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魔女の願望編 10


度重なる炸裂音と、最後の爆発音。

何が起こったのか、何が起きているのか。

どうなったのか。


ーーー俺には分からない。


あのシスター3人は無事逃げられたのか。

あの赤と白の照明弾はなんだったのか。


ーーー俺には分からない。


三発目以降聞こえなくなった、狙撃音。

最後に聞こえた爆発音。

最悪の想像が俺の頭を掠める。

もしかして、狙撃していた奴は殺されたんじゃないだろうか。

もしかして、シスター3人も殺されたんじゃないだろうか。

もしかして、俺がいく先にいる筈のベリーは殺されているんじゃないだろうか。

もしかして、魔女も殺されてもういないんじゃないだろうか。

もしかして、もしかして、もしかして、もしかして、もしかしてーーーー


ーーもしかして、俺の不用意に吹いてしまった笛の所為で俺以外は全員ーー。

背筋が凍る。

いや、俺は信じるしかない。

最悪の想定でもなんでも所詮は想定だ。

そんな考えで足が止まるくらいなら、何も考えない方がマシだ。


もうすぐ着く、この角を曲がれば、もうすぐーーーー。


「…ここ…は。」

目の前には巨大な工場。

だが、明らかな違和感がそこにあった。

「ーーー崩落してーーーいない?」

巨大な煙突、6階建てのビルの様な見た目。

その何処をとっても欠けすらしていない巨大な建造物。

目の前には、崩落していた筈の『メモリアル科学研究所ロークタウン支部』が確かにそこにあった。


なぜ、どうして、なんでーー。

胃酸が上って喉を焼く、俺の思い出と、魔女の言葉。

あの医者も、叔父も、叔母も?

俺に、嘘を、吐いて。

否、否、それを考えるのは後だ。

今しなければならないのはここに着いて俺がどうしなければならないのかーー。

工場の入り口に封筒が貼り付けられているーー?


鉄の扉に貼られた封筒にはSへとだけ簡潔に書かれていた。

恐らくはシスーー俺の名前の頭文字だろう。

開けて中を覗く。

『これを見ているということは無事に工場の入り口に着いたと云うことだと思う。』

署長の文字だ。

無事とは言い兼ねるが、とりあえず着いてはいる。

『そして、この紙を見ているということは君を手助けする予定だった者に何かしらの問題が起こってしまったと言う事だ。』

ーーー俺が不用意に吹いた笛の所為ーー。

『だが、君が気に病むことはない。

 彼らも覚悟の上だ、読んでいる時間も勿体無いかも知れないから手早く結論を書く。』

ーーー。

『君がもし逃げ出したいと云うのなら、止めはしない。

 下水道に戻るもよし、若しくはあらかじめ開けておいた人1人が通れる壁の穴の場所を記した地図を用意しておいた、一緒に入れてあるだろう。』

ーー壁までの地図が確かに一緒に入っていた。

だが、紙には続きが書いてある。

『だが、もし君がまだ魔女を捕まえる、もしくは殺すと云う意思があるのなら、工場内に入って同封のもう一つの地図の印のついてある場所まで逃げ延びなさい。』

もう一枚…。

確かにもう一枚、工場内の地図がある。

『どちらを選ぶにしても、急いだ方が良い。

 でも、きっとシガレットさんは君の力になってくれる筈だ。』

ーー魔女。

チェルシーが言っていた、魔女がいるかどうかは分からない、と。

本来明日の予定だったこの作戦、デニスかチェルシーが仮に現在の状況を報告しているとしてもここに来るのに車ですっ飛ばしても2時間はかかる。

デニスと別れて未だ30分しか経っていない。

ーーー絶望的だ。

この状況で戦う事を選ぶのか、否か。

俺は選択を迫られている。


「シス様。」


声が聞こえた。

後ろを振り向くと其処には黒い軍服に身を包んだエンリケ。


「お待たせしました、少々手違いがございましてーーその紙読まれたんですね。

 私が来たのでもう破り捨てて下さって結構ですよ。」

「ベリーは?」

ベリーが構えていると云う話だった筈だ。

「その話もさせていただきますが、まずは中へ、シガレット様が来るまでの時間稼ぎをしましょう。」

「アイツは来るのか?」

「ーーええ、必ず。」

どこか確信を持ってそう答えるエンリケの言葉。


「取り敢えず、現状の説明をします。」

扉を開け、中を何かを確認する様に覗き、銃を構えながらエンリケがそう切り出した。

「ああ、頼む。」

「まず最初に今この場で戦える状況にあるのは私だけです。

 シガレット様はどうなのか知りませんが、デニスとチェルシーに関しては貴方の方が詳しいでしょう。

 残りのベリーは装備が壊され補給に向かう為に撤退、リコ副隊長は殉職されました。」

ーーーは?

死んだ?


