ペシバルの冒険者サンディア&バリス
取ったものを回収しきれず、持ち帰れない!量が凄まじい!そんな時は魔法の宝箱だ。稀少な時空魔法使いの手により、見た目以上に沢山の物が入る。
あ、重さは変わらんぞ?それは闇魔法使いの領分だ。持ち帰れず、フィールドに置き去りにする事にはなってしまうが、カギをかけておける。
箱自体も、物を入れて使う時までは、豆粒のような小ささにしておける。縮小魔法によるもので、解除すると大きな箱となり、底がないのかというほど沢山の物が入るようになる。
つまり、施錠魔法のかかった宝箱ってえのは、持ち主がいるものだから、基本的には開けちゃなんねえ。所有者が許可すれば、その限りでもないがな。物好きな貴族なんかは、森や洞窟の奥に宝箱を置いて、どうだ取ってみろ!とお祭りをする奴もいる。
施錠魔法はスクロールっつー紙切れを買えば誰にでも使える初歩にして究極の魔法だな。箱や扉に施錠をし、頭の中で合い言葉を唱えなきゃあ、開かない。
洗脳魔法や記憶消去の魔法が禁忌であるのは、施錠魔法により保護された財産を全て奪う事と同義であるからだ。場合によっては殺人を一件犯すよりも重く罰せられる。王宮に出入りする人間を洗脳すれば、国宝や税収といった組織のカネを簒奪する事も可能だからだ。
申し遅れた!
私は冒険者サンディア!特に辛い過去があるわけじゃアないが、報酬のせこい地域発展や魔物からの防衛などではなく、めざすのは一攫千金ただ一つ!トレジャーハントを生業とするもの!
相棒の冒険者バリスともども、斥候だ。
私サンディアは正面きっての血気盛んな戦闘は得意じゃないが、奇襲や罠による確殺は大の得意分野。罠の発見や対応もお任せあれ、だ。
気配を消して背後から毒吹き矢を撃ち込んでしまえば、大概の危機は回避できる。動物型の魔物の肉に毒が回ってしまうのは、少々勿体ないけど、命には代えられまい。それに、どうせ食肉は買い叩かれるし、せこい稼ぎだ。興味ない。
バリスの野郎はスカウトの仕事も私並にこなすが、奴は腕っぷしが強く、蹴り技とナイフによる格闘が得意で、対人戦は勿論、単純な物理攻撃の通る魔物の処理もしてくれる。
ゴブリンのような人型相手では特に力を発揮し、中型まで育ってしまった上位種の魔物も仕留めてみせた事がある。ギリギリの戦いではあったが、頼りになる奴さ。
あのホブゴブリン、私の毒吹き矢を通さない、硬い肌だった。表皮ストーンゴーレムかよ。筋肉達磨め。あれは肝が冷えた。
さて……、バリスの野郎、遅いな。
この街はコンベルの東にある、ペシバルの街。ペシバルは港街だ。交易と漁業が盛んで、ここの海鮮丼は絶品!今食べてるんだけどね。
私のお勧めは、ブラックテンタクルっていうイカの魔物のゲソ!テンタクルは様々な色の奴がいて、体色毎に名前が違って、それぞれ違った魔法を操るんで対策が大変なんだそうだが、味や歯応えも別々なのだ!ブラックテンタクルはとにかく柔らかい!ゲソの他に刺身も最高!透き通るような見た目も綺麗で、黒い宝石のようじゃないの!ま、見た目が小綺麗な分、ちょっとお高いけど……。
「お。景気良く食ってるね。サンディア!」
「バリス遅いよ!」
「すまんな。海辺でちょいとデカいのがかかったらしくて、声かけられて網引き上げんの手伝ってたんだ。ピンクテンタクルだとよ。」
「ちょいレアだね!この店にも入るかな?」
「高級旅館の連中が目を光らせてたから、根刮ぎ持って買い占めちまうだろうさ。庶民の口には入らんよ。多分。」
「あはは~。ピンクテンタクルはC級冒険者にでもならないと、食えないか。美味いのかなー。」
「どうだろうな。見た目は派手だが、案外それだけだったりしてな。」
「お宝見つけたら、いつか二人で食べよ!バリス!」
「そうだな。とびきりのを見つけなきゃ。さて、サンディアよ。デカい仕事を持ってきた。食いながら目を通しな。」
ペシバル北区、海岸線シルバービーチに新たなダンジョンが発見された。夕刻、干潮時のみ現れる、海岸の洞窟を調査せよ!術者がもういないのであろう、施錠魔法の切れている古い宝箱が多く出土しているが、凶悪な罠も配置されている。斥候がいないパーティーは侵入を禁ずるものとする。
報酬と違約金については……
「いいね!」
「だろ?宝箱がざくざく出て来るって話だ。特筆事項にある凶悪な罠とやらも、俺達なら!」
「行こう!バリス!」
「ハッハァ!そう来なくちゃね。」
──翌日早朝。
「っしゃ釣れた!釣れたよバリス!」
