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魔女の願望編21



「さて、シス君も落ち着いたようじゃしーー。

 曖昧な話をする前に、ワシから一つ提案があるんじゃが。」


クソッタレ、忘れたいっちゃ忘れたいのに見事に掘り返してきやがる。

ーーいや、恐らく本人にその気はないだろうし、落ち着いたのは事実だが、余程精神が弱っていたに違いない。

魔女の目の前で泣き散らかすなど無様にも程がーー。


「お主の復讐に手を貸してやってもいい。」

ーーは?

「いやいやいや、待て、待ってくれメリットも何も無いだろう?

 俺に手を貸す意味はなんだ?

 憐憫か何かならーーー。」

そう言いながら、何かが引っかかって言葉が止まる。

そういえば、クラリスの操作を手伝う時にコイツはーーー。

「カカ、思い出したか?

 そうじゃ、あの橋の下でワシは言った。

 魔女による一般人の殺人は厳禁、そんなことをすれば魔女はその内絶滅すると。」

俺のいた孤児院の子供達、そして先生を殺した魔女は裁きの対象に入るということだろう。

「ーーーが、それは建前じゃな。」

「どういうことだ?」

建前。

つまり、本心、もしくは目的が別にあるということだ。

「確かに、一般人の殺人に対しては裁きを与えるというのが、『厄災』を生き残った魔女の中で、『魔女集会』ーー魔女の集まりのことじゃな。

 その『魔女集会』に残った魔女達に言い渡された掟ではあるが、ワシの目的は別にある。」

ーー煙草の魔女の、本当の目的。


「ワシの目的は魔女の根絶、この世界から魔女そのものを消し去ることが目的じゃ。」


鼓動が、早まる。

コイツは、何を言っているんだ。

ーー狂っている。

静かに佇む赤い瞳のその奥にどれ程の狂気を抱えている。


「気狂いかと思うたじゃろ?シス君。」

薄く笑いながら、心の底を読まれる。

言葉がーー出てこない。

「瞳は正直じゃな。でもーーーー私は知ってるんだよ。

 何故、魔女がこの世界に生まれ落ちたのか。

 何故魔女が、この世界にーーー。」


ーーーーオォォオオオン。

どこからか、洞窟の中に風が吹いた時の様な、何か巨大な獣が吠える、慟哭しているような、そんな何とも言えない音が聞こえた。

煙しか見えないこの場所で、一体何のーー。

「っと、この話題は拙かったか。」

「どう言う意味だ、ここでは誰も俺たちの話を聞けないんじゃーー。」

白く長い人差し指が俺の口に当てられ、俺は口を噤まざるを得なくなる。


「すまんなシス君、ここでも駄目なようじゃな。

 ーー全て話したかったが、駄目みたいじゃ。

 まぁ詳しい理由は省くが、ワシは魔女をこの世界から消し去りたいんじゃよ。」

嘘をついていないのは分かる。

至極本気で話している目だ。

間違いなく、全て話したいのだろう。

間違いなく、魔女をこの世から消し去りたいのだろう。

ーー話せない理由はさっきの音なのは恐らく間違いないのだろう。


「で、だ。

 シス君、どうする。」

ーー利害関係は一致している。

だが、俺はただの足手まといだ。

俺と手を取り合う理由はーー。

「お前が俺と手を組もうとするのは、お前が言っていた頼みっていうのと関係あるのか?」

それくらいしか思いつかない。

だが、魔女を殺す技量も無い、碌に役に立たない、コイツから見ればただの一般人男性の俺にができる?

俺よりは間違いなくデニスやチェルシー、フリオやベリーの方がいいに決まっている。

そして、俺よりもコイツの事を慕っているイースタン署長だっている。


「ーーああ、そうじゃ。

 これはお主にしか出来んから、お主に頼みたいんじゃよ。

 ワシのたった一つの願いを叶えられるのはーーお主しかおらん。」

だが、それでも魔女はそう答えた。

ーー魔女嫌いなのはわかって居るはずなのに。

そんな俺に対して、そう答えた。


「分かった、役立たずでも恨むなよ。」

願ったり、叶ったりだ。

1人では間違いなく復讐は果たせない。

手を貸してくれる理由も、建前も本心としてもどちらとしてもある。

そして、何よりコイツの事をーーシガレットの事をいつの間にか信頼してる俺がいる。

恨むべき魔女の筈なのに、だ。


「ーー有難う、シス君。」

礼を言うのはこっちの方だ、と言いたい所だがーー俺の意思はまだ我を張る方を選ぶらしい。

「で、曖昧な話ってのはどう言う話なんだ?」

「カカ…待ちきれん子供のようじゃのう。」

ーーまぁ、間違ってもいない気はする。


「結論から言うと、憶測になるが魔女の名前じゃな。

 そこで、幾つか質問することにーーお主の心の傷を抉ることになるかもしれんが、構わんか?」

今更、そんな事を気にしていたのか。

心の傷というのは、間違いなく孤児院での事だろう。

「構わねぇよ、今更だろ。」

一瞬、シガレットの顔に影が落ちる。

ーーー申し訳なさと悔恨?

