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魔女の願望編8


巨大な建造物が崩れ始める音が、三件先から聞こえ始めた。

息を整え、扉を大きな音をたてて蹴りながら開け放つ。

自分の命を危険に晒さなければ、勝手に巻き込まれたとはいえ無辜の一般市民の命が失われる。

叫ぶわけにはいかないが、この扉の音で気付くだろう。

崩れた建物と逆方向に、振り向かずに俺は走り出す。

目標地点とは逆方向だが、先ほど覚えておいた地図を頼りに細い道を経由しながら全速力で走れば恐らく逃げ切れる。

建物を壊し切るのには大凡数分のタイムラグもある。

建物が完全に潰れ切る異音が聞こえたが、その前に予測していた建物を曲がる。

このまま、迂回をしてーーー。


…音がしない、建物が崩れる音も、何か別の物が潰れる音も。

俺の走る音しか聞こえてこない。

ーーーまさか。


女性の声が聞こえる。

何を言っているかまでは聞き取れないが。

そしてーーーー何かがーーー潰れる音。

俺は思わず、ガスマスクを外してエンリケから貰っていた笛を吹いた。


直後、発射音と轟音。


俺には確かに何も聞こえなかった。

だが、確かにその音はメイドか執事の誰かには伝わっていた。





ーーー同時刻 350m先の建物屋上ーーー


「腹部、着弾。標的はまだ両足で立っている。

 頭部、捕捉。」

装填する手を見せずもう一発。

「発射。」

肩に衝撃、50口径は骨にくる。



ーーーーああ、クソ、マジか。

戦車を撃ち抜いて中身を丸焼きにする弾だぞ?

スポッターのエンリケの顔が歪むのを久々に見た。

何時もどこか人を小馬鹿にした顔をしている細目なのに、その細目を歪めている。

まぁ、正直私も同じ顔をしたい気持ちだが。

「エンリケ」

装填し直しもう一度スコープを覗き込む。

「場所変わらず、もう一射。」

息を吸い、止める。

焼夷弾分が炸裂した勢いと濃い霧の所為で標的が非常に見辛いがーーまだ、シルエットは見える。

引き金を引く。

ーーー衝撃。

ーー急に横に引っ張られる感覚。


その視界の端で確かに見た。

ヘカートⅡが縦から潰れて鉄屑になるのを。

エンリケに引っ張られなければ私もーー?

つーか、聞いた話がマジなら見えるものしか潰せないんじゃないのか?

この距離でスコープなしでよく見えるな?

「うわ、マジですか。私あれと戦わなければならないらしいですよ。」

「...あんたなら大丈夫でしょ?」

「馬鹿言わないでください、この距離でもあの訳のわからない力は届くみたいですし。」

...確かに、此処は350mは離れている。

本当は1.5キロ先までなら余裕だが、この辺りで廃棄区画を区切る壁を除いて一番高かったのは此処だ。

見渡せる位置でなければ、いざというときに間に合わない。


...?

追撃が来ない。

「...これで戦いようが出来ましたね。

 どういう原理かは分かりませんが、目の届く範囲出なければあの力は使えないみたいですね。」

「そうね、そういうやり方はあんた得意だもんね。」

コイツはスモーク焚いたりしながら影から暗殺していく系の根暗だ。

「そういう言い方は傷つきますね。

 まるで私が卑怯者みたいじゃないですか。」

言葉の端に出てたらしい。

まぁ事実だしどうでもいい。

「今日は何故か霧も濃いですし、スモークと混ぜればまぁほぼ見えないでしょう。

 恐らく先程のはマズルフラッシュを狙ったみたいですしね。」

そう言いながらサーマルマスクを装着している。

「援護は頼みますよ。」

「ヘカート潰されちゃったんだけど。」

SCARを手渡された。

きちんとスコープも付いてる、コイツ何手先まで読んでんだか。

「スポッターのアンタがいなくなるのに?」

「一人で一個中隊を2キロ先から1週間寝ずにFRF1で足止めし続けた貴方がそれを言いますか?」

「アンタも撹乱してたでしょーが!」

エンリケが小さく笑う。

「そうですよ、我々2人が揃ってるんです。

 相手が本の中から出て来ようが手玉に取れるでしょう?」


相変わらず嫌な事を思い出させる。

昔からいけ好かない、いけ好かないが。

「5分で位置につくから。」

コイツには何度か命を救われた、そしてコイツの命も幾度も救ってきた。

だからこそ、信頼は出来る。


ーーそして、だからこそ

私も、エンリケも油断していた。

私達がいたビルの屋上の入り口、その扉の向こうに誰かがいる。

「これは予想していませんでしたね。」

此処は廃棄区画、人は居ない。

今居るのは私とコイツと魔女とクソ男と迷い込んだ修道女3人。

スコープで周囲はずっと張っていた、魔女から目を離さないようにしながらエンリケも確認していた。

それにこのビルにはチェルシーに頼んで侵入者用のトラップも仕掛けておいた。

そもそも入り口に入った時点で此方に分かるようにしておいた。

それを素通りーー?

十重二十重に張り巡らせた入念に作ったトラップを素通りできるような手練れが入り口の前に居るーー。


エンリケが手でサインを出す。

第二の脱出路、ビル側面を縄で降りる方向にシフトしろ。

3.2.1。

スモークが焚かれて屋上が一瞬で煙で覆われる。

ダッシュ。

刹那、切断音。

ーー金属を切断する音が聞こえた。

そして、闇と煙の中を奔る銀閃が縄を掴んで降りる直前に見えた。

降りきり、すぐ側の建物を曲がり走る。

「エコー!」

「一度撤退しますよ、ブラボー」

「は?でも作戦が」

「ダメです、私も貴方も武器をやられた。」

は?何言ってんだコイツ。

背中に担いでいたSCARを前にーー。


ーーは?

私の目の前には綺麗に切断されたSCAR。

エンリケのFAMASも紐の部分を残した状態で上下が綺麗に切断されている。

「何より恐ろしいのはこの状況で私達を殺さずに武器だけを破壊してきた事です。」

エンリケが汗を垂らしながら目を薄く見開いている。

今日は珍しい表情をよく見るーーー。

ーーーじゃない、一瞬現実逃避をしていた。

「つまり、アレは」

「警告です、手を出すなという。

 アレに対抗できるのは副隊長か隊長くらいでしょう。

 至急連絡をーーー。」

頷き尻のポッケから無線をーー。

「エコー、駄目だわ。」

ポケットからは真っ二つになった無線機。

ポケットには無線機の幅だけの線が入っていた。

あの一瞬で、いつの間に?

「仕方ありません、信号弾を使います。」

うわ、マジか。

まさか使うことになるなんて思ってなかったのに。

ブーツの部分と胸元に隠しておいたパーツをエンリケに投げて渡す。

「弾を。」

と言いながら速攻で銃を組み立てるエンリケを横目に見る。

はー、本当に2日前から飯食ってなくてよかった。

胃に力を入れて袋入りの弾を吐き出す。

袋破けてなくてよかった。

後10ゲージ弾だから割とキツい。

「赤と白」

「分かってる。」

言われた色を投げる、即装填、発射。

間髪入れずに二発目の装填、発射。

これでリコ副隊長が動いてくれる、筈だ。

クソ男と修道女を助けるならもうそれにかけるしか無い。

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