酷い現実
エリ→ヘルトリング伯爵夫人
エリーゼ→モニカの一人格
モノローグ表現を今回から統一します。
よろしくお願いいたします。
誤字報告、ありがとうございました、訂正いたしました。
体調不良により、確認が遅くなり申し訳ございませんでした。
モニカが部屋で休んだのを見届けてから、エリはラルフの執務室へと足を運んだ。
扉をノックして声をかけると、「どうぞ」とラルフの声がした。
エリが執務室に入ると、ラルフは笑顔で迎えてくれた。
ラルフは手にしていた書類をまとめて机の上に置き、エリーゼに注目した。
「エリ、来ると思っていたよ」
「ラルフ様、色々と独断で決めてしまって、ごめんなさい」
「待て、今結界を――――」
ラルフは、いつものように消音付与した結界を部屋に張った。
そして、笑みを消して困った顔をした。
「本当にな! 慎重に進めようと言ったのに……。エリが初対面のモニカに同居を持ちかけるなんて、ヘムルートが不審がるのは無理ないと思ったぞ!」
室内温度が急激に下がった気がして、エリは青くなった。本気で怒る夫は、本当に怖いことをエリは知っている。
エリは、茶会前にラルフと二人きりになり、モニカの中のエリーゼの存在を知らせていた。その時に、彼に自重しろと言われていたのに、大暴走してしまった自覚はある。
「そうよね、あなたがモニカの滞在を賛成したから、ブラウン先生は引き下がってくれたのよね……、機転の利いた対応してくれてありがとう」
エリはしおらしい態度で礼を言った。
その様子に、ラルフは怒りを幾分か緩めた。
「私は、モニカがエリーゼの魂の持ち主だと聞いていたからな。君が執着するだろうと予想していた。それに、いつ覚醒するかしれん『妖精の愛し子』の候補だ。目の届くところにいてもらう方が、良いと思ったし……、いきなり同居で距離を詰めたのは、性急すぎる行動だとは思うが、概ねこれで良かったと思う」
諫めながらも、エリを肯定してくれるラルフは、器の大きい人だと思う。
彼は、何手も先を見据えて瞬時に判断できるすごい人だ。
「ところで、ヘラさんは、エリーゼのことを知っているのか?」
仕事の同僚であるヘラをモニカは一番頼りにしていた。
エリがどう対応したのか、ラルフは気になっていた。
「彼女には、エリーゼのことは一切話してないわ……、彼女はブラウン先生に近すぎるから、知らせないつもりよ。ただ、モニカはヘラさんを信頼しているみたいだから、モニカのことに関しては協力してもらうつもり……」
「そうか、あまりギフト持ちの情報は広めたくない。エリも、ヘラさんにばらさないように気を付けてくれ。もちろん、誰にも明かされないようにするように」
「ええ、わかったわ」
「それと、ラルフ様。モニカと二人きりになった時、あの子の中に居るエリーゼと話したの」
エリの予想外の報告に、ラルフは瞠目した。
「エリーゼと? ――――やはり、別人格で存在していたのか……」
「そうね、モニカが深い眠りについて意識を手放した時だけ、出て来れるといっていたわ……。ただし、今のところだけど」
「今のところ……とは……、この先の変化をエリーゼは察していると?」
「エリーゼは、自分はいずれ消える存在だと言ったわ。また、モニカの人格に必要以上に干渉しないようにしているとも……。モニカにエリーゼの存在を明かすつもりはないみたい。私が、このエリーゼの体に転生召喚して、エリーゼの魂をはじき出したあの時に、彼女は生を終えたと思ってほしいと……」
「主人格でない彼女の立場なら、そう考えなければいけないのかもしれないね。ヘルムートの奴はそれでも会いたいと思っているだろうが、知らせて会えたとしても、消えるのを見届けるだけなのは辛すぎることだな……」
ラルフは、ヘムルートの愛情の深さを知っている。酒を飲んで理性が緩むと、決まってエリーゼに会いたいと口走る。忘れられない思いを未だに抱え続けてよそ見することはない。
「うん、エリーゼは、ブラウン先生を愛しているから、実体のない自分の存在を知った彼が、また傷つくのを避けたいと思っているのよ。今日、私の前にエリーゼが出てきたのは、エリーゼの半身がもうこの世にいないと思ってほしいという願いを伝えるために出てきたって……。やっぱり、エリーゼは優しい子だわ。シュピーゲル家の家族のことも心配していたわ……」
エリは、魂が言っていた言葉を反芻しながら、ラルフに吐露した。涙がこみあげてきて、息が苦しくなった。
「『妖精の愛し子』の……ギフトの件も、エリーゼに伝えたけれど……、モニカに直接説明し直すように言われたわ。だから、モニカは自分の中にエリーゼの記憶があることは知らないのよ。もし、エリーゼの言う通り、エリーゼの魂が消えてしまったとしたら、モニカはギフト持ちではなくなるのか、そのへんは予想がつかないわ……」
「エリーゼを知らないモニカにはギフト持ちだと言えないな……。転移したエリーゼ本人が望んでいないのなら、なおさらだ。覚醒してから対処する方法を取るしかないだろう」
ラルフは、落ち込むエリに「なんとかなるさ」と声をかけた。
エリの目から溢れた涙が、頬を伝った。
「エリーゼはモニカに苦労させたくないから、スッキリ消えて無くなりたいって……いって……、どぉして……こうなるのよぉ……」
エリは悔しさを滲ませた。
「本当に、死んだ者に文句は言えないが、罪深いことをしてくれたものだ」
処刑された大罪人を思い出したラルフは、怒りを蘇らせた。
聖女のために、転生召喚術を繰り返し、貴族令嬢たちを犠牲にした奴を許すことはない。
一方で、奴がエリを転生召喚したから、今のラルフの幸せがあるのも事実で、複雑な気分になる。
「エリーゼの願いは、モニカが幸せになることなの。だから、私ができること全部、モニカにしてあげたい……、エリーゼに報いたい……」
「――――分かった。エリ、私にも頼ってくれ。独りで抱え込むなよ」
「……うん、ラルフ様、ありがとう」
ラルフはエリの頭を優しく撫ぜた。
エリの我慢が限界突破して、ラルフに心の内をさらけ出すように話し始めた。
「エリーゼが見つかって、最初は嬉しかった。でも、彼女がこの15年抱えてきた苦労や悲しみを思うと、辛すぎる。私は、あなたがいて家族にも恵まれてきたのに、彼女はずっと独りでモニカの中で息をひそめて、消える恐怖と闘いながら生きてきた現実は、正直きつい……」
「泣いていい、エリ。ずっと傍に居てやるから、気のすむまで泣け」
「……っふっ……、ぅう……」
エリはぐにゃりと顔を歪ませ、ボロボロと涙を流した。
「エリ、君がこの世界に来てくれて良かったと、私は心から思っている。だけど、辛いことも多いな……」
ラルフは、エリーゼの心に届いて欲しいと想いを口にした。
ラルフは彼女を優しく抱きしめ、ただそばに寄り添った。
彼の優しさがエリの心に染みわたり、壊れてしまいそうな心をギリギリ守ることが出来た。
分裂した同一人物の文章表現に、戸惑う作者。
読みにくかったら、申し訳ない。精進します。
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