二つが混ざったようなその表情は、すぐにいつもの表情に戻った。

そして、新たなタバコを咥え、シガレットはゆっくりと口を開いた。

「では、お許しも出たから話していくとしよう。

 まず最初にワシの分かる範囲からじゃな。

 あの孤児院での惨状からワシの分かる範囲の魔女の名前を伝えるとしよう。

 本人かどうかは分からんがな。」

それでも、充分だ。

名前がわかるだけでも、居るかもしれないとわかるだけでも、復讐の指標になる。


「ワシにわかるのは3人。

 1人はオーア、オーア・エルフェンシア。

 『鉱物の魔女』じゃな、鉄、錫、銅、金、銀に至るまで、鉱石、鉱物の組成、組織を変換、変形させることの出来る魔女で女じゃ。

 孤児院を囲んでいた鉄の塊、一部の遺体に刺さっていた鉄杭は間違いなく奴の仕業じゃろう。」

ーーー胃酸が喉を軽く焼く。

鉄杭と言っていたーーあの場で目が覚めた時にすでに死んでしまっていた、サムとクロエを殺したのはそのオーアという魔女なのだろう。

聞き覚えはある、何処で?

いや、そうだ、あの晩だ。

あの晩、ーー魔女達の会話の中その名前を聞いた気がする。


「大丈夫か?」

顔色が悪くなっているのだろう。

心配そうな顔でシガレットが俺の顔を見る。

「…ああ、続けてくれ。」

ーーなんとか言葉を絞り出す。


魔女はその言葉を聞いて、一拍置いて頷いた。

「続いて、フランクリン、フランクリン・イースター。

 『飛行の魔女』で、無機物、有機物問わず触れた物を自由に飛ばすことのできる魔女、男じゃな。

 体格のいい黒い肌の、歯にHAPPYと彫り物をしている男に見覚えはーーー。」

ーーアンの笑顔が、頭にチラついた。

空中で見えない何かに振り回されて、身体中から血を噴き出して壁に叩きつけられ潰れてーー。

笑う男、口癖、黒い肌、白のスーツ。

『フランクリン、順番はーー』『ーーー最高にハッピーさ、フランクリン!ーーー』

ーー耳の中であの晩の言葉が唐突に再生される。


「そいつ、だ、間違いない。」

「やはりか、あの精神病質者め。

 奴は『厄災』以前から、イかれておるからのう、普通の奴と違って信念も遠慮も無い。

 そして奴がいるということはーーやはりツィンクもか」

ツィンク…頭の中でノイズが奔る。

砂嵐のようになっていた記憶の中にスティーブの顔。

ーーああ、そうだーー全身を捻じ切られてーー首をーー。


『お化粧してあげるね、シス君。』

痩せこけた頬、血色悪い肌、長い髪。

手、元に、ステ、ィーブ、の、千切れ、た、指。


吐いていた。

気づいたら、胃酸が喉を焼いていた。

口の中に、苦味と酸っぱさが広がる。

ーーー今日何度目だろうか。

もう出るものなどなさそうなのに、止め処なく溢れる。


「こっちの方が嫌な思い出があるようじゃのう。

 軽々に名前を出すもんじゃなかった、すまんシス君。」

そう言いながらシガレットが背中を撫でる。

「ーーーいや、いい続けてくれ。」

一瞬、憐れんだ表情を見せ、ため息をつく。

ーーこちらのことを汲んでくれているのだろう。

「ツィンク・スターリング、『螺旋の魔女』。

 目で見た物、触れた物を捩る事が出来るーー男の魔女じゃな。

 引きこもりがちの偏執狂、奴は殺意が怖いのに殺意に触れると興奮するーー変態じゃな。」

ああ、


『ーーーシス君の怨みは全部僕のものになるよね!なるかなぁ!』

ーーあの頃は理解できなかった、その言葉。

今更洪水のように頭の中に再生される。


「よく、知ってる。」

唇から血の味。

噛んでいた下唇を噛み切っていた。


「以上!ワシの憶測で話せるのはこの3人じゃ。

 腸を漁られた遺体、腹の中から弾けたような遺体は該当する魔女が多くてな、コレと言い切るのが難しい。

 首を切断されて手を繋いでおった奴なんざもう何の仕業かすらわからん。」

