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修道院潜入編 1


前回までのあらすじ。


(警察署連行編)

ロークタウンの郊外、外部森林と呼ばれる場所で煙草屋の商いをしていた魔女の元にある日突然警察官が現れる。

身に覚えのない事件の被疑者としてシス警部に警察署に連れられていった魔女は時に警部を言葉で弄りつつあれよあれよという間に事件の真犯人探しの手伝いをすると言い出した。

判断に困った警部は仕方無く上司に確認を取りに行くがどうやら警察署長は魔女の事を知っていたようで快く手伝いを許諾した。


(足跡追跡編)

魔女の相方に選ばれた警部は魔女を事件の現場の一つに連れて行く。

そこで犯人の足跡を追うために魔女が用意したのはタバコの煙で作られた兎だった。

兎を追いかけマンホールの中に飛び込み、下水を通り、兎の導くままに外に出、また兎を追いかける。

兎の足跡を追い続けた先にあったのは世界一の信者数を誇る双聖女信仰教会の修道院だった。



それでは本編をどうぞお楽しみ下さい。

 ようやく辿り着いた先、俺と魔女の目の前にはこの街の中に幾つかある修道院の一つがあった。

「おい、なんかの間違いって事はないのか?」

魔女は静かに首を振る。

「残念ながら、ウサギが此処に止まったということは少なくとも此処から現場までタバコを運んだ何者かがいるということじゃ。」

聖職者の中にこの事件を起こした魔女がいるというのか。

ただでさえ立ち入りづらいというのに此処は女子修道院。

男の俺が無闇に立ち入ってもいいものだろうか。


 そうこう悩んでいると唐突に魔女がウサギを持ち上げた。

「さて、シス君。」

そう言いながら、タバコを取り出しウサギの頭の中にズブズブとそのタバコをねじ込んでいく。

「…ッ!?」

思わず息を飲む、が良く考えればあれは煙で出来たウサギであって本物のウサギではない。

「驚かせてすまんが、このウサギに新しい指令を与えているだけじゃよ。」

そう言う魔女に対して俺は「ああ…いや…」としか返すことができなかった。


「改めて、今与えている指令はこの建物の中に飛び込んで誰かしらに止められるまでは相手をかわしつつ動きまわれというものを追加したんじゃ、これを使って無理やりにでも建物に侵入する。」

あまりにも考え方が雑すぎるが、確かにウサギを探しにきた体で侵入できるだろう。

しかしそれだと俺もウサギを探しにきた間抜けな警官になりかねない。

「シス君はワシのお目付役も兼ねておるので侵入するには持ってこいじゃろ。」

本当にこれでいいのか、何かもっといい策はないのか、そもそも本当に修道院の関係者が犯人なのか?