「待て、待ってくれ、あのメイド長が?」

「はい。数分前に聞こえたでしょう?爆発音。」

なんでーーと言いかけて飲み込んだ。

今それを問いただしたところで意味はない。

今ーー足を止めるべきではない。


「シガレット様は現在、屋敷の中にはいません。

 屋敷にデニス、チェルシーの両名から連絡があった時点で居なかったと執事長から連絡を受けているので、何かしらの知見を得られてこちらに既に向かっているのでしょう。

 それと、今此方に標的が現れた事が発覚したので、数分前からですが執事長が此方に向かっています。

 ーーー私からの説明は以上ですが、それ以外に何か聞きたいことはございますか?」

聞きたいことーー。

聞きたいことなら幾つかある。

そもそも、エンリケ自身が答えを知ってるとも限らない。

だが、それでも怪しいと思えるものは潰して置かなければ気が済まない。


「エンリケ、あんたはこの場所が地盤沈下で崩落をしたって話を聞いたことはあるか?」

「ええ、あります。

 なので先日チェルシーから話を聞かされて驚きました。」

チェルシーから聞いている、のであれば

「それなのに、チェルシーはこのガスマスクを俺によこしたのか?」

これは必要なかったんじゃないか?

「ええ、この科学工場が決戦の場になるのであれば何かの拍子に薬液が溢れる可能性もありますので。」

ーーー、一応筋は通っている。


「ーー魔女はここの事を知っていたか?」

思い返せば、あの晩魔女は俺の言う事を聴いていただけだった。

そう、俺の言っていた内容を肯定も否定もしていなかった。


「いえ、流石に其処までは分かりかねますがーーっと着きましたね。」

足を止めた場所は奥まったところにあった大きそうな幾つかの部屋がある区画だった。

その中の一つの部屋の扉をエンリケが開き中に入れと手で催促される。

促されるがままに中に入るとエンリケが口を開いた。


「…シス様が何を聞き出したいのかは正直分かりませんが、私の所感をお伝えしましょう。」

人が入るほど大きなドラム缶が棚の上下に大量に並ぶ部屋。

恐らくは、薬液を詰めるためのものなのだろう。


線の様な目を少し見開き、エンリケは語り出す。

「シガレット様は特に何も表情を変えていらっしゃいませんでした。

 そもそも知っていたのか、またはあの方が魔女だからできる芸当なのか、それとも鉄の心臓を持っているのか、もしくはどこか予想していたからそうなっていたのかは分かりませんが、感情は読めませんでしたね。」

そう言いながら、手に持っている銃の状況を確認し始める。

ーー聞けるのであれば本人に聞くしかないか。


「そうだ、1番伝えなければならない事を忘れていました。」

銃をカチャカチャとやりながらエンリケが急に声を上げる。

「もう1人、謎の敵がいます。」

「謎の敵?」

そんなことを言われても何も伝わってこない。

そう思っていると怪訝な顔をしていた俺の表情を気にしたのか。

「申し訳ございません。

 本当に謎の敵としか伝えようがないのです。」

とエンリケが謝ってきた。

ーーー言葉に詰まる。


「何か非常に鋭い刃を扱っていたのですが、顔も性別も何もかも確認できなかったので謎の敵と呼称させていただきました。

 ベリーの武装と私の武装を斬って捨てたのはその敵です。」

斬って…?

「待て、待ってくれ、もしかしなくても斬られたのは銃なんだよな?」

エンリケが頷く。

銃の素材は間違いなく高強度なものだ。

俺も詳しくはないが少なくとも鉄並みの硬度で間違いないはずだ。

それを斬った?

アニメやコミックじゃないんだぞ?


「信じてくれないかもしれないと思っていましたので持って参りました…これが証拠です。」

そういいながら取り出されたのは真っ二つになった無線だった。

恐ろしいまでに滑らかな断面。

何で斬ったらこうなるんだ…?


「なぜか向こうには私達を殺すつもりが無かったのか…この切断以上のことは何もしてきませんでした。

 あの腕なら私とベリーを真っ二つにすることもできた筈なのに、です。」

どう言うことだ…?

「考えても恐らく答えは出ないかと、襲撃された我々ですら首を捻る始末ですので。

 …ですが、シス様が殺されないとも限りません、其処でこれを。」

そう言いながら手渡されたのは拳銃とマガジン、そして小さな丸い球だった。


「これは?」

「見ての通り、銃とマガジンですね。それとその丸いのはえんもく?えんまく?…だったか…。」

煮え切らない言葉だ。

「フリオが作ってくれているもので、力一杯地面に叩きつけると煙が充満する様になっています。

 刃を使うのであれば、大前提として標的が見えなければ斬ることは出来ませんし、今来ている魔女にも使えますよ?

 あの魔女は見えているものしか潰せなさそうなので。」

ーーなるほど…?

いや、待て、何かがーーー!