此方を薄い目で見て、一際長く息を吸い、長く煙を吐く。

その様子を見て、俺は心配されているのだと再度悟る。


三拍置いて、シガレットが口を開いた。

「質問はーー」

「して大丈夫だ。」

間髪入れずに伝える。


ーーふぅ、と溜息を吐き再度シガレットが口を開く。

「無理に、思い出さなくても良いがーー襲撃して来た者の見た目や、名前を聞いた覚えはあるか?」


全部が全部思い返せるわけじゃない。

それでも、断片的だが思い出せる部分が幾つかある。

だが、それよりもーー。

「メアリー、メアリー・サングェ。」

ピクリと、シガレットの眉が跳ね上がった。

「その名を聞いたんじゃな?」

「ああ、時間稼ぎをしている間にクラリスの口からな。

 俺の記憶にも確かにあった…メアリーという名前は。

 名前を聞けば、他の魔女も思い出せるかもしれないがーー」

シガレットが、目の前に手のひらを突き出し言葉を遮る。

「思い出せる時に話してくれれば良いわい。

 それに、メアリー含めて4人。

 どいつかを追い詰めれば、情報を吐く奴もおるじゃろう。」

確かにそれもそうか。

数名の名前が分かれば芋蔓式にいけるーーかもしれない。


「メアリーは、『血の魔女』じゃな。

 擦過傷の一つでもあれば、そこから血液を全て抜いたり、血液そのものを凝固させたり、増殖、変形、浮遊等させる事ができる面倒な魔女じゃ。

 そうか、メアリー…か。」

その顔にどこか郷愁を感じた。

シガレットとメアリーは深い仲だったのではないかと、憶測が頭の中に巡る。


「…ああ、すまんすまん。

 少し昔を思い出しておったわ、他には何か無いかの?」

今思い出せた情報としては全部ではある。

ーーもう一つ無くは無いが。

「あー…。」

ーーー言っていた言葉は思い出せるが、思い出せない。

特徴が無さすぎたからなのか、1時間も経っていない筈なのにクラリスから隠れていたあの時、幻覚か何かの中で見た少年ーー?少女?の顔が。

そもそも、人間だったのだろうか。


「どうした?」

「いや…やっぱり何もない。」

情報を出せないのなら聞き出すことはできない。

曖昧すぎる状況で言われてもシガレットも困るだけだろう。

若年性痴呆症か何かと言われて笑われる未来が想像できる。


「では、ワシから最後の質問じゃ。」

ーーシガレットから?

「アリアナ・クローネ・トリアイナ。

 ーーこの名前に聞き覚えはないかのう?」

アリアナ…揺さぶられるような記憶はない。

一応、ではあるがーー

「アリアナって名前だけなら、警察事務にそういう名前の事務員がいた気はするが。

 下はそんな名前じゃなかったと思う。」

普段の表情と変わらなく見えなくはないーーが、どこかほっとしているように見えなくもない。

「まぁ、其奴は恐らく関係ないじゃろう。」


「なんだ、そのアリアナって奴は、お前の友達かなんかか?」

気軽に聞いたつもりだった。

ーー何で、そんな表情をする。

ーーーどうして、そんなに悲しそうな顔をする?


「ーーまぁ、そんなもんじゃな。」

その言葉を言い終わる頃には、いつもの余裕綽々な表情に戻っていた。

「…その、なんだ、すまん。」

「なーに謝っとるんじゃ、我慢出来ずに聞いたのはワシ、その疑問がでるのを予想仕切れていなかったのもワシ。

 気にするもんではないわい。」

紫煙を燻らせ、笑う。

「さて、他に聞いておきたいことはあるかのう?」


ーーー他。

そういえば、一つ違和感を覚えた話がある。

「魔女を根絶する、って言ってたがーー。

 魔女は死んだら、新しい同じ魔法を使える魔女が生まれるんだよな?

 イタチごっこだ、どうしようもないんじゃねぇのか?」

「当然の疑問じゃな、では実演して見せるとしようかのう。」

実演?

