ひねくれ頑固医師、幸せを感じる
本日更新、二話目です。
一話目、まだの方ご注意下さい。
アライダ一行が、ラルフの別邸に移ってきて一週間後、隣国で大きな動きがあった。
「ギュンター様が、療養施設に?」
大広間に集められた一同は、口々に驚きの声を上げた。
隣国から転移魔法で帰ってきたラルフは、交渉結果を報告した。
「そうだ、完全看護のいい病院らしい」と、付け加える。
「それに伴い、前当主は引退して、彼の従兄弟が当主を引き継いだ。新当主は慈善施設を段階的に解体する様だ。この国の施設も同様で、子どもたちは他の施設に振り分けられる。新当主は領地経営に専念するそうだ」
クニッゲ子爵家の動向を探らせていた者から、新当主が立ったと聞いて、ラルフはすぐに動いた。そして、アライダや使用人、子どもたちの保護したことを告げ、早急の対応を迫った。
「新当主が、アライダさんと前子爵の離婚届を役所に提出してくれた。使用人未払いの給金も、退職金付きで支払うそうだ。そして、アライダさんにも財産の一部を渡すと約束してくれた」
「本当に? 気前良くて怖いな……」
使用人の一人が、本音を零した。
「君は、察しが良いな。新当主から、条件を出された。金を受け取るなら、ギュンター・クニッゲ氏の噂に関して秘してほしいと。これからの子爵領のために配慮してほしいということだ」
「……」
それは、元クニッゲ子爵の罪を見逃してほしいということだった。
それを聞いた皆は、ざわざわと話していたが、受け入れる書類に全員サインした。
こうして、クニッゲ子爵家にかかわったことに決着をつけた。
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再開した診療が終わって、ヘムルートとモニカは診察室で紅茶を飲んでいた。ヘラは、今日は急ぎの用があり先に帰ってしまった。
「本当に、信じられません。こんな風に解決してしまうなんて……」
「ラルフのお陰だな。あいつは本当に有能だ」
半分はギュンター・クニッゲ氏の身から出た錆だが、情報を正確に掴み、新当主と交渉をしたのはラルフだ。手際が鮮やかすぎて、見事だった。
「どうして、ラルフ様もエリ様も先生も、ここまでしてくれるのですか?」
「それは……、モニカを大事に思っているからだよ」
モニカは、自分の中に居るエリーゼの存在を知らない。
「それだけで? 本当に?」
モニカは度々同じ質問をする。
無理もない、大人三人がかりで全力で構われて、疑問を持たない方がおかしい。
モニカに迫る危険を回避した今、エリーゼの話をするタイミングだと思った。
「ちょっと……話せるか?」
「はい」
「君に黙っていたことがある。聞いてくれる?」
ヘムルートが言うと、モニカはゆっくりと頷いた。
「モニカ、君の中には別人格がいる。その娘は、エリーゼという」
「エリーゼ……って……」
「エリのことだよ、彼女はエリーゼという名前なんだ。十五歳だったエリーゼの体を離れて、モニカの体に宿ったんだ。そして、彼女は君に知られない様に生きる助けになってきた」
「……」
「小さい頃から、不思議だとは思わなかったか? 君は、五歳で完璧に文字を理解し、計算もできた。普通の五歳の子どもは出来ないことだよ。先日はダンスも上手に踊れた。全部、エリーゼが君が困らない様に、手助けしていたからだ」
「私は、残念ながら君の中のエリーゼと話したことはない。でも、エリはエリーゼと直接話したらしい。モニカは、感じたことはないか? 自分の中の優しい存在に……」
「そう言われると、眠っている間、ずっと話を聞いている夢を見ています。あの声は、エリーゼさんだったのでしょうか……。それに、初めてする物事に出会った時も、やり方がすぐに分かったりして。……あれも、エリーゼさんのお陰だったのですね。不思議で、でも、辛い時にずっと気配があって……」
「うん、それがエリーゼだよ」
「エリーゼさんは、先生の大事な人?」
「そうだね、告白して、しっかりフラれたけど」
「……」
