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情報整理編 3

「その魔女は、水の魔女。

 本人はそう言っていたが恐らくその本質は液体の魔女じゃと思う。」

思うとはまた中々曖昧な話がやってきた。

そうシス警部は胸中で思っていた。

「オルガナにおった頃の彼女は、優しい子でな、死体を動かし始めたのも友人の飼っていた猫が死んだからその子を少しでも元気づけようとしたのが始まりじゃった。

 普段は水を使って花畑に水を撒いたり、水を空中に浮かせて夏場にプールがわりにしたりとその程度にしか異能を使っておらんかったんじゃが、血液を全て抜き代わりに生理食塩水を入れ血液循環をする様に動かしてみたら死体が動いたと言っておった。」

魔女が煙草を口から離しながら、顔を伏せる。

「そしてこの水の魔女はーーあの事件の後も生き残っている数少ない魔女の一人じゃ。

 もし未だに生きて、尚且つ人大の死体を操るようになっていたのだとしたらーーー。」

「コミックやら小説で出てきたら夢オチより寝覚が悪そうな話だな」

ゾッとしないと言った様な口調でシス警部がそう呟く。

「まぁ、この4つ目も2つ目と同じく非常に可能性が低いと考えて貰って構わん。

 この魔女の動かす死体にはどうしようもない弱点があるんじゃ。」

そう言うや否や、霧散していっていた煙が再度机の中心に戻ってくる。

「1つは、この死体は鳴けないーー喋れないと言うことじゃ。」

魔女の言葉と一緒に「1.話せない」と言う風に煙が形を変える.

