コンベルの冒険者ロドリゴ
俺は冒険者ロドリゴ。戦士だ。槍をこよなく愛し、様々な槍を扱う。投げ槍に長槍、短槍に重槍!危険だが、相手によっては毒槍や呪槍を扱う事もあるぞ。ただし魔法はからっきしだ!
食用の小型種狩りから、危険な中大型種の討伐まで、魔物討伐ならなんでもござれ!ガハハハ!あ、悪戯小妖精はやめて下さい。人間の女の子みてーな形してんだぞ。殺せるわけねーだろ。
でだ、俺が今いるのはコンベルの街!ついに来たぜコンベル!くぅーーっ!ここは西にあるコンベル大鉱山により活気が素晴らしいのも然る事ながら、武具の生産において、近隣のいずれの街より優れる!常に供給される多種多様な鋼ェ!それを狙って集まる鍛冶師どもォ!鍛冶師を労う酒場の数々ゥ!こんな良い街はねえな!!酒場同士の競争のためか、飯もうめーったらねえ!
北に行くとアンガラの街ってのがあるが、あそこは結界魔法で魔物の脅威を退けているようだな。コンベルに結界魔法はないようだが、素晴らしい筋肉と鋼の武器を携えた冒険者達が数多く集まっているため、ここより安全な所などないと思えてしまうぐらいだ。
この地を治めるコンベル伯爵に至っては、この地をかつて襲ったドラゴンを素手で撃退したそうだ。とんでもねえぜ。まったく。コンベル伯爵の私兵は伯爵が直々に鍛え上げてるらしく、化け物みたいな筋肉してる奴ばっかりと聞くし、これじゃ結界魔法も要らねえか。
「さて、今日の仕事はと。これにするか。」
「おやあ、C級冒険者のロドリゴ様。紅蓮石の変異ゴーレム討伐ですか。流石ですねえ。」
「ガハハ、カレン嬢よ。読み上げはよして下さい。悪目立ちしてしまいます。それに最近までD級でした。」
「くふふ、謙虚ですねえ。ソロですか。」
「ああ。」
「素晴らしい。しかし、ソロでC級相当の仕事が出来るんですから、B級パーティーに居座れるぐらいの実力はおありでしょうに。」
「すまんな。盗賊に一杯食わされてから、ソロじゃないと落ち着かないのさ。」
「くふふふ。仕方ありません。まっ、よくある事です。その内良い出会いがございますよ。くふふふ。」
「ありがとう。さて、そいつ絡みの調査済みの地図や情報を買おう。幾らだ。」
「良い心掛けでございます。ふふふ。100G。」
「ふむ。良い地図だ、よく書けてる。150G出す。調査を担当した冒険者は誰だ。」
「D級冒険者ミゾレ、E級冒険者シズクのお二方でございます。」
「機会があれば、俺が礼を言っていたと伝えてくれ。」
「承知致しました。後輩思いですねぇ、ロドリゴ先輩は。」
「優秀な奴に死なれては困るだけだ。少しでも良い装備を買い、良い飯を食い筋肉をつけるべし。そのためには先立つものは必要になる。」
「くふふ。流石の筋肉バカですね。領主様が欲しがっていましたよ、貴方を。」
「私兵はご免被る。世界は広く、冒険者は自由なのだ。」
「くくっ、お元気な事で。紅蓮石の変異ゴーレムは非常に強力な個体ですが、誰かがやらねばこの街の損害は大きなものになるでしょう。ご武運を。」
「ガハハハ!腕が鳴るぜ!この重槍でコアを串刺しにしてくれる!」
受付嬢と冒険者の何気ない会話は、実に異次元のものであった。ゴーレムとは、石に霊的な存在が宿り、石を体とする巨人だ。中型種の魔物であり、ソロで挑むには危険過ぎる。
紅蓮石の変異ゴーレムとは、その上位種。特別な名前をつけ、区別を付けてまで認知されているという事は、その必要があるという事であり、ただのゴーレムとは格が違う存在であるのだ。
多くの冒険者は、彼らの会話を聞いて、まず石を槍で壊せるわけがない。ゴーレムに槍で挑むなんて自殺行為だと思った。しかも上位種だ。勝てるはずがない。
だが、どうだ。彼はコンベルの街でも有数の手練れ、C級冒険者というではないか。大きな活躍をすれば、すぐに街の掲示板に載ったり、武勇伝を吟遊詩人に歌われたりするような、有名人だ。下手したらファンクラブがあるかも知れない。
ロドリゴはC級なりたてなので、まだファンクラブはないが、彼は昇格試験の際にレッサーワイバーンを倒している。切断した尾を荷車に乗せて街に帰った日には、お祭り騒ぎだった。街の中央広場の掲示板も、暫くは彼の話で持ちきりであった。
彼ならば、槍で上位種のゴーレムを倒してしまうかも知れない。冒険者達はざわめき、噂し、高揚した。上位種の変異ゴーレム出現は、街の危機として連日騒がれていた。これを彼が単独で討伐したなら、冒険者ロドリゴはコンベルの英雄となるだろう──。
ドガン!!
縦に振り抜かれたロドリゴの槍が、ゴーレムを粉々に打ち砕く。両手持ちの太い短槍だ。途轍もなく重く、そして堅牢な、鋼の塊だ。彼はそれを、自慢の筋肉によって悠々と振り回す!
