表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

魔女の願望編 5


ーーー1日前、午前10時頃。

ウェストサイド4番通り、バス乗り場前。


車を近くの一時駐車場に止め、噂を広める為に歩き出す。

昨日は2番、3番通り。

今日は4番から6番で噂を流す。

珍しく空は晴れ渡り、雲一つなかった。

途中、孫を連れた老人に誤ってぶつかってしまった俺は謝りながら通り過ぎようとした。


「ーーーそこの若人、少し待たれよ。」

したら、ハスキーボイスで呼び止められた。

帽子を被り、コートとは少し違うボタンのない、地味な色の厚手の生地の服(※法被の様な服)の下に、先日署長の家で見た着物を簡易化した様な服を着て、マフラー?ストール?をつけている。

白く染まった長い髪を後ろで束ねた俺より少し小さな身長の老人に俺は手招きされる。

「どうかしましたか?」

先ほどまで軽く曲がっていた背筋を老人はピンと伸ばした。

しっかり立たれると俺と変わらない身長、そして非常に綺麗な立ち姿だ、とても老人とは思えない。

「ちょいと失礼」

唐突にパンパンと服の上から身体を叩かれる。

なんだ、ボケてんのかこの爺さんは。

ふむと唸った老人が俺の目を覗き込みながら首を傾げる。


「お爺様」

鈴が転がるような声が聞こえた。

鈴がお老人に声をかけた外套をかぶった孫の方を見る、顔は隠れてわからないが、赤い血管すら透ける透明の肌、細腕、そして白というよりは透明のーーーしなやかなガラスを思わせる長い髪の毛。

恐らく少女なのだろう、着込んでいる服から鑑みるに太陽光のアレルギーでもあるのではないだろうか。

そしてその両手元には長い紫色の布に包まれた棒状の何かを抱えていた。

「おお、すまんのぅ、つい…な。」

何がつい、なのかは分からないが、爺さんの琴線に俺の何かが引っ掛かったのだろう。


「キヒッ、気分を害してしまった様じゃなぁ、すまんのう…ついでに老人の戯言だと思ってな、良ければもう一言だけ聞いていかんか?」

「お爺様?」

孫の方が少々苛立った声をあげる。

その孫の一言を手のひら一つで止めた。

呆れたように、孫が溜息を吐く。

「…茶番がーー」

「続く様なら、俺はもう行く。か?まぁ聞けぃ、若人、損はさせんよ。」

広角を上げ、少々愛嬌のある表情で老人が俺を見る。

だが、目は笑っていない。

好好爺と呼ぶには少し眼力が強く感じる。

何処か有無を言わさない雰囲気を醸し出すその老人に、俺は首を縦に振った。


「お主、恐らくここ数日の間…下手すれば明日にでも命の危機が来そうじゃな。」

「何でそんなことが…」

「死相が出ておるわい。」

…死相と来たか、この爺さんは占い師かなんかだろうか。

ぶっちゃけ、今手持ちの金はーーー

「安心せい、金の普請などせんわい。」

ーーどこぞの魔女と似た様なやりとり。

ブツッと一本老人が髪の毛を抜くと、俺の手に手渡してくる。

…えぇ…。

「露骨に嫌そうな顔じゃなぁ、もしお前さんが死にそうな目に会ったら、殺しにくる相手にこれを投げつけろ。」

こちらの考えを的確に読んでくる。

あの魔女よりも正確かもしれない。

「そのまま死にたいなら何もせんでもいいがな、当然受け取るのも受け取らんのもお主の勝手。

 わしもあまり時間が無いんでな、ほれ後、じゅーう、きゅーう、はー…」

有無の言わさなさは魔女以上だ、最近慣れてきている俺自分が少し恐ろしくはあるがーー。


「わかったよ、爺さん、俺の負けだ。

 この髪貰って、殺されそうな時に殺しに来た相手にこれ投げればいいんだな?」

爺さんが満足そうに笑って頷く。

一瞬、イラッとしたからこの爺さんに直接投げつけようかと思ったのは秘密だ。

「キヒヒッ、年寄りの言うことはよーく覚えとくんじゃぞ。

 お主の道行に幸多からんことをな。」

そう言いながら、片手をあげると老人は踵を返して俺が来た方向に歩きだした。

あれからずっと一言も発さなかった孫と思わしき少女も、黙って3歩後ろからついていく。

俺も進行方向に歩くが…一応よく分からないが忠告してくれた礼でもーーと思い後ろを振り向くと、二人ともすでにいなくなっていた。


幻でも見ていたのか?と思うも手にはしっかりと老人が残した白髪。

…何となく、大切な物な気がしてくる。

子供の頃に川で拾った綺麗な石程度の大切さだが。

あの爺さんが占い師であれ何者であれ、言っていることが事実であれ、嘘であれーー俺が明後日ウェストサイドに魔女を誘き寄せる予定は分からないはずなのに命の危機があるかもしれないと言い当てたことは事実だ。

心の何処かに爺さんの言っていた事を残しておくとしよう、まぁ髪の毛なんざ投げつけた所で嫌がらせにしかならないだろうが、手も足も出なくなった時には与太話に付き合うのも良いだろう。

ーーー本当に相手が圧縮の魔法を使ってくる魔女なら次の瞬間には死んでいるだろうが。

虚をついて逃げ出すことくらいはできるかもしれない…か?

まぁこれ以上考えても仕方ない。

既にあの老人達はいなくなってしまっていたのだから。


タバコに火を点け咥えながら、改めて髪の毛を見る。

何の変哲もない、ただの髪の毛だ。

何となく、光に透かして見る。

それでも、ただの髪の毛であることに変わりはない。

「ママ、あの人何をしてるの?」

声のした方を見ると、子供が俺を指差して、母親らしき人間がそっと目を隠し歩き去っていく姿が見えた。

…確かに、タバコを吸いながらジロジロと髪の毛を見て、挙げ句の果てに太陽に透かして見ている30代は奇妙の一言に尽きる。

周囲を見ると数人で遊んでいる子供のグループが俺を見てなのか...見え辛いが恐らく髪を太陽に透かしている。

不思議そうな顔でチラチラこちらを見ながらだ。

何かをしているのはそれ位だ。

周囲にはそれくらいしか人はいない、変な噂が立つことは避けられそうだ。

もらった髪を持ち歩いているジプロックに入れた。



ーーーーこのシス警部の噂は広まらないという予想は大きく外れることになる。

子供達の間で、髪の毛を太陽に透かす事が大流行し、透かした際の髪の美しさを子供達が競うのを見て、テレビ番組のディレクターが目をつける。

その後「美しい髪」という番組が放映され、それなりの視聴率を獲得し、ビューティフルヘアのコンテストが開催され世界の衆目を集めるようになる。

それに対して別の放送局が「美しい禿」という番組を放映し、ビューティフルボールドコンテストが開催され、二局は鎬を削ったが、最終的にはコラボ企画を行い局も合併し大成功を起こす。

そして数年後、人気番組が生まれた理由を放映し、当時、ディレクターが見た子供達に話が行き、「ウェストサイドで髪を透かして見ていた大人がおり、その人の真似が流行った」と証言。

彼らの話からモンタージュを作り、トロフィーに髪の王として飾り付けられることになり、番組を見ながら笑っていたシス警部が徐々に真顔になるのだがーーーそれはまた別のお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