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魔女同行編

前回までのあらすじ。


(警察署連行編)

ロークタウンの郊外、外部森林と呼ばれる場所で煙草屋の商いをしていた魔女の元にある日突然警察官が現れる。

身に覚えのない事件の被疑者としてシス警部に警察署に連れられていった魔女は時に警部を言葉で弄りつつあれよあれよという間に事件の真犯人探しの手伝いをすると言い出した。

判断に困った警部は仕方無く上司に確認を取りに行くがどうやら警察署長は魔女の事を知っていたようで快く手伝いを許諾した。


(足跡追跡編)

魔女の相方に選ばれた警部は魔女を事件の現場の一つに連れて行く。

そこで犯人の足跡を追うために魔女が用意したのはタバコの煙で作られた兎だった。

兎を追いかけマンホールの中に飛び込み、下水を通り、兎の導くままに外に出、また兎を追いかける。

兎の足跡を追い続けた先にあったのは世界一の信者数を誇る双聖女信仰教会の修道院だった。


(修道院潜入編)

兎が足を止めた修道院に魔女と警部は足を踏み入れる。

途中、訝しんだ修道女に足を止められるものの、うまく誤魔化し入り込んだ修道院内で魔女の異能によりあっさりと犯人の居室を発見する。

だが、犯人の居室は犯人の魔女のトラップの温床だった。

小さな部屋に張り巡らされた異能の罠を抜け、辛うじて犯人の名前を知れる日記帳を手に入れた警部と魔女の見たのは、死んだ筈の魔女の名前だった。


(警部過去編)

修道院を抜けて、魔女の小屋へとたどり着いた魔女と警部。

軽いイザコザはあったもののそのまま地下のキッチンに行った魔女に警部が銃口を突きつける。

過去、警部に起こったのは陰惨な事件であり、それには「魔女」の存在が関わっていた。

明かされる過去、そして記憶の差異。

シス警部の過去に迫る。


(情報整理編)

