情報整理編 1
前回までのあらすじ。
(警察署連行編)
ロークタウンの郊外、外部森林と呼ばれる場所で煙草屋の商いをしていた魔女の元にある日突然警察官が現れる。
身に覚えのない事件の被疑者としてシス警部に警察署に連れられていった魔女は時に警部を言葉で弄りつつあれよあれよという間に事件の真犯人探しの手伝いをすると言い出した。
判断に困った警部は仕方無く上司に確認を取りに行くがどうやら警察署長は魔女の事を知っていたようで快く手伝いを許諾した。
(足跡追跡編)
魔女の相方に選ばれた警部は魔女を事件の現場の一つに連れて行く。
そこで犯人の足跡を追うために魔女が用意したのはタバコの煙で作られた兎だった。
兎を追いかけマンホールの中に飛び込み、下水を通り、兎の導くままに外に出、また兎を追いかける。
兎の足跡を追い続けた先にあったのは世界一の信者数を誇る双聖女信仰教会の修道院だった。
(修道院潜入編)
兎が足を止めた修道院に魔女と警部は足を踏み入れる。
途中、訝しんだ修道女に足を止められるものの、うまく誤魔化し入り込んだ修道院内で魔女の異能によりあっさりと犯人の居室を発見する。
だが、犯人の居室は犯人の魔女のトラップの温床だった。
小さな部屋に張り巡らされた異能の罠を抜け、辛うじて犯人の名前を知れる日記帳を手に入れた警部と魔女の見たのは、死んだ筈の魔女の名前だった。
(警部過去編)
修道院を抜けて、魔女の小屋へとたどり着いた魔女と警部。
軽いイザコザはあったもののそのまま地下のキッチンに行った魔女に警部が銃口を突きつける。
過去、警部に起こったのは陰惨な事件であり、それには「魔女」の存在が関わっていた。
明かされる過去、そして記憶の差異。
シス警部の過去に迫る。
それでは続きをどうぞ。
午前7:12。
魔女の小屋の地下でシス警部は目を覚ました。
昨晩、魔女が煙草を作ってそのまま地下で寝る用のベッドを好きに使っていいと言われ、ベッドに身を預けていたシス警部だったが起床時間は普段と変わらなかった。
キョロキョロと周囲を見渡し、ベッドから腰を上げると軽くストレッチを始めた。
屈伸から始まり、伸脚、アキレス腱を伸ばし、膝を回す。
そして、20回ほどのスクワットを終わらせ、腕と肩を回すと腕立て伏せを20回、腹筋を20回。
毎朝やっているシス警部のルーティンワークである。
普段ならそのまま外に30分程度のウォーキングをし始めるのだが、今日はどうやら止めておくようだ。
もう朝とはいえ先日魔女から聞き、シス警部自身も思い出した外部森林の噂を思い出したのであれば当然であろう。
そのままもう一度屈伸から腹筋までを行い、水道から水を汲むと飲み干した。
「精が出るのう。」
いつの間にか起きていた魔女が階段側からシス警部に声をかける。
「警察官は体も大切だからな。」
「昨日の服じゃがもう乾いておるから、いつでも着替えられるぞ。」
シス警部に伝えながら魔女がタオルを投げて渡す。
魔女の服装は、先日足跡を追いかけていたのと同じスラックスにカッターシャツだった。
一旦まとめるためなのか、髪はポニーテールになっている。
ふわりと太陽の香りがするタオルの匂いを嗅いでシス警部の目が一瞬細まり「おう」とだけシス警部は短く答える。
朝の彼は低血圧気味で、口数もテンションも地味なものになってしまっているのだが、そんな事は魔女は全く知る由もない。
「ワシは気にせんが、気にするならシャワーを使ってくれても構わんぞ、着替えは風呂場に置いてある。ワシはお主が着替えている間に飯を仕込んでおくからの。」
その言葉を聞き返事もせずに頭をかきながら、シス警部が階段を登って行った。
魔女はそれを見送り、エプロンをつけると朝食の準備を始めた。
先日購入していた段ボール箱から棒状のベーコンと卵、レタスとミニトマトと食パンを取り出し、冷蔵庫から牛乳を取り出すと、卵と牛乳、それに砂糖とバターをボウルに入れかき混ぜ、混ぜ終わると同時食パンを浸し始める。
「おはよぉ。」
少し経ち、少女が階段から降りてくる。
シス警部の足音で起きてしまった、少女はパステルカラーの緑色のパジャマを着ており目を擦りながら現れた。
「おぉ、ネルか、今日はお主の好きなフレンチトーストじゃよ。」
その言葉を聞いた瞬間、少女の顔が太陽のように明るく輝く。
「食べ終わったら歯磨きを忘れんようにな、今日は昨日来ていたお兄さんと一緒にお仕事に行ってくるから待っとるんじゃよ、お昼は何が食べたいかのう」
「フレンチトーストたくさん焼いといてくれればいい!!」
駆け寄り魔女の足元に抱きつく少女を見ながら、魔女は頬を綻ばせると頭を撫でた。
「じゃぁ椅子にいつものところから、カテラリーにナイフとフォークを三人分出しておいてくれるかのう、恐らくもうすぐお兄さんも来てくれるじゃろうし。」
「わかった!」
と少女が叫ぶと、キッチン横にある食器棚の引き出しをあけ、三本ずつ取り出しカテラリーの中に入れると椅子に座った。
