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ヘルトリング伯爵のいざない

「え? 平民向けの生け花教室の体験モニターですか?」


 午前中の診察が終わって、昼休みになり、ヘムルートは、ラルフが考えたシナリオ通りにヘラとモニカに話を切り出した。ヘラとモニカは突然の誘いに、何事かと驚いた顔をしていた。


「そう、友人のラルフに頼まれてね。彼の奥方が、貴族向けの生け花教室を開いているのだが、今回、平民向けの教室を開いてみたいと思っているようで、ヘラさんとモニカから意見を聞きたいとお願いされてね。私も同行するから、行ってもらえないかな」


(どうだ! ラルフ監修の完璧でっち上げ口実は!?)


「先生のお友達のラルフ様って、魔法騎士団の方でしたよね? 先生が良く捜査協力してましたよね。新聞や雑誌に何度も取り上げられた有名人ですよね!? 確か、すんごい上位貴族の方だった記憶があるんですが?」


 ヘラさんがラルフの名に素早く反応した。第一魔法騎士団の功績は、団長であるレオポルト第三王子殿下のものになるのが多いが、彼の隣には必ず副長のラルフがいた。そのため、彼は度々記事に取り上げられていた。


「そうだな、出自は侯爵家だが、今はヘルトリング伯爵家を継いでいる」


 彼の実姉は王太子妃なのだが、それを言うと絶対引かれるので、黙っておく。


「そんな! 恐れ多い……、そのように高貴な御方がなぜ私たちに?」


 ヘラから見てラルフの身分は高い。気詰まりする貴族に会うのは消極的であるのは想定内の反応だ。


「奥方が、王国の文化発展に尽力する熱心な方でね。生け花を通して文化交流する仕組みを作ろうとされているんだ。文化は身分を問わず嗜むべきものというのが、彼女の持論でね」


「はーー、立派な考えをお持ちの奥様でいらっしゃるのね」


 ヘラの警戒心が少し緩んだ気がした。ヘムルートは、さらに畳みかけるようにとっておきの誘い文句を繰り出す。


「もし行ってくれたのなら、生け花体験の後、なんと伯爵家料理人のアフタヌーンティーが楽しめる。侯爵家から引き抜いた優秀なパティシエのお手製スイーツが食べ放題だ!」


 聞いた瞬間、食いしん坊スイッチの入ったヘラが、喜色満面になった。


「えっ、なにそれっ、すごい! モニカ、行こうよ! 伯爵家の本意気ティータイム体験なんて、これ逃したら一生誘ってもらえないと思うし!」


 ヘラは、もはやアフタヌーンティー体験の会だと勘違いしているのではと思う言動だったが、モニカを誘い落としにかかってくれたので、ヘムルートは黙って見守っていた。


「……でも、私、作法とか分からないですし」


 モニカは、変わらず難色を示したままで困った顔をしていた。


「大丈夫よ! 美味しそうに食べてたら、何とかなるものよ。あ、それと、お茶飲むとき、音を立てないように気を付ければ、問題なしよ! ね! 先生」


「モニカ、今回は完全プライベートで、他の客は呼ばないと聞いている。伯爵夫人は、ただ君たちに会って話を聞きたいと言われているから、そんなに気を負わなくていいと思う」


「私が行って、伯爵様や御夫人が気を悪くされることはないですか?」

「うん、それはない。むしろ、二人ともヘラさんとモニカに会いたいって言っていたから……」


「うっそ! ご指名!?」と、ヘラが驚きの声を上げた。

「そうだよ」と、ヘムルートは言う。


「モニカ~~、ご指名なら、行かないと不敬になるから。行った方が良いと思うの」

「不敬……」


 分かりやすくモニカの顔が青ざめた。


「モニカ、私の顔を立てると思って、ヘラさんと一緒に来てくれないか?」

「――――分かりました。お役に立てるか分かりませんが、行かせていただきます」


 モニカに約束を取り付けて、ヘムルートは心の中でガッツポーズした。


(さすが、ラルフ。ヘラさんの勧誘が成功のカギって言っていたけど、アフタヌーンティーが決めてだったな……、あいつ、策士だなぁ……、知ってたけど)



 こうして、週末にヘルトリング伯爵家へ、三人で訪問することが決まった。



 ――――そして、週末。

 ご丁寧に診療所前までよこしてくれた、ヘルトリング伯爵家所有の馬車に乗り込み、ヘムルート、ヘラ、モニカの三人は、一路、ヘルトリング伯爵邸へ向かった。


 モニカは、紺色の長袖のシンプルなワンピースでやってきた。服に特徴がないので、自然と顔の方へ意識がいく。茶色の髪は、今日は緩く巻かれ、ハーフアップにしてあり、いつもより可愛らしくなっていた。


「先生、緊張するなと人に言っておいて、一番先生が緊張してない!?」

「そんなこと、ないよ」


 ズバッと言い当てられて、背中が冷たくなるのを感じた。


(実は、ラルフにけしかけられて、ノリで行くことになったなんて言えない~)


 ラルフと飲んだあの時、ヘムルートは意識ははっきりしていたが、かなり酔っていた。酔いが回っていて、気が大きくなっていたせいで、こんな成り行きになってしまった。


(あの時の私を、叱ってやりたい!)