魔女が、短くなったタバコを捨て、どこからとも無くパイプとーーー千切れた指を取り出した。


「聞かれる前に答えておくが、これはクラリスの小指じゃ、これをーーこうして。」

パイプに、小指をさしてーー

「こうする。」

ーー小指に火をつけ、口をつけた。

ジリジリと、紙巻きタバコのように指先から灰になっていく小指。

油脂を含んでいるからか、普通のパイプと違い火が消えない。

いやーーー。

「ーー何を、してるんだ?」

慮外にも程がある。

どういう発想に至れば、その行動が取れる。


「のう、シス君タバコとはなんなんじゃろうなぁ?」

いきなり、何を言い出すんだコイツは。

「煙草の葉を加工したものだろ?」

魔女が頷く。

「そして、非常に体に悪い。

 そもそも煙草の葉は人に毒じゃ、そのまま食ったりすれば当然、仕事で煙草の葉を触っているだけで、頭痛、眩暈、発熱、嘔吐の症状に苦しまされる。

 それを薬液につけたりしたものを粉にして紙で巻いたり、葉っぱそのものを巻いたりした物を燃やし、煙として体に取り入れ溜めることで発癌やらなんやらのリスクがあるわけじゃな。」

…耳が痛い。

好きで吸っているからどうでもいいと思っていたが、改めて聞かされると堪えるものがある。

「おぉ、すまんすまん、説教したいわけじゃないんじゃ。

 こんな話をしたのもワシ自身にも理解できておらん力が合ってな。

 相手の一部を煙草扱いにして取り込むとーー何故か、異能を持った魔女が死んでも同じ異能を持った魔女が現れなくなるんじゃな。」


そんな都合の良い力が。

何もかもお誂え向きのような、ご都合主義の塊のような存在があるのだろうか。

こんな存在が、魔女を殺そうとしていること自体ーー

ーーいや、逆なのか?この力があるからシガレットは魔女を排斥しようとしているのかもしれない。

何方にしても、俺にとっては都合が良い。

「既に試したことが、あるってことか。」

表情にはおくびにも出さずに、その言葉を口から出す。

魔女が、パイプから口を離し頷いた。

指の長さはもう三分の一も残ってはいない。


「恐らくは、人間に対する毒である魔女を体にストックしているようなもんなんじゃろう。」

そういう、力があるのであれば、このシガレットを残して魔女の存在を消すこと自体は可能なのだろう。

そして、ストックということはーー。


「あ、ストックと言ってもワシが圧縮の魔女の異能を使う事はできん。

 残念ながらな。」

出鼻を挫かれた。

煙草と圧縮の二つの異能を同時に使えれば話はもっと楽になったかもしれないのに。

「そうか…。」

「そう残念そうな顔をするでないわ。

 それにな、そんな異能を持ってしまったら、ワシ自身が世界を滅ぼしかねんぞ?」

カカと笑う魔女を見て、どこか安心する。


こいつは本当にそういう奴なのだろう。

世が世なら聖人と呼ばれてもおかしく無いのかもしれない。

ーーいや、それはあくまでも人から見たらの話だ。

魔女の中では悪魔やら死神と呼ばれるのかもしれない。

俺が見ているのは所詮一側面なのだろう。


さて、ここまで答えてもらったんだ。

俺も良い加減聞くべきだろう。

「で、結局ーーお前の頼みってのはなんなんだ?

 俺の復讐に全面的に協力してまでーー同胞を殺してまで叶えたい、俺にしか叶えられない願いってのはなんなんだよ。」

吸い終わったパイプの中の灰を地面に捨てて、魔女が、俺の瞳を見る。

いや、俺の目の奥にある心を見据えているように感じる。

魔女が生唾を飲み込む音ーーー緊張しているのか?

一瞬目を瞑り、意を結したように目を開け、口を開いた。


「ーーワシの頼みーー願いは一つ。

 全てが終わった後の話になるんじゃがーーー。」


この後の言葉は、俺が予期していないものだった。

否、今までは考えていなかったが、今の言葉を聞いて一瞬頭を過った内容。

そしてその言葉は、俺の今後の人生を大きく狂わせる物だった。

この日聞いた言葉を、俺は忘れる事はない。

ーーー聞かない方が、良かったのかもしれない。

俺にとって、その一言は今後を縛る呪いと変わらないのだから。



「のう、シス君、ワシを殺してくれんか。」



耳の奥でコダマする。

ワシをーー?

今なんて言った?

殺してくれんか?

ーー殺す?俺が魔女を?

殺してくれ、殺し、ワシを殺して、してくれんか、殺し、ワシを殺してくれんか?

