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情報整理編 2

少女の階段を登る足音が消える。


「さてーーー」

魔女が新聞を閉じ、残っているフレンチトーストとベーコンにフォークを突き刺し胃袋に収める。

「あの子も上に行ったことじゃし、詳しい囮作戦の話をするかのう。」

シス警部もマグカップに残っていた珈琲を飲み干す。

「ああ、初めてくれ。」

シス警部がそう言うやいなや、魔女は食卓に煙草を持ち出した。

火をつけ、煙草を吸い、煙を吐き出すとその煙は机の中心でサウスパークの修道院の形を取り始める。


「昨日話した通り、ワシは修道院に潜入し、嘘を交えてお主がこの事件を追っていると言う話をした。

 理由はーー昨日話した通り、修道院にいるクラリスにワシらを狙わせるために先んじて嘘をついたからじゃな。」

苦虫を噛み潰したような顔でシス警部が魔女を見、

「俺の許可も取らずに、俺の命を勝手にかけてな。」と呟いた。

魔女は悪びれもせずに煙草を咥えたままシス警部の方を見ると

「それが1番手っ取り早いじゃろ?それにシス君のことはワシが守ってやるから安心せい」などと言う。


それを見ながら溜め息をつきながら、シス警部が魔女に疑問を投げかける。

「で、囮はいいが単にいつも通り俺が生活していても仕方ない訳だろ?