「アイツから話は聞いてないのか?」

「なんの話でしょう?」

「魔女は罠を作り出せるって話だ、俺はこの間それでーー」

「その話でしたら聴いてはいますが、昨晩の間にここの罠に関しては確認済みです。」

ーーーーあぁ、なんだ結局杞憂だったのか。


「ーーおぁっ!?」

3cm。

目頭を押さえて目を瞑って首をふり目を開けると、至近距離にエンリケの顔があった。

なんだ!?


「シス様はシガレット様の事をお疑いなのですね?」


一瞬、空気が固まる。

息が、し辛い。

「…踏み入ったことを聴いてしまって申し訳ございません。」

そう言いながら立ち上がる。

「ですが、私の感覚ではあの方は私達の事を全力で助けようとしてくださっていますよ。」

そう言いながら、ポケットからタバコを取り出し、エンリケが咥えて火をつけた。

ーー予想外の言葉だ。

俺より短い期間で、エンリケは魔女の事を信頼できている…らしい。


ーー煙を吐く音が聞こえる。

「タバコを吸い終わるまでの間、話を聴いてもらって良いですか?」

…そんなことを振られると思っていなかった。

取り敢えず頷く。


「…信じられないかもしれませんが、私、実は人の感情が色で見えるんですよ。」

「色で?」

そんなことあるわけない。

「ええ、何も考えていない時は何も見えないんですけどね、たとえば今の貴方は青色です。」

大きく吸い、煙を吐き出して、エンリケが頭を掻いた。


「青色は疑いの色、どこか怪しんでいる色です。

 貴方は私の言葉を信用仕切っていない…まぁ、私も同じこと言われたら疑いますけどね。」

当たっている。

まさか本当に、色で感情が見えるのか?

「今は緑色、少し私の言っている事を信用しています。

 ちなみに怒っている時は赤、殺意は黒、喜びはオレンジですね。

 戦争で駆け回っていた時は周りが黒とオレンジと赤で大変でした。」

また、当たっている。

試しに殺意をーーって無理か、俺はエンリケのことを殺したいと思える様な人間じゃない。

「今灰色でしたね、試したがる人間は大抵偽の殺意をぶつけて来るので良く見ます。」

言い当てられるのが少し恥ずかしく感じる。


「さて、当然この数日私は貴方たちのことを見ていました。

 貴方はシガレット様、そしてネル様と一緒にいる間、青と赤、そして黒の色が非常に多かった。

 これは、共にいる存在に対しての感情としては中々に凄まじいものです。

 ネル様にすら黒色の感情をぶつけていたのには驚きましたね、それも広間で抱え上げた時に。」


『ー例えーーーとーても?』

嫌な感覚。

内臓をかき混ぜられているような、嘔吐しそうな。

バレていたのか、あの時の感情が。


「ご心配なさらず、何も言いませんし誰にも言いませんよ。

 察するに、あの子も魔女なのでしょう?

 ーーそして貴方は魔女を恨んでいる。」

その通りだ。

言い当てられるのはこれで何度目だろうか。

ーーあの魔女にあってから、これまでひた隠しにしていた筈の全てが漏れ出てしまっているかのようだ。


「さて、ここからが本題です。

 ーーシガレット様は色がほとんど見えませんでした。

 笑っている時も、誰かと話している時も、興味深げに花を見ている時も。

 そして、自分を撃った時もです。

 唯一、時たま見えていたのは紫色ーー慈愛の色です。」

ーー慈愛。

「シガレット様は人間を慈しんでいらっしゃっいます。

 普段色が見えないのは何故なのか、それは分かりかねますが、少なくとも慈しんではいらっしゃっているのです。」

煙を吐き出し、短くなったタバコをエンリケは地面に捨て踏み躙る。


「貴方がどんな考えでも構いませんが、自分の命のためです。

 今回くらい、少しは信じてみてもいいのではないですか?」

ーーーコイツはどうしてーー。

「俺、はーー。」


刹那、聞こえてきたのは何度か聴いた鉄のひしゃげる音。

そして、爆発音だった。


「入り口が破壊されましたね。

 ーー普段こう言うことは言わないんですけどね、シスさん。」

そう言いながら、常に上がっていた口角が真一文字に結ばれた。

「副隊長の事も、もし私が死んでも私のことも、気にしないでください。

 笛を渡したのは私です、そして、私達には勝手な自負があった、それを見誤って死んでしまっただけですので。

 貴方は何も悪くない。」

ーーどうして、コイツは、予想外の方向から俺の欲しい言葉を持って来るんだ。


「それではーー」

エンリケがそう言い、扉を開けながら俺の方を見ると一瞬呆けた顔になった後、いつもの笑顔に戻った。

「…ふふ、いい色ですよシスさん。

 死ぬかもしれない直前に見るにはとてもいい色です。

 それでは、行ってきます。」

「ーーー戻ったら酒でも。」

「世間ではそれをフラグというので、それ以上は言わないことをお勧めしますよ。」


そんな軽口を叩きながら、エンリケは扉を閉めた。


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