「わ~おシルバーシュリンプ!デカいデカいぞ俺よりデカい!なんと美しい銀色のシュリンプ!って違うだろ…!手荷物が釣り道具でいっぱいじゃないか、今もう干潮だぞ!?」
「うんうん、シルバーシュリンプを釣るには最高のコンディションだよね。干潮だもん。生の刺身が美味いんだこれが。焼いても美味いらしい。」
「サンディアさーん!?洞窟の探索忘れてません!?」
「はっ!?バリス!」
「はっバリス!じゃないが!」
──翌日早朝。
干潮の時を待ち、漸く海岸洞窟の内部に到達した斥候が二人、洞窟の入り口でお腹を抱えていた。
「行こうバリス!お宝は目の前だ!」
「シルバーシュリンプ、美味かったね。サンディア。」
「そうでしょう、そうでしょう。んっふっふ。」
「死ぬほど食ったな。シルバーシュリンプデカすぎだろ。動けるか?」
「お腹痛い。私今魔物に追われても走れないや。」
「奇遇だな。俺もだ。明らかに食べ過ぎだ。」
「帰って胃薬飲んで寝ようか。バリス。」
「そうしよう、サンディア。」
──翌日早朝。
雨降る海岸で立ち尽くす斥候が二人。
「雨だなー。サンディア。」
「雨だね。バリス。もうすぐ干潮かな。」
「もう時間だが、今日はもう干潮にならないんじゃねーかな。アンガベルの川からどっばどば水が流れて来てるし。」
「帰ろっか、バリス。」
「帰りに海鮮丼食おうぜ、サンディア。」
「もうあんまりお金ないよ、バリス……。」
「明日こそ頑張ろう、俺達。」
「ずっと働かないで宿屋でゴロゴロしてたいね、バリス。」
「ああ、金持ちになれば、それも叶うさ。目指せ一攫千金だ。」
「おー。」
──翌日早朝。
「っらァァァ!!」
海岸の洞窟、深部。ゴブリンの後頭部にバリスの蹴りが炸裂した。ここのゴブリンは皆、木製の大錫杖を持ち、氷の魔法を放つようだ。並の冒険者なら死を覚悟する上位種、マジックゴブリンである。マジックゴブリンが壁に叩きつけられ、気絶した。
「さすがバリス!」
「お前の隠密行動と毒吹き矢がすげーんだよ。俺は弱った相手を蹴ってるだけ。」
「ははっ!すさまじい氷の弾幕を掻い潜りながら、何言ってんだか!」
げし!蹴られたゴブリンが倒れる。げし!蹴られたゴブリンが天井に叩きつけられる。どげし!蹴られたゴブリンが球技用の玉のように飛び、壁に叩きつけられる。マジックゴブリン8体、全滅。
「バリス強すぎない?これ全部上位種じゃん。アンタ良い戦士になれるよ。」
「前衛なんて毎日やってたら、疲れてたまらんって。小さな仕事の日は、戦士様の後ろで雑用でもやってたいね。」
「わっかるー。戦士様方の体力は化けモン染みてるもんね。」
「そうだろ。……おっ!おいアレ!サンディア!」
「やったねバリス!調査書にあった、古い宝箱!」
「コケだらけ!これは古そうだっ!」
「じゃあバリス、これは頂いちゃっても?」
「良いんじゃアないですかァァァ!!」
「やったね!では、いざ解錠……!」
「慎重にな。凶悪な罠とやらが、何処で出て来るか分からん。」
「開いた……罠はない!やっぱ施錠魔法解けてるー!」
果たして、出てきたものは、指輪が一つと、剣が一つであった。指輪には見たこともないサイズの青い宝石がはまっており、剣にも、どうやら同じ宝石がはめられている。
「同じ宝石……2個で1組っぽい……?これ、どうなのかな、バリス。売れる?売らずに使った方がいい?」
「んー。俺は剣は使えんのよ。サンディアは剣使えたっけ。」
「無理だね。戦闘はからっきし。」
「高そうだし売るか!」
「売ろう売ろう!」
『待ってくれ!!』
「何だ!?サンディア、警戒!」
「了解バリス、罠かな!?」
『違う!罠じゃない、私は剣だ。』
「喋る剣!?」
「インテリジェンスソードだと!?」
『そうだ。私を売るな。冒険者諸君、君らのようなタフネスな戦士を待っていたのだ。よくぞ、我が試練、マジックゴブリンを退けたものよ。』
「お前が出していたのか、剣。それは危険な力だぞ。惜しいが、破壊せねばならんようだ。」
『もう使えん。一度きりの力だ。あれは私を守るために、かつての主が仕掛けた罠だからな。罠の気配が消失している事が、お主ら斥候なら分かるのではないかな?』
「確かに。一つだけ警戒していたんだけど、匂いがないや。バリスどう?」
「こちらも、先ほどまで辺りに充満していた殺気を感じない。」
『匂いに、殺気ときたか。特化している部分を生かし、相棒と共有しているのか。これはこれは、なかなか優秀な斥候コンビだの。ここまで来れたのも、納得がいくというもの。』
