
「はいはいっと。本当に恐ろしいお嬢様だ」
魂に干渉する術式をこうも容易く操るとは至高の大悪魔である彼女はやはり只者ではない。ただ椅子に座して金髪の友人と思しき人物と紅茶を飲んでいるだけだというのに威圧感すら感じるのは決して気のせいではない。
リーザベルと契約を交わしたことで雇われの狩人となったゼグはヴェルクローデン家の当主でありリーザベルの実父たるヴェルクローデン=ジャンテリオンが雇用主ではあるものの、実際に主導権を握っているのは契約上の主人であるリーザベルである。
だからこうして、事あるごとに名前を呼んで召喚に応じざるを得ない存在となった。
ゼグの立場はレンカやシトニのような眷属ではなく、厳密的には使い魔が正しい。使い魔が主人と茶席で同席などあり得ない事態である。マナーの通りゼグは椅子ではなく床に座し頭を低くし、ただ主人の命令を待つのみ。
単に私怨のみで罰を与えるだけなら誰にでもできる。しかし、リーザベルは違う。
――赫怒の念は消えることはないだろう、永遠に。
「この隅々まで抜かりのない豪華さ、流石は西の大家にして冥界貴族筆頭のヴェルクローデン家ってところか……。えっと、栄えあるヴェルクローデンの本邸にわざわざお招きいただきありがとうございます、お嬢様。俺に用ってことは、狩人としての仕事としてとらえていいんでしたっけ?」
「えぇそうよ。私とレンカ用に最低でも30個は集めて頂戴」
「30個なんてすぐですぜ。換算すると一つの小さな集落ってあたりか。もっともお嬢様の狙いは違うところにあるんだろうけど」
「えぇ、話が分かるじゃない、助かるわ。集落ではなく、都市の腐敗した人間の貴族連中の魂が欲しいのよ」
リーザベルが彼に一言命じれば、一晩で100ものの魂を持ってこさせるなど容易い。つまり、矮小な町一つ分が悪魔達の求める馳走として平らげられる。
ゼグに狩人としての才能があるのは確かだった。愚かな教鞭を振られ続けたゼグは苛まれ、冥界を疎み、人界を活動拠点とし独自で狩人を続けていた。自由ながらも狩人としての職務を全うしていたゼグに目を付け、契約を交わさせたのは誤りではなかった。
リーザベルはふと、以前にも誰かに仕えていたのではないかという考えを消去する。
リーザベルは空中にリストアップされた魔力で構成された用紙を浮かび上がらせ、ゼグに見せると丸めて優雅に渡す。そこには貴族達の名前と面相、住所などが羅列されていた。
ゼグはリストを上から下までじっくりと眺め、懐にしまう。
「こいつらですかい。いかにもそれっぽい感じだな。承りましたお嬢様、雇われてからの初仕事、見事に狩って見せますよっと」
「そうして頂戴。パーティーの時に摘まみたいから出来るだけ欲しいところね。可能でしょう?」
「出来ますよ、お任せくださいお嬢様」
「了解したならいいわ。都に転移させるから」
「人界に転移だって!? 本当に半端ねーなお嬢様は」
その場で片膝をついていたゼグはリーザベルの発言に驚愕を隠せない。転移そのものは簡易なものであればゼグでも使えるが、世界を跨いだ転移というのはゼグの魔術知識の埒外だ。そもそもそういう規模自体ゼグの発想にない。しかしリーザベルならば可能としているなのだろう。
それを何でもないことのように実行できるのだ。
「リストが終わったら好きなだけ狩りなさい」
「では行ってまいりますよ、お嬢様」
「狩人、行ってらっしゃいー!」
「友人様、その、ありがとうございます」
リーザベルはそれなりの魔力量で人界の都へと転移させ、ゼグは名も知らぬ主人の友人に挨拶をする。後にはリーザベルとルーノディアナ、シトニが残された。
「お嬢様、ルーノディアナ様、お茶が入りました」
「待ってたわー」
「そうして頂戴」
そこでシトニがタイミング良く紅茶をティーカップに注いでいく。淹れたての紅茶は狩人ゼグがいた頃の雰囲気を一変させ、和やかにさせてくれる。二人同時にカップに口をつけ、クッキーを摘まんでいた。
「ふーん、あの男がレンカを狙ったっていう無謀な狩人なのね。でも見込みはありそう。それで、リーザはちゃんと奴を痛めつけたのでしょ? ゼブタイト卿の拷問を参考にしたの?」
「ゼブタイト卿の拷問対象は人間だからゼグにやっても全く意味がないわ。魂を痛めつける魔術を開発したのよ」
「魂を痛めつけるですって!? 私の得意分野を更に発展させるなんて流石リーザベルね」
「いえいえ、私は趣味と実益を兼ねた魔術の研究をしているに過ぎないわ。それでも効果があったのだから上出来よ。ちなみにレンカは別室にいるわ。レンカは別に恐怖体験にはなっていないでしょうけれど念の為会わせないようにしたのよ」
「賢明な判断ね。またレンカとお茶会したいわー」
ルーノディアナは喜色満面でレンカとの再会を切望する。出会って間もないが、どうやら随分とお気に入りになったようだ。
「えぇいいわよ。レンカを呼んで、シトニ」
「はいお嬢様。レンカさんをお呼びしますね」
シトニはレンカを呼びにリーザベルの私室を出ていった。
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