 優柔不断な性格も手伝って、約束の日に近づくにつれて、後悔の念が大きくなっていた。だがしかし、当日になってしまい、ヘラもモニカも約束通りやってきて、今は同じ馬車に揺られている。


 ヘラとモニカが、楽しそうに話しているのを見て、ヘムルートは少し救われた。


「先生は、伯爵様と良く会われているのですか?」

「あぁ、そう頻繁にとは言えないが、会っているな」

「伯爵夫人様は?」

「エリ……、いや、ヘルトリング伯爵夫人は、確か二人目のお子様が生まれた時にお祝いしに行った時ぶりで、本当に、何年ぶりか、久しぶりに会うなぁ……」


 ラルフは、ヘムルートがエリーゼに会うことを勧めてきたが、会うとへこむ自分が想像できて断り続けていた。今回、モニカのことがなければ、ヘムルート自身も伯爵家に行くことはしなかっただろうと思う。


「伯爵夫人様って、どんな方ですか?」


 モニカが遠慮がちに訊いてきた。


「彼女は、とても明るくて、ちょっと変だけど、教室を開くくらい花が好きで、花を生ける姿は本当にカッコイイんだ」

「――――素敵な方、なんですね」

「そうだね」


「ラルフ様と奥様は、仲が良いって有名ですもんね」


 ゴシップ雑誌を愛読するヘラが、たびたび取り上げられている記事の内容を話す。


「確か、奥様は男爵家の御令嬢で、伯爵様? そうだあの時は侯爵家御令息だったかしら、とにかく、大恋愛を成就させたって、大々的に報道されていたのをよく覚えているわ。それで、プロポーズの時、ラルフ卿が、国立自然公園で大きな花束を贈ったことが話題になって、王都の若者が、真似して、自然公園で花束を贈るプロポーズが流行して、すごかったんだから……」

「あーーー……、そんなこともあったな……」


 ヘムルートも、彼らのことをあの当時、羨ましいと思っていた。

 もう、十年以上前のことなのだ。時の過ぎる速さに驚く。


「ヘラさん、よく覚えていますね」

「いや~~~、私も旦那が花束持って、プロポーズしてくれたからさぁ! 忘れられない思い出なのよ」

「……」


(ヘラさんの旦那、ラルフの真似したんかーーーーい!!!)

 

 結構、衝撃の事実じゃないかと、若干引いてしまった。


「侯爵様だったのに、今は伯爵様って?」


 モニカが呟くように訊いた。静かにしていると思ったら、ヘラの話の中で別の部分に引っかかって思いを巡らせていたらしい。


「モニカ、ラルフ卿は、アーレンベルク侯爵家の三男なんだ。アーレンベルク侯爵家は長子であるラルフの兄が継いで、彼は叔父のヘルトリング伯爵家を継いだんだ。ヘルトリング家は子供がいなかったから、ラルフは彼の父の弟の養子になったんだ。だから、今はヘルトリング伯爵様ってわけ……」

「養子……」

「血族を絶やさないように、兄弟同士で養子をもらうことは、よくあることなんだ」


「はーー、家の存続重視な貴族は大変ですねぇ。ラルフ卿は、嫡男様がいっらっしゃるんでしたっけ?」


 ヘラは、貴族の家族構成に興味津々のようだ。


「いるよ、一人目が男子だったから、その子、レオンがヘルトリング家を継ぐだろう。二人目は、女子がいる――――、あ、着いたみたいだ」


 話をしている間に、ヘルトリング伯爵家に着いた。

 話をしていた効果か、ヘムルートの緊張は何処かへ行ってしまっていた。



長男ヨルクから、スイーツを持ち帰る密命を受けたヘラ。


本作は、拙作完結済み作品「転生令嬢は華の心で冷徹侯爵令息を癒します!」のスピンオフ作品になります。よろしければ、そちらを先にお読みいただければ、より本作のキャラ理解が深まるかと思います。


ブックマーク登録、評価等いただき誠にありがとうございます。

励みにしております!


次回も、よろしくお願いいたします。

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