警部と魔女は朝食の後、現在の情報を整理する。

魔女の口から紡がれる犯人と複数の犯行方法の想定。

現在発覚している内容に足された情報と共に情報を整理していく。



それでは続きをどうぞ。

ーーー今日が最悪の日でないと誰が言えるだろうか。

車の窓の外を流れていく木々を横目に考える。

少なくとも俺にとって、今日は昨日より少し悪い日であると言える。

昨日が最悪の日だった俺にとってはつまり今日は更に最悪の日である。

しかもこの最悪の日が波が少し上下する程度でこれから数日続くのを考えると怖気が走る程度では済まない。

昨日一日一緒にいて、いや一緒に居ることを余儀なくされて考えた。

『こいつは悪い奴ではないのかもしれない。』と言う内容に関しても考え直した。

現状の結論としては、『こいつは悪い奴ではないのかもしれないが、良い奴だと言う保証はなく、更にこちらを何時でも殺すことができて、人を揶揄うのが好きな奴』である。

だが、それでもだ。

甘んじてこの状況を受け入れるのは、この魔女が知る範囲の情報を教えると言っているからである。

遡る事19年間、ろくな情報が手に入れられなかった魔女のーー仇の情報をだ。

こいつの言う情報がどれほどの精度かは分からないが、昨日の一件でこいつが間違いなく魔女の情報にすら詳しい魔女であることは確認できている。

そもそも人身掌握に長けていたか、それともカリスマ性でもあったのか。

そこまでは分からないが、少なくともクラリスと呼ばれていた魔女に信頼を寄せられ、性格を知る程度には仲が良かったのだろう。

加えて取調室で見たあの魔法ーー異能。

あの人数に煙草の煙を吸わせたことがあると言うことは、すなわちそれだけ情報を持っていると言うことだ。

死んだ魔女も多いかもしれない、今回の件のようなどうなっているか分からない魔女もいるのかもしれない。

それでもなお、今の現状、少なくとも今まで1cmすら手に入れることすら叶わなかった情報を欠片であれ、なんであれ手に入れるチャンスが向こうから来たのだ。

ならば少しくらいの我慢をしなければならない。

今朝かなり感情を押し殺していたのはその為だ。

低血圧の気はあるが決してそれだけが理由ではない。


ーーーーーーだが、それでも。

「せめて窓を開けて煙草を吸ってくれ。」

そう、これは自明の理だ。

魔女が煙草を吸えば吸うほど、車の中には煙が籠る。

既に今抜けた森林を通り過ぎる間の10分ほどの間に三本は吸っていたように見受けられた。

俺が窓を開けたら、それはそれで俺の方に煙が来る。

当然、勝手に開ける事もできたが、それなりに今朝の気温は低い。

勝手に開けた結果、ブランケットなどの用意をしていない車内でネルと呼ばれていた魔女とは思えない少女がその風邪をひきでもしたら、などと考えてしまう。

きっと考えすぎなのだろうが。

「おお、これはすまんかった。」

そう言いながら魔女が窓を開けると、それに追随するように逆側の窓をネルが開けた。

「風がつめたくてきもちいいねー。」

呑気に少女が窓の外に手を出して笑っているのがバックミラーで確認できる。

やはり少し考えすぎだったようだ。

森林を抜け広大な農道に入る。

付近には人影も見当たらない。

一瞬少女に対して、手を出すと危ないと告げようかと思ったが、暫くは良いだろう。

俺も窓を開けることにする。

煙草を一本見慣れた箱から片手で取り出し、咥える。

そのまま貰ったライターで火をつける。

…持ち心地が最高だ、故に気味が悪くもある。

まるで俺の手に誂えたかのようなそんなライターだ、人間力学に基づいたーーだったか、そう言うものなのだろうか。

まぁ、使い勝手がいいことなのは確かだ。

緊張していた腰をやっと落ち着けて俺はシートに腰を下ろした。

ここから十数分、門に行くまでの間はろくに対向車も来なければ、道行く人間もいない。

精々遠くに農家や牧場の人間が見える程度だ。

車載ラジオをつけようかと思ったがやめる。

この長閑な時間にそぐわない。

煙草の煙の香りと混ざって、近くにある牧場の独特な香りが鼻に入ってくる。

割と好きな匂いだし余生は牛でも飼って過ごすのも良いのかもしれない。

そう思いながら、牧場内に放逐されている羊やら、牛やら、馬やらを横目で見る。

遠くの方からこちらを見ているように見受けられる農家の人間。

何故かこちらに対抗意識を燃やし牧場の端まで走ってくる馬。

牧草を食む牛。

普段なら、そんなものには目もくれずとっとと走り去っていくところだが、何故か今日に限ってはその様子をゆっくりと見たい気分になった。

後ろにいる少女が牧場にいる動物に手を振っている様を見つつ、煙草を吸う。

その様子を見て横で優しげな笑みを浮かべている魔女を見る。

ーーーこいつはこんな表情を浮かべる事もできるのか。

俺に見せていた顔とどちらが本当の顔なのか、などと余計な疑問が頭を掠める。

俺はかぶりを振ってその言葉をかき消した。

相手は、魔女なのだ。

絆されそうになるな、信用し切るな。

ハンドルから手を離し二回顔を叩き持ちなおす。

「すっごい・・・」

その様子を見ていた少女が俺の方を後ろから見ながらそう言った。

凄い?何が凄いと言うのだろうか。

「車ってハンドルをにぎってなくても動くのか・・・。」


一瞬何を言い出すのか、と思ったが意味を理解した俺は軽くだが笑ってしまった。

そうか、アクセルの存在を知らないのか。

子供にとっては、車はハンドルを握って動くものという認識なのかもしれない。

後ろから軽い衝撃、どうやら少女が怒って俺の座席を蹴ったらしい。

「なんだよー!わたしの読んだ本には書いてなかったんだぞー!」

何度も蹴ってくる。

確かに、子供が読む本もそうだし、俺が読んだことのある本にも車を運転する際の精密な描写が入っている物はなかった気がする。

大体は足元の描写なんて入れる事もないんだろう。

俺は、背後に向かって「すまんすまん」と雑に謝ると、少女が気をよくしたのか蹴るのを止め、椅子に深く座り直すと外を見るのをやめて持っていた本を読み出した。


短くなった煙草を車載の吸い殻捨てに捨て、新しいタバコに火をつける。

と同時に昨日も通った門が見えてくる。

大昔に城塞都市だった名残で周囲に巨大な堀が掘られているロークタウンに入る為の検問所みたいなもので、数台の車が並んでいるのが見える。

巨人でも通る前提で作ったのかと思うほど高く、鯨でも搬入するのかと思うほど横幅は広い。

閉まっているところも見たことがない、この時代になっても衛兵の格好をした奴がどの時間にも立っている。

そういえば、10年以上前に見た求人誌のバイトの項目に東門の衛兵の項目があった気がする。

時給はそんなに良くなかった気がするが。

そんな余計なことを考えている間に門を潜る、あくびをしている衛兵を見て軽く会釈すると、一瞬だけこちらを見て衛兵は無視を決め込んだ。

気を抜いてあくびをしているところを見るにやはりただのバイトなのだろうか。

そう思いながら、ちらりと後方に目をやると目を輝かせながら少女が衛兵を見て手を振った。


「シガレットー!兵隊!本物の兵隊さんだ!」

「そうじゃのう、見れて良かったのうネル。」

大はしゃぎで手を振る少女から衛兵の方に目を移すと、衛兵が鼻の下を伸ばしながら手を振り返していた。

…なんだ、ただのロリコンだったか。

一瞬魔女の方を見て鼻の下を伸ばしているのかと思ったが、その双眸は間違いなく少女を捕らえていた。

無性に手錠をかけたくなってくるが、実害は出していないので無闇に捕まえるわけにはいかない。

歯痒い思いを感じながら微速で進み窓を開けるとロリコンとは別の衛兵が顔を覗かせる。

無言で手を出してくるので、俺は警察手帳を手渡した。

ペラペラと捲る音が聞こえ、そのまま出しっぱなしの俺の手に警察手帳が返還される。

本当にあるだけの検問のようなものだ。

昨日もそうだったが、後ろに誰が乗っていようと気にしているところを見たことがない。

…こんなんで大丈夫なんだろうか。

そう危惧しながら、俺はアクセルを踏み込みロークタウン警察署に向かった。

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