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無垢と邪念編

目の前に服がいっぱいある。

ずいぶん前に本の中で見た服屋さんよりもたくさんたくさん。

さっきの男の人が言っていたけど、この中の服から好きな物を選んでいいらしい。

ニコニコ笑顔の赤いかみのお姉さんに連れられておくの方まで来たけれどたくさんある服のどれを選んでいいのかわかんない。

「ネルちゃんはどうなりたいのかな〜?」

うーん...

「可愛く?それとも綺麗な感じ?」

本当はかっこいいのが好きだけど、「せっかくお城にいるんだもん、お姫様みたいな格好がいい!」

「そっか、ネルちゃんはお姫様みたいになりたいんだ〜。

 じゃあドレスにしよっか?好きな色は?」

どんな色も好きだけど選ぶなら、やっぱり「空の色!」

「じゃぁ、こっちに行こっかネルちゃん。」

お姉さんがネルに向かって手を出してくれる。

さっきもそうだったけど本当にお姫さまになったような気がする。



ああああ、可愛いいいいい!

整った顔と茶色い髪に緑の瞳、プニプニとした白い肌に純粋無垢で疑うことを知らないこの感じ。

やっぱり女の子は最高だ、小さい子に限る。

デニスのようなクソ生意気になった弟とは違う。

あいつも昔は...私の後ろにくっついて歩いてきていた時は可愛らしい物だったが今はもうダメだ。

それに比べてこのネルちゃんをみていると心が洗われる。

メイド長から急遽来る予定の人数が増えると聞いた時は本当にクソだと思ったが、お相手がこんなに可愛らしい少女なのなら役得にも程がある。

しかも着替え、お着替えさせることができる。

神よ、このようなご褒美をいただいていいのでしょうか。

チラリと繋いだ手の方を見る。

ーーーああ、これはダメだ、これはヤバい。

此方の目線に気づいたのか、ものすごく純粋な笑顔を向けてきた。

はー、天使、天使がいる。

語彙力がどんどん消えていくのが頭の片隅でわかる。

叱られた後にメイド長に頼まれた仕事を瞬殺して来て良かったと心の底から思う。

こんな、人類の至宝の様な少女に副流煙を吸わせようとしたあの男は今晩にでも天誅が必要だろう。

この世の在らん限りの苦痛を与えてやる。

もう一人のシガレットという女性も物凄く整った顔立ちをしていたな。

あの方も10年前はそれは可愛らしい見た目だったに違いない。

白銀の髪に赤い瞳、今でもいこうと思えばいけなくはないがーー、そんなことよりネルちゃんだ。

今与えられた時間で私は自由を謳歌するとしよう。



「わぁあぁぁああ...!」

右も左もぜんぶドレスドレスドレス、ピンク、赤、青、黄色、うすむらさき、白いのも黒いのもいっぱいある!

色んなもようが入ってるのも、鳥の絵が入っているのも、ネックレスもイヤリングも、頭につけるネックレスみたいなのも、おーかんみたいなのも、けっこん式でおよめさんがつけてる白くてうすいのも「どれ選んでもいいの!?」

「ネルちゃんの好きな物を選んでいいんだよ〜。」

そう言いながらお姉さんは鼻をおさえてる。

変なの。

でもこれはむずかしい、とてもとてもむずかしいもんだいだ。

どれも着てみたいけど...かべにあるやつは取りづらそう

「どうせなら気になってるやつ全部着てみる?」

「いいの!?」

やったぁ!

そんなぜいたくがゆるされる日が来るなんて、ゆめにも思ってなかった!



おっほほぅ、何だこの天使。

どの服着てもいいよだけでこんないい笑顔になる子いる?

さっきチラッと興奮しすぎて鼻血が出たけれど、気づかれていないだろうか、いや気付いかれたらたら気付かれたいたでどんな反応をされても美味しいのは美味しいか?

無邪気に寄ってきても、馬鹿にしたように笑われても、心配そうに近寄ってきても...あー、イイ。

どうしよっかなー、高いところにある服取るときに抱っこして持ち上げて取らせてあげよっかなー。

間違いなく合法でしょ、変な目でもみられないでしょ?

あー、抱き抱える、絶対脇の下を持って持ち上げる。

「じゃあ、お姉さんが持ち上げてあげるから欲しい服を取っていってね?」

触れたら折れそうなんだろうなぁ、ふふふ。


ーー意識がホワイトアウトした。

何が起こった?