 目を離した隙に俺が気づいたら潰れて死んでました。じゃ話にならない。

 結局俺は何をすればいいんだ?」

結論を急くのう、といいながら魔女が煙で出来た修道院の形を変化させていく。

そこには、見知らぬ女性の顔が煙で作られている。

「お主にしてもらいたいのは、囮と同時に旧ウェストサイドに件の魔女がいるかもしれないからそこに今度調査に行くと言う噂話を漏らしてもらいたい訳じゃ。

 詰まるところ、嘘の情報を流して旧ウェストサイドに魔女を誘き寄せたいわけじゃ。」

煙の顔を見上げつつ、シス警部が魔女に聞く。

「…修道院の周りでか?それと意味ありげに出して来たその顔はなんだ?」

「まぁ、そうじゃな修道女達も買い出しにくらい出てくるじゃろうから買い出しに出てきたシスターを狙い撃ちにすれば良いじゃろう。」

そう言いながら、魔女が食卓机に肘をおき両手の甲の上に顎を乗せた。

相変わらずタバコは咥えたまま獣の様な尖った歯をチラつかせる。


「そしてこの顔はクラリスーークラリス・クランと呼ばれた圧縮の魔女の顔じゃ。

 ワシの覚えている限り、クラリスはあの修道院に見当たらなかったわけじゃが、シス君的にはどうじゃ?」

シス警部が煙の顔を見ながら、顎に右手、そして右手を支えるように左手を使い数秒眉間に皺を浮かべながら悩む。

「いや、俺も思い当たる節はない。」と顎から手を離しながらシス警部はそのように結論づけた。

魔女はその様子を見て頷き「そうじゃろ、じゃがそれでも日記があったと言うことでこの事件にて犯人を考察できるのは、ワシがパッと思いついたもので4つ」と続ける。


「1つ目は当然本人が生きている可能性、これはまぁ整形したなどの理由で顔を変えていればありえない話ではない。

 正直1番可能性が高いと考えておるのはこれじゃ。

 で、2つ目はフォロワーが現れた可能性じゃな、いわゆる模倣犯等。」

「魔女の異能は同じものはないーーつまり模倣できないんじゃないのか?」

魔女が両手から片手に顎を移し片手で煙草を持ち直して一息吸う。

「協力してくれると言ったからには報酬と言ったが、先に少しくらい情報をやるとしようかのう。」

そう言いながら、クラリスの顔を昨日の橋に変え、今吸っていた煙を吐き出し、橋の下に真っ白な小さなシス警部と魔女のミニチュアの様なものを用意した。


「近い異能の可能性はある、例えばワシは煙草の異能の一つで煙草の煙の中の成分をいじくり回すことができる。

 これを行うことによって、二酸化炭素やら一酸化炭素を増やし窒息を引き起こしたり、相手の肺をタール漬けにしたりして殺害することが可能じゃ。」

魔女のミニチュアが煙らしきものを吐き出すとシス警部のミニチュアが喉に手を当て、そのまま倒れる。

シス警部が顔を歪める。

当然だろう、詰まるところ昨日の取調室の時点で魔女の胎の中。

あの間いつでも署長とシス警部をまとめて始末出来たと言う告白を受けたも同然だからだ。


「当然タール漬けにするのは他の魔女には難しいかも知れんが、窒息ならどうかと言う話になると当然可能じゃろう。

 例えば、ソリアーー風の魔女は大気の成分を弄る事が出来たから酸素濃度を急激に下げる事による窒息死は出来るじゃろうな。」

「つまり、圧縮の魔女と同じ様に潰して殺すだけなら他にできるやつもいる可能性があるってことか。」

魔女が頷くと倒れていたミニチュアのシス警部と立っているミニチュアの魔女の上に白い板が現れる。

「そうじゃな、鉄の魔女なら虚空に鉄を投げればそれを巨大化させて鉄塊を生み出して押し潰す事もできるじゃろうしな。」

そしてそのまま上から白い板が落ち二人のミニチュアは潰れ、霧散した。


「じゃがーーー今回この2つ目はかなり根拠が薄れる。」

魔女が指を弾くと板が消え最初の橋とミニチュアが並んでいる状況になった。

「クラリスの日記があったからとかじゃねぇだろうな」

シス警部の質問に魔女が首を横に振る。

「まぁ、それも無くはないんじゃが誰かが拾ってきたといえば言い訳が立ってしまう。

 消える理由は幾つかあるが1番は鉄の魔女にしろ、他の魔女にしろ、例外を除けば元が無ければ行動を起こすことはできん。

 例えば、ワシは煙草の煙が一筋でもあればそれを増やし様々な異能を扱うことはできるが、何も無いところから煙草の煙を生み出すことはできん。

 じゃから、水中とか、真空中とか、雨が降っているとか、換気扇が回っているだけで完封できる可能性はある。」

自ら弱点を晒していく魔女にシス警部が眉をひそめる。

「…そんなこと言って、どうせ奥の手とかあるんだろう。」

魔女が笑う。


「クカカ、「可能性」はあるじゃからな、当然奥の手は取ってあるわい。

 昨日の夜みたいにのう。」

そう言われて、シス警部は今度は顔をしかめた。

「まぁ、そんな与太話は置いておくとして。

 故に、圧縮の異能は模倣が出来ないとは言わんが難しい。」

「ーー難しい。」

「そう、圧縮の異能は元がなくても行える異能でな。

 今回見たトラップにも何かを使われた形跡はなかったじゃろう?」

昨日の罠は確かに見えない壁が迫ってくる物であり、鉄だったり、岩だったり、そういったものが押しつぶしてくる様にはシス警部には思えなかった。

それ故に彼は首を縦に振る。


「故に2番はまずないと考えて行動するべきじゃろう、クラリス本人の可能性が高すぎるからじゃ。

 そして、3番目はクラリスは死んでいるが新たに現れた圧縮の魔女がその思想を引き継いでいると言う可能性じゃな。」

そう言いながら煙が形作っていたシス警部と魔女がクラリスと頭の部分がクエスチョンマークになった人型へと変化する。

「だが、それだとクラリスとやらを知っている奴が同じ異能の魔女でわざわざクラリスの日記帳を何処からか手に入れて、挙げ句の果てにこの事件を起こしているってことになるわけだろ?

 魔女は同じ魔女が一人しか存在しない、そして死んだら突然現れるとか言ってたよな?思想を引き継ぐなんてことが有り得るのか?」

シス警部の言うことも尤もだろう。

突然現れる存在が以前の魔女の思想を引き継ぐことができるとは思えないのは当然だ。

「長くなるし、確実性の薄い情報じゃからあまり離したくはないから話半分に聞いてもらいたいんじゃがーー新しく生まれる魔女は生まれた瞬間、今までの魔女の記憶を一瞬だけ垣間見えるんじゃ。

 皆そうかは知らんが、少なくともワシはそうじゃった。」

そう言いながら魔女が短くなった煙草を手元にあった灰皿に捨てる。

「…その一瞬の記憶を垣間見て人を恨んでこんな酷い殺し方をするって言うのか。」

「少なくともワシは人を殺そうと思ったことはありゃせんーーーいや、あるのはあるが実際に人に手をかけた事はないのう。」

そう言いながら魔女が新しいタバコに火を付け、咥える。


「まぁ兎も角これは2番目よりはまだ可能性がある程度のものじゃ、そして最後の4つ目じゃがーーー。」

魔女が言い淀み、目を泳がせ数秒経つ。

自然とシス警部の喉が鳴る。

煙の形が崩れ、橋も、クラリスも頭がクエスチョンマークの存在も霧散する。

「4つ目はーーー?」

我慢できずにシス警部が魔女を見据えつつ口を開く。

顎に乗せていた手を額を抑えるようにしながら観念したように魔女は口を開いた。

「…あくまでも可能性の一つなんじゃが、ワシが知っている魔女の中に一人死体を動かすことのできる魔女がおる。」

「…そんなこともできる奴がいるのか、差し詰め死体の魔女か?」

シス警部の質問に、否ーー、と魔女が口を開く。

よほど話したくないのだろうが数秒の間を開け魔女は遂に口にした。

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