ここならバレないだろうと思った誰かの仕業とかではないのだろうか。

それに今度は普通に捜査令状を持って侵入すればいいのではないだろーーー。


「それ行け。」

「まっーーー」

魔女は考える暇を俺に与えなかった。

ウサギが跳ね、角を曲がり開かれた門戸を通りこれまた開いていた扉の中に入っていく。

その後ろを魔女が駆けていく、俺は強制的に追いかけさせられる。

入ってすぐの庭に居た数人の修道女が驚いた表情で俺たちを見る。

どうしたんですか!?なんですか!?と言った声が聞こえるが、そんなことは無視しながら魔女が修道院の中に入ろうとするーーのを巨体が止めた。

「あんたら一体、なんなんだい!」

浅黒い日に焼けた肌、修道服を着た見た目のソレは本当に女か怪しいほどの筋肉と巨体を持つ修道女だった。

肩を掴まれた魔女は動きを止めると修道女の方を見上げて


「す、すいません。

 私の飼っているウサギが逃げ出して追いかけていたら此処に入っていったんです。」

などと言い出した。

唖然とするが、そんな時間はない。なんとか話しを合わせないと。

ジロリと大女が俺の方を見る。

「本当かい?あんたはーーー。」

「あ、ああ、俺はーー彼女の連れだ、彼女と一緒に追いかけてきた。」

ジロジロと見られる、今日は上からコートを着ているから警官っぽい格好はしてないから通るはずだ、まぁ警官とバレても非番だと誤魔化せばいいか。

「不釣り合いだねぇ…」

死ぬほど失礼なことを言われた、ぶん殴ってやろうかこいつ。

いや、力負けしそうだな…。

「シスターフランシス、わ、私も確かにウサギが入っていくのを見ました…。」

そう言いながらオズオズと手を上げ、若い金髪の女性が声をかける。

「…クラウディア、あんたがいうなら本当なんだろうね。

 …………分かったよ、行きな。」

クラウディアと呼ばれた女性に会釈をしながら俺と魔女は修道院の中に入っていく。

「ただし!」

大きな声に体が跳ねる。

恐る恐る後ろを振り向くと、巨体がこちらを睨んでいた。

「見つけたらすぐに出ていくこと、いいね?」

「ああ、か、彼女にもしっかり言っておきますので、有難うございます。」

そういうと俺は魔女の尻を追いかけ玄関をくぐり、修道院の中に入る。

後ろから作業に戻りな!という修道女(?)の声が聞こえ、修道院の入り口の扉が閉まった。


 中に人の気配はない、全員外で作業をしているのだろうか。

静まりかえり、ランプ自体はあるが点っておらず光が窓からしか入ってこない修道院の中は少し不気味だ。

時刻と霧の所為か、日の光が窓から薄らとだけしか入っておらず、薄い光の中に埃が舞っているのが目に入る。

目の前には双聖女の像と複数の長椅子。

神聖なはずにも関わらず、その暗さのせいで有難いや、厳かなよりも少々恐ろしいという単語が先行する。

何かが、化け物やら悪魔やらが潜んでいると言われれば簡単に信じそうになる様なそんな雰囲気だ。

ぐるりと見回しそう思った瞬間背中に怖気が奔る。

肩を震わせ前を向くと魔女が少し楽しそうに笑った。

「カカッ、なんとか誤魔化せたみたいじゃのう。」

長椅子の隣にあった廊下を歩き、階段を上りながら自身の眉が顰められるのを感じつつ、ため息をつく。


「で、この後はどうすんだ? 侵入したのは良いが何かーーー」

此方を向いた魔女の顔を見て理解する。

間違いなく何かを考えているニヤニヤ顔だ。

これ以上話すとーーー

「ワシが、なんの考えもなく、侵入したとでも?」

ーーー話さなくても勝手に話始めた。

「そもそも、ワシには人間の言う普通の捜査などする必要はない。

 指紋、血痕、DNAそんな物は魔女には関係ないし、興味もない。

 ワシは魔女を探すと言ったはずじゃ」

階段の途中でそういいながら鼻をスンッとひくつかせる。

「…どうやら今この中に人はおらんみたいじゃのう。」

…こいつは本当は煙草の魔女じゃなくて犬かなんかなんじゃないんだろうか。


階段を上り終えると、相変わらず何処からともなくタバコを取り出し火をつける。

そのタバコは見覚えがあるタバコだった。

ウサギの目に赤い色を入れていたのと同じ、赤いタバコ。

深く吸い、ゆっくりと吐き出していく。

魔女の尖った歯の隙間から、ゆっくりと薄赤色の煙は地面に落ちていく。

そして当然の様に、その赤い煙は霧散せず次第に重なり、合わさり、ゆっくりと形をとっていくーーー足跡の形に。

「なんだ? 今度はこれが被疑者の場所まで連れてってくれるってのか?」

魔女が横に首を振る。

「ちょっと違うのぅ、コレは魔女の足跡を追う為のもの。

 そもそも、魔女がいなければなんの効果も出てこんのじゃな。」

其処で気付く、ウサギに足した赤色と別の意味があるという魔女の言葉。

「まさかーー」

おっという顔で魔女がこちらを見た。

「気付いたか、あのウサギにも魔女の足跡を追う、追える様に赤を足しておいたわけじゃな

 場所によってはこんなこともあるだろうからと思っての?足跡を追って、ウサギが居れば確定じゃて。」

そう言いながら魔女が此方を向いて目を細めながら笑って続ける。

「足跡をもし追いかけておったら間違いなくイカれた存在じゃろ?じゃから兎の形にしておいた訳じゃな。」

そうこうと魔女が言う間に魔女の口から染み出した赤色は足跡2つになり、動き出す。

修道院の石造りの床を踏み締めてそろりと歩くその様は、忍び足であるかのような速度だった。

しかし、どうやって戻る足跡だけを選んでいるのだろうか。


「異能の力を使った後の足跡を追いかけておるんじゃよ。」

今ーーー俺は考えを口にしていたのか?

「それ、魔女の居室までーー着いてしもうたか。」


 修道女の居室が並ぶ二階の廊下の突き当たり。

1番奥で赤い足跡と見覚えのある兎が止まっている。

「なるほど、する、するのう、薄らとだが血の匂いがする。」

ゴクリと生唾を飲む音が耳の奥底に聞こえる。

ーー緊張しているのか俺は。

当然といえば当然かもしれない、人一人を気軽に殺せてしまうのであろう能力の持ち主の部屋の前に俺は立っている。

グチャリと潰れた形に次の瞬間なっているかもしれないというのにーー。

魔女は笑う、嗤う。

整って見えるその顔を正しく歪に歪ませて。

「心配せんでいいわい、シス君。

 少なくともお主の事は守ってやるから安心せい。」

その言葉が今だけは心強い。

「さぁ、開けるぞ。」

ドアノブを掴み、魔女が捻る。

何故か鍵がかかっていなかったその扉を開けた瞬間。


魔女の右手首から先が消滅した。


同時に、一緒に入った筈の赤い足跡とウサギが、骨が砕け、皮膚を裂き、肉が飛び散る嫌な音と共に元の煙になって霧散する。

「シガレッーーー」

思わず叫び出していた口を、残っていた左手で魔女が塞いだ。

右手の先からはプレス機にでも潰されたかの様なグシャグシャの右手、指の骨と掌の骨が飛び出し肉と一つになってもはや何かわからない。

痛い、なんて物じゃない筈にも関わらずーー

「ワシの事はいい、ともかくこれで犯人がこの部屋の住民である事はわかった訳じゃからのう。」


ーーそういいながら魔女は俺に向かって笑って見せた。

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