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1-8-9

 最初は手応えは感じられなかった。


 しかし弾をぶちこむにつれ、金属音が鈍くなっていく。


「これで終わりだ!」


 そして最後にパンターが叫び、弾を一発叩き込めば、主砲がめきめきと音を立て、下側に折れ曲がり始めた。


「折れろ!」


 それを追い討ちで踏みつければ、ついにマウスの主砲は砲塔と完全に分離し、地に落ちた。


「やったー!」


「おお、やったな」


 喜ぶ少女を横目に、しかし俺は気付いてしまった。


 主砲はへし折れば、確かに攻撃の威力も射程も弱体化するが、砲弾を撃つ機能自体は損なわれていないのではないかと。


「なあ、これはまだ、撃てるよな?」


「ああ、うん。そうだよ」


「はい?」


 それでは全く意味がないのだが。


「だから、そう言う時は、こうやるんだよ」


 にやりと笑ってパンターは拳銃を取り出した。


 そしてそれを砲塔の穴の中に腕ごと突っ込んで、何発か発砲した。


 全く躊躇わない辺り、一流の職業軍人の如し。殺し屋とかが向いているのではなかろうか。


 さて、効果はすぐに現れた。


 その次の瞬間、マウスは減速を始めたのである。つまりは制御を失ったと言うことだ。


 マウスが慣性で進み続けるのには逆らわず、数百メートル進むのを放置したところ、やっと完全に停止した。


 やっと終わったのだ。


「おーい! 生きてるか!?」


 装甲車の天井から頭を出して、氷室中佐はわざわざ心配してくれる。


「ああ! この通り無事だ!」


「よくやった。これからそいつに色々としてえから、どいていろ」


 マウスが沈黙したのを確認したアインザッツグルッペンは素早く集合し、マウスを包囲。更には逃げられないようにワイヤーをあちこちにくくりつけた。


 しかし、停止させたはいいものの、未だにこの中に入る手段や破壊する手段はない。


 と思っていたが。


「ん? 開いた?」


 ハッチがゆっくりと開かれていく。


 アインザッツグルッペンは、誰も指示せずとも、一斉に銃をその先に向け、警戒体制に入った。


 まずはハッチのふちを白い手が掴んだ。それだけで空気が引き締まる。


 そして、腕が見えてくると同時に、ティーガーⅡに似たような黒い軍服の少女が現れた。


「敵意は、ないようだな」


「仮にあっても、この軍隊相手ではあの体ではどうにもならん」


 ティーガーⅡの言葉は空気を少しだけ和らげた。


 やがて上半身全体がハッチの上に出て、砲塔の上を這って前に進んだ。


「あれは、落ち……」


 と考えると、それはすぐに現実となった。少女は数メートルはある車体の一番上から真っ逆さまに落下したのだ。


「う、うう…… 痛い……」


 ついさっき起こされたかのような眠たげな声が、地面に埋まっている顔から聞こえる。


 そして少女は、灰色の杖を器用に使いながら立ち上がった。


挿絵(By みてみん)


 髪は絵に描いたような金髪、目は透き通るような碧眼である。これらはティーガーⅡと全く同じだ。


 しかし、キリッとしたティーガーⅡとはまるで違い、ぼんやりとした目をしている。


 頭の上にはマウスの砲塔を模したような模型が乗っかっていて、その左側面には祭りの時のお面のような鉄板がくっついている。


 服はティーガーⅡやパンターなどとよく似た黒軍服。


 しかし、地面に届きそうな長いスカートと上着の境目が分からない。いや、そもそも服が全部一つに繋がっている。


 腕や腰には、他でも見たような、装甲を模した曲がった鉄板が張り付いている。またスカートにA.H.と誰のものか想像出来るサインがある。


 また、特筆すべきは、彼女の右の脚、股から下がそっくりそのまま消滅していることだ。その為に杖を持って体を支えているようだ。


「ええと、君達、誰?」


「誰、だと?」


 ついさっきまで殺し合いをしていた相手だ。それを誰などと問うとは、よっぽど捻くれた性格をしているか、或いは記憶喪失の類かだろう。


 しかし、そんなことになる理由は見当たらないし、何が何だかよく分からない。


「え、ええ、な、何で私は今にも殺されそうになってるの?」


「これは、本当に記憶喪失なのか?」


 同類のティーガーⅡに尋ねてみる。


 しかし、アイギスにそんなことがある筈がないの一点張り。パンターも同意見である。


「な、何か応えてよ、誰か」


 こいつを放置しておくのも流石に忍びなくなってきた。無論、そう言う油断を誘う罠の可能性も考えておくべきであるが。


「お前は、ふざけているのか?」


 最初に反応を返したのは氷室中佐。しかしそれはおよそ友好的なものではなかった。


「い、いや、ふざけてなんて、ないよ」


「じゃあ、何度も人類を殺して回ったのも、覚えてねえのか?」


「こ、殺す? そ、そんなことをした覚えはない。いや、けど、そんな活躍が出来るなら、したかったよ」


 嘘を吐いているようには見えない。ここまで迫真の演技はそうそう出来るものではないだろう。


 しかし、それが寧ろ空気を冷たくしていく。


 大量殺人犯がいざ捕まったのに、記憶喪失などと言われれば、遺された者は誰に怒りをぶつければいいものか。


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