「そんな悲しい顔をしないでよ。もう、気持ちの整理はつけた」
「でも、エリーゼさんが私の中にいたから、私をずっと助けようと思ったんですよね?」
モニカは、絞り出すように悲しげな声で言った。
エリーゼに嫉妬している反応は、ヘムルートを喜ばせた。
「モニカ、それは違う。私が君を助けた理由は、君が大事だからだ。絶対離れたくないから、一番近くにいるために、自分が幸せになるためにしたことだ」
「え?」
「モニカ、愛している」
「うそ……」
「嘘じゃない。ずっと、気持ちに蓋をしてきたけど、多分最初に出会った時から特別だった」
「先生と出会った時、私、五歳ですよ? 本当に?」
「自覚がなかっただけで、最初からずっと特別だったと今では言える! ちょっと、恥ずかしいな……、いい年をしたおっさんの告白は」
二十五歳差の思い出話は、本当にヤバイ香りしかしない。
しかし、誤魔化さず全部伝えるのだ。間違いなくモニカに向くこの思いを。
「嫌なら、すっぱりと振ってくれ! 頼む」
しまいに自棄になった口調になってしまい、ムード台無しな告白になってしまった。
カッコ悪くても、これが私だ。
飾らない思いが、届けばいい。
「先生こそ、私で良いんですか?」
「当たり前だ、良いに決まっている」
「ずっと、私は先生に相応しくないと思っていました。子供だし、孤児だし、母は娼婦で、父が誰かも知らないし……。先生は昔からカッコ良くて、良い寄ってくる女の人が沢山いて、私が選ばれるわけないと思っていました」
「うん」
「私だって、先生の一番になりたかったです。でも、再会した先生は相変わらずモテていて、私なんて眼中にも入れてもらえないって、思い知らされて……」
「ん? それは、どこでそう思った? モテてないぞ、この頃は」
「気づいてないだけですよ! 私もヘラさんも、先生への誘いを断ってます! 何度も、何度も! いい寄られて、適当に遊んでいるかもねって、ヘラさんから聞きました!!」
「ちょっ……何それ。ヘラさん、何てこと言うんだ……」
濡れ衣を着せられて、不快感極まりない。
「適当に遊ぶなんて……、絶対にしてないよ!!」
(若い頃は、除くが……)
「本当に?」
「神に誓う」
「……」
「こんなにざっくばらんに話したのは、初めてだな」
ヘムルートは思い出したように気づく。
再会してから、モニカと二人きりになる機会は、なかった。
「そうですね」
「君が、こんなにおしゃべりだとは思わなかったよ。こうやって話をするの、いいな」
「はい」
「で、モニカの気持ちは?」
モニカの態度で、嫌われてないと充分分かったが、やはり告白は声で聞きたいし、言われたいものだ。
「大好きです、先生」
照れ顔で言うモニカの顔が、溢れた涙でぼやける。
うれし涙が堪えられず、頬を伝って流れた。
情けない姿を見られたくなくて、モニカを胸の中に抱きしめた。
「モニカ、今、幸せだ。すごく」
ヘムルートの背中に、モニカが手を回して力を入れた。
抱きしめ返されて、心が心地よく満たされた。
「私も、幸せです」と、モニカがヘムルートの腕の中で呟いた。
モニカと一緒に生きたいという、ヘムルートの願いはきっと叶う。
もう一つは、エリーゼの願いを叶えること。
エリーゼは、モニカと人格統合することを望んでいたと聞いた。
エリーゼは、モニカが自分の思考にいつまでも引っ張られてほしくないと言っていたらしい。
今回、モニカにエリーゼの存在を知らせたことで、人格統合は進む。
それは、エリーゼとの完全な別れの時が来てしまうことと同義だ。
だが、その時、ヘムルートの隣にモニカがいてくれる。
そう思うと、不思議と怖くなくなった。
診察室で告る、ムード皆無のおっさん。
やっと、ここまでこぎつけました!
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いつも読んでいただき、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。