何度も何度も、耳に届いた言葉が脳で反芻され、ゲシュタルト崩壊を起こしていく。


魔女の言っていた言葉が思い出される。

2人に利点のある話、俺にも魔女にも。

魔女にとって、死が利点、俺にとっては魔女への恨みを晴らすことが利点。

確かに、それは双方に利点のあることなのだろう。


一瞬、頭の中に『シガレットを殺したら魔女が復活するのではないか』という言葉が飛来する。

ーーだが、分かる。

この魔女はそれも含めて手を打っているからこそ、俺に殺してくれと懇願している。


だが、俺はコイツにーーシガレットに今回命を助けられた。

俺はシガレットに、足を治してもらった。

先ほどは触れなかったが、間違いなく修道院での一件でも俺はシガレットに助けられたんだろう。

シガレットのおかげで俺は辛うじてここで生を繋いでいる。


命の恩人をーー殺す。


魔女は俺の願いを叶える手伝いをするという。

ーー孤児院を地獄に変えた魔女達への復讐に手を貸すと。


願いを叶えてくれた物をーー殺す。

それが願いなのなら、叶えるのがーー正しいのだろうか。


いや、そんなことはない。

殺すこと自体が、正しいとは思えない。

そうだ、それこそーー隠居か自殺でもしてーーーー。




ーーーシガレットの目を見てしまった。

高圧的に見てきていた、人を、俺を小馬鹿にしていた筈のその瞳の奥にーーー諦観と絶望を。

魔女に対しての、諦観を。

積み重ねられた、絶望を。

その瞳は如実に語る。


ーーー全ては予想だ。

だから、(聞きたくない)聞くことにした。


「この前の話から予測するに、お前は自分で死ねないんだな。」

自分の声が震えているのが分かる。

煙草も吸わずに此方の目を見て魔女が頷く。


ーー先日の一件。

胸と腕と足を打ち抜き死ねず、自身の顳顬にトリガーを引き死ねなかった。

ーー今日の一件。

俺は直接見ていないが、狙撃で魔女は死なず、爆破でも死ななかった。

死ぬ方法、殺される方法は聞いている。

異能の力で殺される、首を違わず寸断する、異能の力を使い切ったところで殺される。

把握して居るだけでこの三つ。

他にもあるのかも知れないがーー。


異能の力で殺される。

ーーだが、それでは煙草の魔女が死に、異能の力を持った魔女がまた解き放たれる事を意味する。

首を違わず寸断する。

ーー恐らくこれは彼方と呼ばれた刃の魔女に起因するのだろう。

彼方並みの技量があって初めて行えるモノであり、本来誰にも出来ないものなのだろう。

そして彼方は『刃の魔女』。

魔女の根絶を掲げるコイツの願いを叶える為には彼方も根絶の対象に入っている。


だからこそ、使い切ったところを殺すのみに絞られる。

どう言う状況でそうなるのかは分からないが、そうなる予定があるのだろう。

その白羽の矢が俺に立ったのだろう。

ーーー慕う署長ではなく、なんの感慨も持っていないベリーやフリオやデニスでは無く。

魔女を怨んでいるーー俺を。


「ーーシス君。」

目の前が揺れる。

ーー命の恩人、願望を叶えてくれる存在。

ーーー望むのは、自殺を選べない、死ねない自分自身の死。

俺はーーーーーー



「ーーー分かっ…た。」



ーーー魔女の言葉を承諾した。


「有難う、シス君。

 お主はワシのーーーー私の希望だ。」

気づかない間に俺は唇を噛み締め、噛み切っていた。

そして、再度白煙に包まれ、俺の意識は失われた。


意識が失われる直前、見えた魔女の顔はーー笑ってみえた。

初めましての方はもう恐らくいらっしゃいませんね。

どうも、筆者の冬草です。

22部分もの魔女の願望編の読了ありがとうございました。

本当にお疲れ様です。

此処まで書き切れたのも一部分でも読んで下さった読者の皆様のおかげで御座います。



さて、本編の方は魔女の願望がついに明らかになりました。

想定合っていた方はおめでとう御座います(?)

圧縮決戦編等ではなく、魔女の願望編になっていたのはそういう事です。

圧縮の魔女、クラリス・クランとの戦いの先がこのお話の終着点だったからですね。


『連続圧縮殺人事件』は此れにて終わりですが、次の部分は御座います。

そして、シガレットとシス警部のお話はまだ始まったばかりです。

はい、cigaretteはまだまだ続きます。

それと次の部分の更新後、もう一つ部分を付け加えさせて頂いて『連続圧縮殺人事件』は完結とさせていただきます。


重ね重ね、此処まで読んでいただきまして誠に有難う御座いました。



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