かくれんぼ
むかし、あるところに、ハーヴィというぬいぐるみがいました。
ぬいぐるみしょくにんさんのしわだらけのてで、ひとはりひとはり、こころをこめてつくられた、ふわふわのからだと、なまえのししゅうがはいった、つやつやのみどりいろのリボンのネックレスがじまんの、クマのぬいぐるみでした。
「きみが、あいされるこでありますように」
そういいながら、あたまをなでてくれるしょくにんさんが、ハーヴィはだいすきでした。
けど、ハーヴィは、いつかはここから、でていかなければなりません。そして、ここではないおうちでまっている、おともだちのもとへ、ともだちになりにいくのです。
いままでも、たくさんのきょうだいが、このおうちからたびだっていきました。
しょくにんさんとおわかれするのはさびしいですが、ハーヴィもいつか、きょうだいたちのようにたびだっていくひを、まちわびていました。
あるひのあさ、しょくにんさんが、ハーヴィをそとにつれだしました。
「さぁハーヴィ、ここが、きみのいくおうちだよ」
しょくにんさんとおとずれたそこには、ハーヴィとおそろいの、みどりいろのリボンのかみかざりをしたおんなのこが、ハーヴィをまっていました。
「まっていたわ、ハーヴィ。きょうからよろしくね」
そういっておんなのこは、ハーヴィをぎゅっとだきしめてくれました。そのときから、ハーヴィはおんなのこのことがだいすきになりました。
それからふたりは、ずっといっしょにすごしました。
あそぶときも、ごはんをたべるときも、おでかけするときも、ねるときも、ずっといっしょでした。
「ハーヴィ、だいすきよ」
おんなのこはいつも、とってもすてきなえがおで、そういってくれます。おんなのこにそういわれるたび、ハーヴィはとってもうれしいきもちになりました。
そんなあるひ、おにわでハーヴィとあそんでいたおんなのこは、とつぜんたちあがって、わらっていいました。
「こんなにおてんきなひにでかけないなんて、なんだかもったいないわ。ピクニックにいきましょう」
そういって、おうちからすこしはなれたところにある、いちばんおおきなカシのしたに、ハーヴィをつれていきました。おんなのこは、ハーヴィをカシによりかからせてすわらせて、いいました。
「いまから、ママとくせいの、おいしいサンドイッチと、おちゃをもってくるから、ここでまっててね」
そういって、おんなのこはおうちにもどっていきました。ハーヴィは、いわれたとおり、カシのしたでまっていました。
しかし、どれだけまっても、おんなのこはもどってきませんでした。
まわりがくらくなって、あかるくなって、ときにはあめがふって。それをなんかいもくりかえしても、おんなのこはもどってきませんでした。
どうしたのかな、と、ハーヴィはかんがえます。
みちにまよってしまったのかな。
それとも、どこかでころんで、ないてしまっているのかな。
さがしにいきたかったけど、ハーヴィはぬいぐるみだから、うごけません。だから、ハーヴィはまつことにしました。おんなのこが、まっててね、といっていたので。
おんなのこがかえってきたら、なにをしてあそぼうかかんがえながら、ハーヴィはまちつづけました。
おんなのこがかえってくるまで、ずっと。
ずっとずっと、まっていました。
そうして、ずっとながいじかんをすごしていたひのこと。
ざくざく、と、おちばをふむおとがしました。
ハーヴィは、そのおとをきいて、よろこびました。あぁ、きっとあのこがかえってきたんだ!
けど、ハーヴィのまえにあらわれたのは、あのことはちがう、おおきなおんなのこでした。
「あれれ、こんなところに、ぬいぐるみがある」
おおきなおんなのこは、ハーヴィをひょいともちあげ、ぽんぽんとハーヴィをかるくたたいて、はっぱをおとしました。そして、リボンのネックレスをうらがえしてみました。
「ハーヴィっていうんだね」
そうしてハーヴィのなまえをよぶと、にっこりとわらいました。
「ちょうどいいや。ねぇ、こんなところにいないで、わたしとあそぼう」
おおきなおんなのこのおさそいに、ハーヴィはこまってしまいました。あそんでもらえるのはうれしいですが、それはできません。だってハーヴィは、このカシのしたで、あのこをまっていないといけないのですから。
けど、ハーヴィはうごくことも、おはなしもできません。だから、おおきなおんなのこは、ハーヴィのへんじなんてしらず、そのままハーヴィをつれていってしまいました。
おおきなおんなのこは、ハーヴィをつれて、あるきます。どんどん、どんどん、カシからはなれていきました。
カシのきがちょっとずつとおくなるたび、ハーヴィはかなしいきもちになりました。いなくなっているあいだに、あのこがきたらどうしよう。
けど、そんなハーヴィのきもちは、すぐにかわりました。おおきなおんなのこがつれてきたのは、わすれるはずもない、あのこのおうちだったのでした。
ハーヴィはおどろき、よろこびます。やった、あのこにあえるぞ!
けど、おうちはまっくらで、だれもいませんでした。それどころか、あたりいちめん、くろいインクのようなものでよごれて、きたなくなっています。
こんなによごしていたら、きれいずきなママにおこられちゃう!