「鋼の重槍。並のストーンゴーレムなら、一撃で砕け散る程の威力か。コアを砕くまでもなくバラバラだな。だが……!」
ゴーレムのいた場所には、赤い魔石が宙に浮かんでおり、砕け散った体の破片は次々に浮遊し、そこに集まってゆく。再生能力だ。
「やはり、ゴーレムは霊的な部分が本体なのだな。コアさえ無事なら、それに付属するだけの肉体など、幾らでも継ぎ合わせて、直せるというわけだ。ガハハハ!殴りがいがあって結構な、事だなァ!!」
ゴシャア!!
浮かんでいる魔石に強烈な突きを打ち込むロドリゴ。ぱきり、と魔石が砕ける。するとゴーレムの再生能力は失われてゆき、ゴーレムの破片は重力に従うのみの小石となった。
「やはりコンベル産の武器は良い。鋼が良いのだなぁ。鍛冶師の腕も良い。並の武具では、今の一戦すら耐えまい。この耐久性、実に素晴らしい!」
ストーンゴーレムは、冒険者ロドリゴの敵ではなかった。コンベル大鉱山はストーンゴーレムだらけになっていた。これでは採掘など出来まい。上位種の存在は魔物の発生や強化を促進してしまうと言うが、これほどであるとは……。
実に13匹ものストーンゴーレムを石ころに変えた時、それは現れた。
赤い。早い。重く鈍いからこそ、ゴーレムは戦い易い魔物ではある。一撃でも貰ってしまえば最悪は即死であるが、鈍いので回避が容易なのだ。
突進を回避するロドリゴ。追撃をする前に、大きく距離をあけられてしまう。
「なるほど。これは根底から違うな。もはや別の魔物だ。ゴーレムと思っていては、勝てない。」
紅蓮石とは、火の力を宿す天然の魔石だ。……火の力しかないはずなのだが、あのスピードは何だ。
「く!」
真っ赤なストーンゴーレムだ。赤い石だけで構成された石の体。身長は4メートル程度。まあ、サイズとしてはゴーレムと変わらない。中型種の域ではある。奴は腕をこちらに向けると、火を吹き上げながら腕の部分を分離し、爆発。凄いスピードで、腕だけをロドリゴに向けて発射した。──ロケットパンチ!そんな奇抜な攻撃をしてくる魔物の記録はない。腕は二本ある。もう一つの腕も発射された。
「ぐおっ!危ない!何だこの攻撃パターンはっ!」
回避した両腕は直進し、大岩に突き刺さって止まった。失われた腕は、すぐに近くの石で修復された。元々腕だった部分は破棄したらしい。
「なるほど、紅蓮石の用途は爆発か。爆発による分離と射出、射出後は他の石で再生可能。そして……」
なんと。腕だけが赤くない状態だった変異ゴーレムだが、みるみると腕の石が赤くなってゆくではないか。
「ただの石が、稀少な紅蓮石になる瞬間を見てしまった。切り離された腕は紅蓮石のままってわけだ。おいおい、新発見じゃないのか、コレは!」
続いて、片膝をついて騎士の礼でもするかのような姿勢になる赤ゴーレム。
「まさかな。」
赤ゴーレムの足部分が爆発した。今度は全身の肉体を射出したらしい。そしてどうやら、最初の突進も、これだ。──ロケットタックル!
「まさかだろってェェ!!うおわっ!」
紅蓮石の火の力で爆発を起こす。爆発の力で加速し、凄まじいスピードの攻撃を実現する。爆発で失われた体はその辺の石ころで再生可能。取り込まれた石ころも直ぐに紅蓮石になる。
攻撃は重く、いずれも体を構成する岩石を射出するものであり、たとえ重騎士でもまともに食らえばぺしゃんこだ。回避するしかない。
とは言え、ロケットタックルは大振りだ。回避は可能。再び、二発のロケットパンチが放たれた。予備動作が小さく済む分、こちらの方が脅威的である。
「悪いな。もう慣れた。」
ぱき……。
赤ゴーレムの攻撃は全てが直線軌道だった。追尾はないと分かった。待ち伏せるロドリゴに、加速タックルを仕掛けた赤ゴーレムだったが、赤ゴーレムはとんでもない方向にタックルを繰り出し、着地するや、崩れ去った。──すれ違い様の一撃を制したらしく、ロドリゴの槍の先には、赤ゴーレムの大きめなコアが串刺しになっていた。
「うし、コア破壊完了。さあさあ臨時収入!紅蓮石の確保だ!大漁大漁!ガハハハ!紅蓮石発生の情報は、売るべきか否か……。やめた方がいいな、突拍子もなさ過ぎて誰も信じないだろうし。詐欺師扱いはご免被るぜ。」
その日、変異ゴーレムの討伐の報せに、コンベルの街はお祭り騒ぎとなった。
ワンドロ×2
スコア3672字(1836字×2)
拠点 コンベル
主役 冒険者ロドリゴ
出演 受付嬢カレン、ゴーレム達
キーワード
・C級冒険者
・領主コンベル伯爵、領主の私兵
・D級冒険者ミゾレ、E級冒険者シズク
・紅蓮石