「そして、もう1つは死体は結局死体の為に腐敗する。」

煙が「2.腐敗する」と1つ目の煙の下に出てくる。

「3つ目は同時に動かせるのは1つまで、そして水の魔女を中心に300mが死体の操作の限界値じゃと言うこと。

 故に、昨日の時点で修道院、そしてその周辺には水の魔女はおらんと推測する。」

「3.1つしか動かせない」「4.距離限界がある」が追加される。

「確かに、あの修道院では腐った匂いも話せない人もいなかったようには思えるがーーなんでお前は今その話を持ち出してきたんだ?」

「魔女の異能も成長する可能性があるからじゃよ。」

口から煙草を離して魔女がシス警部を見据える。

「例えば今朝、シス君は体を鍛えておったじゃろう。

 人間の体は当然ながら、限界はあるが鍛えれば鍛えるほど強靭になる。

 知識も同じくじゃ、勉強をする、本を読む、その積み重ねは人を識者に押し上げる。」

「それはお前らの使う異能とやらもそうなのか。」

魔女が頷き二本目の煙草を躙り、三本目に手を伸ばした。

「うむ、異能は使えば使うほどーーというだけでは無いが色々な状況で成長していく物だと思われる。

 先ほど言った水の魔女もそうじゃ、水量の操作や水そのものを自由に動かすだけの異能のはずだったものが、死骸を動かす様に変質したんじゃからな。」

「故に可能性としてはあり得ると言った話じゃよ。」

「…話し辛そうにしていたのもその理由か?」

鋭い質問に魔女の眉がピクリと動いた。

「できるだけ同胞の情報はーー特に関係のないものの話は漏らしたくないもんじゃろう。

 例え、本当の家族でなかったとしてもお主も別に叔父や叔母の秘密を話せと言われたら話したいかのう。」

本当にそれだけなのかーーと訝しむような目でシス警部は魔女を一瞬見た。

その目線には魔女も気づいているが、それ以上の言及を避けるかのように俯いている。

「話が逸れたがーー現在の情報から導き出せる答えは決まってくるわけじゃな。」

魔女が指を弾くと煙が形を変える。

「1番の有力候補はクラリスが生きており、この事件を起こしている。

 2番目が新たなる魔女が現れている。

 ここからかなり差が開いて3番目がフォロワーによる模倣。

 大穴で異能が強力になった水の魔女が裏で操っていると言ったような内容になってくるわけじゃな。」

魔女の言う通りに文字が動く。

「まぁ、魔女の情報に関してはお前の言うことを今は鵜呑みにすることしかできないからな。

 で、他にした方がいいことはあるか?」

魔女が目をパチクリとさせ、細める。

「妙に協力的じゃなぁ、何か下心があるのかのう?」

顔をニヤけさせながらシス警部に近づくように机の逆側から身を乗り出す。

「下心ならあるな。この事件を解決した際のお前の口が軽くなるかもしれない」

魔女から目を逸らすように煙草を取り出し、シス警部は火をつけた。

「クカカ、言うようにーーというか慣れてきたようじゃのう。それでいいんじゃ。」

魔女は椅子に座り直すと、また、両の手の甲に顎を乗せる。

「さて、それではーー犯人を刺激せんようにする為に幾つかして欲しいことはある。

 というかぶっちゃけじゃな、ワシが深窓の令嬢説を打ち立ててしまった為の弊害なんで謝るしかないんじゃが。」

「…そういや、そんな話をしたとか言ってたな。」

「そう言うわけで、お主にはワシを深窓の令嬢にする為ーーというと語弊はあるが、クラリスと思われる犯人に嘘をついたと思わせん為の策じゃな。

 一応幾つか策はあるんじゃが」

考えなしではないと言うことで、少し安堵した表情をシス警部が見せる。

が、すぐに眉根に皺を寄せる。

「…一応聞いていいか?」

「一つは、お主が毎朝此処にワシに会いにくる。

 問題はこのぼろ小屋な訳じゃが、そこはうまく誤魔化すしかないのう。

 例えば、道楽で一人暮らしを始めたワシを心配して毎朝様子を見に来ているとかな。」

シス警部が目を瞑り、額に人差し指を当てる。

「他の策は?」

「他の策としてはシス警部の住んでいるところに事件解決までお邪魔すると言う方法じゃな、同棲していればどんな場所であれ問題あるまい。」

既に皺が寄っていた眉根にさらにきつく皺が寄せられる。

そんな方法で通用するとは正直思えない。

シス警部の恋人という設定が凄まじいまでもの面倒さ加減を放っている。

そもそも、ツレだと言い出したのはシス警部本人だったのだが、それでも魔女自身も余計な設定を付け加えなければもう少し楽だっただろう。

魔女の小屋は木の掘立て小屋であり、令嬢がいる場所としてはあまりにもあまりである。

そして、シス警部は話さなかったが、シス警部自身は現在は叔父叔母の家を出て街内の1DKのアパートに一人暮らしをしている。

人が寝れる場所程度であれば確保できるかもしれないが、シス警部の内心的には出来ればよしておきたい、否来て欲しくないと言ったところだろう。

また仮にシス警部が事情を叔父叔母に話し、快く貸してもらえたと仮定したところで、叔父叔母の家もただの二階建ての小さな一軒家だ。