ネルちゃんの方を見るとーーこっちに、向かって、両手を、広げて、伸ばして、いる。

ーーー危ない、また一瞬意識を手放すところだった。

ゲリラにとっ捕まって拷問やらなんやらを受けた時にすら意識は手放さなかったというのに。

まさかこんなーー、否、これは必然だ。

この屋敷にいる間は可愛らしい少女に会うことなんてない。

死線を潜り抜けてきた信頼ある仲間と共に働くのは正直楽しい。

それでも、私の愛の対象には入らない。

休みの日に足繁く公園近くの幼稚園や小学校の前にかよっては、水筒に入れた酒で少女達の無邪気な姿を酒の肴にちびちびやるのが私の休息の流儀だ。

どこの誰が言ったか少女は見る者、触れざる者という言葉を思い出す。

だが、これは仕事、故に不可抗力。

触れる、触れるぞ。

背中の方に回っていざいざいざぁっ!


ーーー。

一瞬、今までの人生が頭の中を巡った気がする。

この子を持ち上げた瞬間の今の衝撃はなんだ?

まるでチョッキ(防弾)の上からショットガンを至近距離で打ち込まれた時の衝撃が脳の一箇所に集約された様な。

いや違う確かに暴力的な威力ではある、でも痛みなどでは無い、これは至福感...?

そうか、これが幸せか、幸福の過剰摂取は痛みと変わらないのか。

鼻腔から染み渡る髪の香り、掌から感じる子供特有の高い体温と預けられた全体重。

私の手の中に今、少女が収まっているーー。

「えーっとねぇ、あっちのやつ!」

仰せの通りにネル様!…と叫び出したいのを一応抑える。

ギリギリだ、どうやら辛うじて私にも理性というものが残っていたらしい。

言われるがままにネルちゃんが指差している壁にかかった水色の子供用のドレスに、抱えたまま連れて行ってあげよう。

私の手に抱えることができて非常に光栄でございます!



お姉さんはとってもやさしいけど、重くないかしんぱい、大丈夫かな?

目の前に空の色のドレス、もうちょっとで手が届く、届いた!

いちばん好きなお空の色。

シガレットが見せてくれた、水色の空の色。

私の中ではこれがいちばん。

お姉さんが、そっとゆかにおろしてくれる。

「だいじょうぶ?重くなかった?」

「ん“っ“…!大丈夫、大丈夫、ネルちゃんは羽の様に軽かったよ。」

よかった、だいじょうぶだった。

ドレスを広げて見てみる。

あんまり見たことないけど、似合うかなぁ?

似合うといいな、ギューッ。



ほっほっほぅ、無理無理可愛すぎ。

理性決壊する、もうダメ。

慈愛の精神まで持ち合わせているとか、何?女神?女神なの?

しかもその行動!感極まって嬉しそうにドレスに抱きつくとか!

あー、ヤッベ、また鼻の奥の血管が切れた気がする。

今のご時世この子…小学校中学年?くらいの歳の子でも擦れた子が多いというのに。

はー、純粋無垢という言葉はこのためにあるかのような存在。

誓おう、私はこの子を守ろう。

何があっても、命をかけて守り通そう。

ファルシオン隊長に捧げたのと変わらない位の誓いを立てよう。

宣誓!私、ベリー・レッドフィールドはネルちゃんのためにこの身を捧げ、病める時も健やかなる時も、愛し続けます。

ーーーそうだ、教会を建てよう。

ネル教の御神体になってもらえればこの良さを、いやダメだ、衆人の目に晒すわけには...!!

暴動が起きる、ネルちゃんを奪い合って暴動が起きる。

矢張りこれはバレない場所に隠すしか無いのでは?

そう、これは世界平和の為に行わなければならない必要な行為。

そう、必要悪、そして私にとっては正義!

そして、気付けば2人の仲は親密なものとなりーー

あれ?

「ネルちゃん?」

女神が岩戸の中に隠れた?

ネルちゃんisドコ?

私のネルちゃんはどこに行った?

誰が、誰が隠したぁぁあああアアッッ!!!



だいじょうぶかな、お姉さん。

よんでもお返事してくれなかったし、白目になって鼻血を出してたからしんぱいだけど、お姉さんのためにもネルのためにも他の人をよぶしかない。

シガレットかヒス?イス?...おじさんかメイドさんかひつじさん。

誰かいないかな。

服の海をかき分けて、かかんに進むネルは前に読んだ本のかいぞく船の船長だ!

あれ?かいぞく船の船長はようせいを連れたヒーローにやられるんだっけ?

まぁいいや!進めや進め!

船長!服の海の向こうに人かげを発見しました!

よーし、そっちに向かってとっしーん!「シガレットーーー!」

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