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魔女の願望編17


壁の向こうから、巨大な建物が崩れる音が聞こえてきた。

方角は間違いなく化学工場の方だ。

ーー確認するまでもない、化け物同士の殺し合いだ。

煙草と銘打っている魔女と、圧縮と銘打っている魔女が殺し合っているのならそう言うことも起きるだろう。

ここに来るまでは引きずっていた左足はもう痛みはない。

どうなっているのかは分からない、まるで時でも巻き戻ったかの様に靴と靴下まで御丁寧に戻ってきている。


「ーーすくん」

…また幻聴か?

結局先程、クラリスと出会った時のアレも一体何だったのか分からないがーー今聞こえているのは魔女の声だ。

だが、化学工場で殺し合っている魔女の声が近くとはいえ建物の中にいる俺に聞こえるわけがない。


「あー、シス君。」

そう、あり得ないのだ。

マイクテストのようにわざとらしく声を出している魔女の声など聞こえるはずがない。

これは俺の脳に負荷がかかりすぎたために聞こえてきてしまっている幻聴に過ぎなーーー。


「シス君?聞こえておらんのか?」

ーーー三度、虚空から魔女の声が聞こえる。

今日の一件で大抵の事には驚かない胆力を手に入れたつもりだったがーー


「どうなってんだ…?」

「お、聞こえておるようで何よりじゃ。

 お主に囮捜査初日に吹きかけた煙、あれを使って通信しておるんじゃが。」

何でもありだな、おい。

「まず最初に謝罪しておかなければならんことがあるんじゃよ。」

謝罪?

「謝罪って何をだ?俺を危険に巻き込んだ事なら別にーーー」

次の瞬間、魔女の口から飛び出してきたのは想定外の言葉だった。


「すまん、クラリスを逃した。」


ーーーは?

「任せておけなんて言っといて、恥ずかしい限りなんじゃが…」

いやいや、いやいやいやいや。

「ちょっと待ってくれーー何があったんだ?」

「説明したいんじゃが…その前にちょいと助けてくれんか?」


ーー助け?

「…俺に助けられる事とかあるのか?」

正直あるとは思えない。

「崩落に巻き込まれて動けんのじゃよ、すまんが出るのを手伝って欲しい。」

成る程、力仕事か。

「ーー…分かった、取り敢えず工場の方に向かえばいいんだな?」

「うむーーでは、待っておるぞ。」



ーーー数分後、俺は道中予測していた嫌な予感が的中している事に頭を抱えた。

化学工場が排煙用の煙突?を残して完全に崩れ落ちていたからだ。

ビル6階分ほどの瓦礫が堆く積み上げられている。

こんなもん、何か機材でもなければーー。


「シス君、来てくれて助かったわい。」

またも虚空から声が響く。

「助かったもクソも、こんなもん俺1人じゃ撤去のしようがーー。」

「ああ、お主がコミックのヒーローでもない限り無理じゃな。

 ところで渡したライターは持っておるかの?」

ライターならまだ持っている。

...コイツもコミックとか読むのか。

「ある。」

「無くしておらんかったか、重畳重畳。

 ではそのまま、二回蓋を開けて、二回回して一呼吸置いてから、三回目で火をつけてくれるかのう。」

言われた通りの行動を取ればいいのだろうがーー。

「ーーさっき火が点かなかったんだが。」

「構わん構わん、動作だけでいいわい。」

また何か起こるのだろうか。

手首のスナップを利かせてカチャカチャと蓋を開ける。

フリントホイールを二回回し、一呼吸置いて火をつけるーー動作をする。

案の定火はつかない。

「動作をしたなら、取り敢えず何処かに置いといてくれんかのぅ。」


「うむ、条件は整った。

 では、シス君、目の前にパイプが出ておるな?」

パイプ…?

ああ、あるな確かに。

水道管か何かなのだろうか瓦礫に挟まって折れてしまっているが。

ーーってか、的確に指示をしてきているがどこから見てるんだ?

周りをもう一度見渡す、が何処にも見えない。

まぁ、キョロキョロしていても仕方ない。

取り敢えずパイプは見つかったのだから。

「ーー見つけた。」

「見つけたなら、ちょっと強引でも構わんからそれを引き抜いてもらえるかのう?」

いまいち何を望んでいるのかは分からないが、言われた通りに引き抜く。


ーーッン!

いや、これ片手じゃ無理だな。

両手で引き抜く事にしよう。

一度手を払い、唾を手に吐いてL字に曲がったパイプをしっかりと掴み腰を落とす。

「フッーー」

息を吐き力を込める、腹筋、前腕、二頭筋、背筋、胸筋ーー。

「グッォオオオオオオオ!」

大腿筋、腓腹筋、大腰筋、ハムストリングスーー全ての筋肉をフル活用し、歯を思いっきり食いしばる。

「ーーラァァアアアアッッーーーー!!」

そして急に来た無重力感。

目の前には抜けた鉄パイプ、背中に衝撃ーー。

そして、目の前で、瓦礫がさらに沈み込んだ。


「ーーーは?」

何か、柔らかい物が潰れる音。

言ってみれば、トマトか何かが、潰れたような音。

と、同時にライターの火が付き瓦礫の隙間から煙が湧き出す。

その煙がゆっくりと人の形を取りーーーーー。


「ふぅ、助かったわい。有難うシス君。」

そこには無傷の魔女が立っていた。

「はぁ!?」

「おー、その反応その反応。

 やはりシス君はいい反応を返してくれるのう。」

何事もなかったかのように魔女がこちらを見て笑いながらーーー俺の手を掴み走り出した。

「おぉっ!?」

「まだ間に合うかもしれんから、行くぞシス君。」

引っ張られ無理やり走らされる。

何をするにも相変わらず唐突だ、人との距離の測り方が分かってないのか?

「分かった、分かったから手を離せ!」

「おお、すまんすまん。」


無理やり繋がれた手を払いながら俺は魔女と並んで走り出した。

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