どう考えても、深窓の令嬢どころか、今の魔女の格好をした者が住んでいるようには感じられない。

そして、シス警部にはそんなことを頼める友人はいない。

ーーシス警部の頭の中で情報が交錯する。


「そうじゃなぁ、後の方法としてはーーー」

そう魔女が切り出したところでシス警部が制止する。

「いや、待ってくれ。無理かも知れんが…ひとついい考えが思いついた。」

「ほう?」

驚いたような顔で魔女がシス警部を見る。

「とりあえず確認するから、少し連絡する時間をくれ。」

そう言いながら、スラックスのポケットから携帯電話を取り出し椅子を立ち上がる。

「分かった、待っておるわい」と言うと、魔女は煙草を消し煙管を取り出した。

その様子をチラリと見ながらシス警部は足早に階段の方に消えていく。


それから数分、階段の途中からボソボソと何かを話す声と、「えっ」という驚愕の声が漏れ聞こえてくる。

それからまたボソボソと話す声と携帯電話を閉じる音が聞こえ階段の方からシス警部が「いけたな…」と言いながら姿を現した。

その様子を見ながら、魔女がシス警部におかえり、と声をかける。

「で、先ほど教えてくれんかったいい考えというのは何じゃ?」

天井を仰ぎながらこめかみを抑えつつ、シス警部が答える。

「署長に今の状況を話したら家の一部を貸してもらえることになった。」

成る程のぅ、と目を瞑りながら魔女が頷いた。

「そういえば、人間の貴族と言えば豪奢な家を持っている者じゃったな。

 確かに小僧の力を借りるのが最も効率的ではあるか…。

 いい考えじゃ、一本取られたわい。」

そう言いながら、魔女が膝を掌で打った。

「ーー…お前、何か署長の弱みでも握ってるのか?」

シス警部が抱いていた疑問を口にすると魔女は「弱み?…ふーむ、弱みなぞ握っておらんが…」そう言いながら首を捻り「あぁ、そういえば小僧が10才歳くらいの頃に命を救ったことがあったような気がするのう」と何の感慨もなさそうに答えた。

「は?」

「いや、なんかワシの家にくる最中に暴漢に連れさられそうになっておってな。

 子供を攫って何をするかなんぞ、嫌なことしか思い浮かばんのでな、その阿呆どもを叩きのめして助けてやったんじゃ。

 思えばその日からじゃったかなぁ小僧がうちに来るようになったのはーー」

さらっと行われたのは署長のことに対するカミングアウトだった。

「いや、いやいや!」

と否定はしてみたものの、シス警部の頭の中ではピースがガッチリと嵌って行く。

署長の魔女一個人に対する信頼、入れ込み用と言うのは少し常軌を逸したところがある。

もはや信仰といっても差し支えのない態度にはそう言う裏があったと考えれば不自然ではない。


眉間を人差し指と親指でつまみながら、シス警部の頭の中では先ほどの電話でのやりとりが頭に浮かんでいた。

何かと策を弄そうとしていたのにも関わらず、やけにどころか本当に何の拒否感もなくあっさりと署長は家を貸し付けることを許諾していた。

「シガレットさんが協力している事件の解決に使うんだろう?僕の家程度で良ければ何時でも貸しますと伝えておいてくれると嬉しいな。」等と言いながらである。

思わず、シス警部の声が上がっていたのはそう言う理由だったのだ。

その後、「協力するといっているのに君は不思議な態度を取るね」といった言葉から軽い説教になったのは言うまでもない。

「否定するのは勝手じゃが、事実じゃからのう。」

魔女が軽く笑みを浮かべながらそう言う。

普通ならその人脈を使い何かするのではないかと、一瞬シス警部の頭の中にチラついたが、数秒前の思い付いたかのような言葉を聞いたことによってその言葉を頭が否定した。

「まぁ、これで目処はたったのう。今後の行動の指針は決まったが、小僧の家に行くのが優先か?」

「貸しだす為に一旦署に来てくれだとよーーー…。」

魔女の質問にシス警部が答えたが一瞬考え込む。

「どうした?」

「あのネルとかいう子はどうすんだ?」

シス警部の質問は最もなものだった。

魔女であると聞いたとはいえ、食事をしているところは見ている。

今回の事件を解決するまで、一時的にでも署長の家に暫く居る事になるだろう。

少なくとも数日は間違いない。

ともすれば、少女が餓死する可能性もなくはない。

そのような言葉がシス警部の頭の中に飛来していた。

「心配なら、連れて行っても構わんがーー小僧にその話は?」

シス警部の心の中の話を聞けるはずも無い、魔女の心配もその通りである。

「してはいない、だがおそらく問題ないんじゃないか?」

当然、先ほど通話をして魔女の話を聞いたシス警部はそう返す。

「その自信はどこからくるんじゃ…まぁ良いわい、それじゃぁネルに声をかけるかのう。」

そう言いながら魔女が席を立ち、階段を登っていった。

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