ビクビクしていたハーヴィですが、いつまでたっても、ママのおこるこえはきこえてきません。しーんと、しずかなままでした。
あれれ、おかしいな、と、ハーヴィはくびをかしげました。
だいすきなあのこも、やさしいパパも、すてきなママも、いったいどこにいってしまったのでしょう?
けど、ハーヴィはうごけないので、さがしにいけません。おおきなおんなのこにされるがまま、いつのまにかおなかにできていた、おおきなきずをぬわれていました。
おおきなおんなのこは、まっかなあかいいとで、ハーヴィのきずをていねいにぬっていきました。
ほんとうはちゃいろのいとでぬってほしかったハーヴィですが、しかたありません。がまんして、きずがぬわれるのをまっていました。
「ねぇ、かくれんぼしましょう」
きずをぬいおえたおおきなおんなのこは、ハーヴィにそういいました。
「ハーヴィがおに、ハーヴィがおに、ハーヴィがおにね」
いいきかせるように、おんなのこはなんかいもハーヴィにいいます。
そして、ハーヴィをとん、とさすと、おふろばにつれていきました。おおきなおんなのこは、おふろにハーヴィをほうりこみました。じゃぶん、と、つめたいみずが、ハーヴィのからだをあらいます。
ぶくぶく、ぶくぶく。このままじゃしずんじゃう、とおもった、そのときでした。
とてもふしぎなことがおきました。
いままでうごかなかったハーヴィのからだが、うごいたのです。
ハーヴィはびっくりしましたが、むがむちゅうで、みずのなかでもがき、とびでました。
おふろからでたハーヴィは、おそるおそる、そーっと、たちあがりました。おおきなおんなのこにつめかえられたつめものが、じゃらじゃらとおとをたてました。
ぬれたからだはとってもおもかったけれど、なんなくうごきます。
なにより、あのことおなじように、あるくことができました。
ハーヴィは、おおよろこびしました。あぁ、あのおおきなおんなのこは、まほうつかいだったんだ!
ぼくに、あのこをさがしにいけるようにしてくれたんだ!
おんなのこにおれいをいわなきゃとおもって、ハーヴィはあたりをみわたします。けど、おんなのこはどこにもいません。どこにいってしまったのでしょう。
ハーヴィはかんがえました。
そういえば、おおきなおんなのこは、かくれんぼをしようといっていたな。もしかしたら、ぼくがさがしにくるのをまっているのかな。
そこでふと、ハーヴィはおもいました。
もしかして、あのおおきなおんなのこは、あのこのおともだちなのかな。
あのこがピクニックにいこうっていっていたのは、みんなでかくれんぼをするためだったのかな。
あのこも、ママも、パパも、みんなおうちのどこかにかくれて、かくれんぼのじゅんびができたから、おおきなおんなのこが、おにのぼくをむかえにきたのかな。
そうだ、きっとそうにちがいない!
よぉし、それならがんばって、みんなをさがさなきゃ!
ハーヴィははりきって、みんなをさがすためにあるきだしました。
じゃらじゃら、しゃらしゃらとおとをたてながら、あるいて、あるいて、はっとたちどまりました。
しまった、かくれんぼのときのあいずをいってないぞ。
なので、ハーヴィはおおきなこえでいいました。
『もぉういぃいかぁい』
しーん。だれもへんじをしてくれません。
『もぉういぃいかぁい』
もういちど、おおきなこえでいいました。けど、やっぱりだれも、へんじをしてくれません。しかし、まぁだだよ、もきこえません。
きっとみんな、みつからないようにへんじをしないんだな。
よーし、まけないぞ。
ハーヴィはますますはりきって、みんなをさがすために、おうちをあるきまわりました。
ぺしょ。じゃらじゃら。
リビングにはだれもいませんでした。
べと。しゃらしゃら。
キッチンにもだれもいませんでした。
ぺしょ。じゃらじゃら。
げんかんもみましたが、いませんでした。
べと。しゃらしゃら。
ものおきにも、だれもいませんでした。
ぺしょ。じゃらじゃら。
しかたないので、かいだんをあがって、にかいにいきました。
べと。しゃらしゃら。
そういえば、かくれているひとをみつけたら、どうやっておにをかわってもらうんだったっけ。かくれんぼなんてひさしぶりだから、わすれちゃったなぁ。
ハーヴィはたちどまって、うんうんかんがえます。
そうして、おもいだしました。
あぁ、そうだ! おなかのこれを、おなじようにさすんだった! うっかりうっかり。
ぺしょ。じゃらじゃら。
ハーヴィはまた、おうちをさがしまわります。
べと。しゃらしゃら。
パパのおへやには、だれもいませんでした。
ぺしょ。じゃらじゃら。
ママのおへやにも、だれもいませんでした。
べと。しゃらしゃら。
そして、さいごに、あのこのおへやのまえにまできました。
なかなかドアがあきませんでしたが、ちからいっぱいがんばって、なんとかドアをあけました。
おへやのなかをみると、あのこのおきにいりのふくがつまったクローゼットが、すこしあいていました。
みみをすますと、ふぅ、ふぅ、という、だれかがいきをはくおとがきこえました。
あぁ、そこにいるんだね!
『みぃつけた!』
とん!