「売るなと言われてもな、俺達は一攫千金を夢に見て、金を欲し、金のために生きているんだ。剣、どうしても売るなと言うなら、お前は、他に金目のもののありかを知らないか。」
『くくく。宝物殿に続く、隠し通路を教えてやろう。私と私の主だけが知るものだ。危険な罠が多い道だが、なに、お主らなら問題あるまい……。ここの財宝は、もうお主らのものだ。いっぺんには運び出せまい。何度か通う事だな!』
「やったねバリス!」
「ああ。とりあえずこの剣は俺が持つか。指輪はサンディアが着けるか?」
「わーい。あれ、指輪は売っていいのかな。」
『オススメせんな。それを奪うためなら、人など何百人でも殺されかねない代物だ。その指輪は、着けているだけであらゆる毒と呪いを無効化する。あと、氷の攻撃魔法にすんごい強耐性が付いてた気がする。』
「ひいい!やっぱバリス持ってて!」
「これを俺が着けたら、サンディアは毒吹き矢の誤射し放題だな。躊躇しないで済む分、手数が増えるんじゃないか。」
「あ、それは悪くないね。」
『高位の鑑定術士に会うときは気を付ける事だな。まあ鑑定術士は希少だし、並の鑑定術士なら読み取れないだろうが……一応な。』
「それで、俺もサンディアも、剣使える人間じゃないんだが。剣よ、お前にはどんな力が?」
『氷攻撃への強耐性。それと、振りかざすだけで氷の中位魔法が出る。回数制限なし。装備者が何らかの事情で理性を失っている場合等は、私が自己判断で魔法の行使をキャンセルする。味方への誤射の危険がある場合等は、軌道の自動補正も自己判断で行う。』
「色々すげーけど、とりあえず斥候向きじゃアないな……。俺は基本的に、スピードを生かした戦闘を行う。だから武器はナイフしか持たないんだ。」
「はいはい!私使いたい!魔法が使えるなんて素敵じゃない?しかも中位魔法だよ。飛び道具のバリエーションが増えるよ!」
「だが隠密行動と相性悪くないか?剣は重く、気配を消そうにも、ガチャガチャとうるさそうだ。」
『ま、音は慣れてくれ。大幅な戦力向上は保障するさ。それに、考えがなくもない。』
「考え……?」
「よろしくね、剣さん!」
『魔剣コルトーヴァだ。さて、一日一時間程度しか出来ない事だが、能力を一つお見せしよう。これが音対策の考えさ。』
魔剣コルトーヴァは、強く輝きだした。氷の力を象徴するかのような、青白い光が、暗い洞窟の奥底を鮮烈に照らした。小さなカンテラや壁にくくり付けてきた松明の光だけを頼りに進んできた斥候二人は、思わず、目を瞑る。
「青白い……太陽か?何と明るい……!」
「バリス、目が潰れる……!」
剣は少女になっていた。
『コルトと呼べ。さあ、お主ら。まずは私を地上に連れてゆけ。数百年ぶりだ。沢山美味いものを食って、沢山冒険したいぞ!金など幾らでも稼がせてやろう!』
「宝物殿は!?」
『そうであった!よし!ちゃちゃっと行くぞ。金貨をポケットというポケットに詰めるだけ詰めてこいッ!』
「っしゃー!!」
「行こうバリス!」
「おうよサンディア!」
──数日後。
大金を手にしたトレジャーハンターの二人だったが、高級旅館でピンクテンタクルの刺身を食う等豪遊しまくってたら、一週間で元通りすかんぴんになった。
とは言え、宝物殿にはまだまだ金がある。二人は新しい宝箱を購入し、宝物殿の古い宝箱を新しい宝箱に全部入れ替え、二人にしか分からない合い言葉で施錠魔法をかけた。
しかし、海岸の洞窟には、コルトーヴァですら知らない、更なる深部が存在している。これをいち早く解き明かすのは、どの冒険者だろうか。
バリスとサンディアは、胃もたれで暫く動けそうにないようだ。ついでにコルトも。
「バリズーぎぼぢわるい……いぐずりがっできでー。」
「俺も動けん……てか魔剣も胃もたれすんのかよ……。」
『魔力充填の許容値を越えた状態だ……ピンクテンタクルの魔力が想定以上に濃すぎた……早く中位魔法をぶっ放して放出しないと……。』
「コルト……そこらの低位種に使ったらオーバーキル過ぎるから、絶対やめてくれ……。」
「ぎぼぢわるい……。」
──数日後。
「ぎぼぢわるい……。」
「それでも飽きない海鮮丼。」
『どれもこれも美味すぎる……!』
取ってきた海岸洞窟の財宝はまたも食費に消え、三人はぐだぐだと日々を過ごす。しかし、宝物殿といえど財宝は無限ではないのだ。三人がそれを思い知るまで、多分あと半年ぐらいだろう。
ワンドロ×3
スコア5439字(1813×3)
拠点 ペシバル
主役 冒険者サンディア&バリス
出演 コルトーヴァ、マジックゴブリン達
キーワード
・魔剣
・宝箱
・時空魔法
・闇魔法