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1-8-10

投稿忘れてたやつ

「ふざけるな! 覚えていない? んなことで済むと思ってんのか!?」


 氷室中佐は剣幕と共に一気に少女に近づいて、頭に小銃を突きつけた。


 それが殆ど無意味な行為であると、中佐ならば簡単に理解出来るであろうに。


 しかし少女はそれに対して特段の反応を示さなかった。


 無関心であったり軽くあしらっている風には見えず、あまりに状況が飲み込めなくて、ただただ混乱しているばかりのようであった。


「お、覚えていないんだよ、本当に。わ、私は、そんなことは……」


「まあいい。お前が覚えているかどうかなんざ俺は知らん。ただお前は、ここで死んでくれればいいだけだ」


 氷室中佐はまだ怒鳴っている方がマシなくらいの殺気を放っていた。こんな奴の相手は俺はしたくない。


「し、死ねって? い、いやだよ、それは」


「お前に拒否権でもあると思ってるのか?」


「そ、それは、知らないけど……」


「白々しい奴だ…… まあいい。総員、こいつを殺せ」


 酷く事務的で単調な口調。それが、帝國軍人にはあるまじき内容を告げた。


 予想外の言葉にアインザッツグルッペンの歴戦の兵士も戸惑う。これは乱心の類ではないかと。


「殺せと言っている!! 早くしろ!!」


「りょ、了解しました」


「了解、です」


 そうと決まってしまえば行動は早い。


 マウスのあちこちに大型の爆弾が仕込まれていく。まあ、それが本当に効果があるかは分からんが。


「お止めなさい、人間の兵士」


「ん?」


 どこからか、大人びた女性の声が聞こえた。距離は近い。そして、何故か聞き覚えがある。


 そして同時に、これまたどこかで聞いたことのあるキャタピラの駆動音が遠くから聞こえた。


「戦闘用意だ!」


 迫る戦車は、取り敢えずは新たな敵影と認識される。氷室中佐の指示で、マウスのことは保留にし、素早く防衛の陣形を組んだ。


 因みに俺は適当なところに隠れて彼らに紛れただけだ。陣形など知らん。


「ライ、この音、Ⅳ號戰車のものだ」


「ああ、あいつか」


 道理で聞き覚えがある訳だ。


 Ⅳ號戰車、通称フィーア、最初にティーガーⅡと出会った時、死にかけたティーガーⅡを助けてくれた奴である。


 まあ、多分、どちらかと言うと味方になってくれる筈である。


 他の重戦車と比べれば一回り小さな戦車は、大小の火器を備えたアインザッツグルッペンの数百メートル手前で停止した。


 そして中から、黒い軍服を着て、右の上半身が欠落した少女が姿を現した。


 流石はアインザッツグルッペン。この程度では驚きもしないらしい。


「あらあら、近頃の人間は、淑女に紳士的な出迎えも出来ないのかしら?」


「で、出迎え?」


 氷室中佐もこの言葉には面食らったらしい。確かに、戦場にはおよそ似つかわしくない言葉だ。


「吉川、奴の記録は?」


「特には見当たりませんな。完全に新手のミュトスでしょう」


「新手か……」


 帝國にはまだ知られていなかったらしい。軍人の前に姿を見せるのが初めてと言うことだ。


「あ! フィーアじゃん。やっほー」


「んあ?」


 緊張した空気をぶち壊したのはパンターであった。どうやらパンターもフィーアと知り合いらしい。


「あら、パンター、お久しぶりですわね」


「うんうん。元気にしてた?」


「ええ。元気ですわよ。貴女も、元気そうですわね」


 俺とティーガーⅡを除き、両名の場を弁えない会話には、一同唖然としていた。


「な、なあ、東條。あいつは味方なのか?」


「ああ。味方だ。信用してもいいと思うぞ」


「分かった。それなら交渉の余地くらいはありそうだ」


 氷室中佐は小銃を背中に背負って陣地を抜け出し、フィーアの方に歩く。


「俺は氷室中佐だ。ここにいる奴らの部隊長をしている」


 互いに最低限の情報交換を行った。


 まあ、フィーアの方は自分の名前と、自分がドイツ製で、ここにいるミュトスは皆姉妹であると教えたくらいだったが。


「まあ、それは兎も角、わたくしがここに来たのは、そこにいる子、マウスについて、お教えしたいことがあるからですわ」


「え? 私が、何?」


「何だ? 言ってみろ」


「マウスは、つい10分程前まで、自らの意識を持っていませんでしたわ。つまり、ただの遠隔操作の出来る戦車でしかなかったと言うこと。それ故に、あの子が何も覚えていないのは、当然のことなのです」


 それが本当なら、まあマウスの反応にも合点がいくが、合点がいかないこともある。


「だったら聞くが、どうしてここで丁度意識を持つようになったんだ?」


 氷室中佐も俺と同じ疑問に至った。


「さあ? それはわたくしにも分かりませんわ」


「分からないだと?」


「ええ。さっぱり」


 今の氷室中佐を煽るのは止めた方がいい。そう声をかけたかったが、絶妙に遠くで彼らは話していた。


「じゃあそいつは単なる都合のいい話だ。信用は出来ねえな」


「あら残念。けれど、いいのですか? あの子を使えれば、人類にとってこの上ない戦力になるのではなくて?」


「そ、それは……」


 氷室中佐は個人としてはマウスをぶっ殺したい。だが同時に、帝國の矛として、マウスを生かしておくべきだと、理性は告げているだろう。


 まあ、沈黙の中で彼が何を考えているのかは、俺には分からないが。


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