フライパンに薄く油を引き、切ったベーコンをカリカリに焼き上げつつ、その横で二つ目のフライパンに火を入れバターを敷く。
手際よく魔女はベーコンを焼き揚げ、別途用意していた卵をベーコンを焼いているフライパンに投下し目玉焼きを作っていく。
卵液につけた食パンをバターを敷いていた方のフライパンに入れつつ新しい食パンを浸し、じっくりと焼き上げると手で千切ってザッと洗ったレタスとミニトマトを皿に盛り付け、プレートが完成した。
仕上げに粉砂糖をかけ、冷蔵庫からメープルシロップを取り出し、少女の目の前に置くと同時にシス警部が昨日の服を着て降りてきた。
シャワーを浴びてきたからか軽く髪が濡れている。
魔女はシス警部の方を一瞥すると、フライパンに油を敷き直した。
「すまんが、焼き上がるまでは待っていてくれ。
もし我慢できなければ冷蔵庫の中にピクルスが入っとるからつまむといい。」
「ああ、わかった。」
と言いながらシス警部が少女の隣に座る。
フレンチトーストをその小さな口にハムスターのようにパンパンになるまで詰め込んでいた少女が、唐突にフォークとナイフを止めるとシス警部を見て呟く。
「…おっさんじゃん。」
コンロの方から吹き出す声が聞こえ、隣に座っていたシス警部は唖然とした表情を少女に向ける。
「シガレット!これお兄さんじゃなくておっさんじゃない?」
ワナワナと震えるシス警部を尻目に魔女が、声を殺して笑いながら少女の方を向く。
「ネル、覚えておくんじゃ。
例え、真実であっても袋に包んで話してあげ、真実は隠してあげれば角が立たんものなんじゃよ。
そもそも、シス君よりワシの方が年上じゃしな?」
フォークとナイフを持ったまま、少女が腕を組み、髪に隠れて見え辛い眉間に皺を寄せながら唸りつつも「わかった」と口にした。
「すまんのう、シス君、子供の言うことじゃからそんな気を悪くしないでやってくれ」
そう言いながらいつの間にか焼き上がっていたフレンチトーストプレートの二つ目をシス警部の目の前に置いた。
「こ、子供の言うことだからな。俺は気にしていない。」
少しショックだったのかシス警部の声と肩が震えている。
心底愉快そうに含みながら魔女が笑う。
「昨日と同じカテラリーにフォークとナイフは入っておる、後見ればわかると思うが机の上にメープルシロップは出しておいたから好きに使うといい。」
その言葉を聞き、シス警部がカテラリーからナイフとフォークを取り出し、フレンチトーストを一口大に切り分けて口に放り込み一瞬止まる。
隣で満面の笑みで少女がシス警部の方を見ていた。
「…なんだ?」
シス警部が少女に声をかけると少女は嬉しそうに
「シガレットのフレンチトーストは世界一美味しいでしょ?」
とシス警部に問いかける。
シス警部は一瞬面食らった、そんな風な笑顔を彼自身が恨んでいる魔女から向けられてことによって複雑な感情が胸中渦巻いていたのだろう。
だが、それを表情には出さずに少女の頭を撫でると「ああ」と答えた。
「さて、ワシも食うとするかのう。」
と言いながら自身のプレートと珈琲入りのマグカップを置き、シス警部と少女の対面に側から、シス警部と少女にそれぞれ珈琲とミルクの入ったマグカップを置くと魔女も座り食事を始めた。
「おかわりは一応あるから欲しければ言えば焼くから遠慮せずに言うといいぞ。」
そう言いながら、魔女はシス警部の三倍の量のフレンチトーストにナイフを入れ切り分け始める。
怪訝そうな顔でシス警部が魔女の方を見る。
切り分けを終えた魔女はその様子を見ながらも無視をしつつ、フォーク一本に持ち替えてフレンチトーストを刺しながら新聞を読み始めた。
ぼんやりと魔女の読んでいる新聞の一面のタイトルにある「セントラルパーク市議会議員汚職発覚」の文字ををシス警部が目で追い、食事を再開しようとシス警部が自分の皿に目線を移すとそこには明らかに数の増えたミニトマトの山。
「あ、ばれた。」
悪びれもせずに、笑う少女がそう言いまだ残っていたミニトマトを乗せる。
「なんだ、ミニトマトが嫌いなのか。」
「食べれなくないけど、感触がキライ。」
そうか、とシス警部が漏らすとそのままミニトマトを二つほど口に放り込む。
彼は孤児院でのことを思い出していた。
14歳の頃の彼もミニトマトはそんなに好きではなく、良く先生を困らせていた。
今でこそ特段どちらでもないが、少女と同じく潰した時の感触が苦手だった。
そして、それを見た先生が行っていた行動と同じことを彼は行った。
「じゃぁ俺が苦手なレタスは食ってくれ。」
そう言いながら少女の空になっていた皿に特段嫌いでも無いレタスを少量移す。
「いいよ!」
と元気に返事をして、少女は乗せられたレタスを食べ切るとマグカップの中に入ったミルクを飲み干した。
そのままシンクに食器を持っていき水につける。
「上で本読んでるねー。」
そう言いながら階段を登る少女に魔女は新聞から目を離さず。
「きちんと歯磨きするんじゃぞ。」
「わかってる!」
と問答をした。





