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「ライ、持ってきた爆弾はあるな?」
「ああ。ここに」
大きく広げた手のひらくらいの大きさの爆弾。これが一応、帝國でも最新鋭の爆弾らしい。
「出るぞ」
ハッチを開けて外に出る。
ティーガーⅡはマウスの側面に張り付きながら進んでいた。
しかし、やはり、マウスの方が高い。ティーガーⅡの上に立っている時点で大抵のものは見下ろせるのだが、今は逆に見上げるハメになっているのだ。
「どうするんだ?」
「飛び移るのではないのか?」
「これをか?」
一歩足を踏み外したら、2両の戦車の間に挟まれてミンチになることは明らかだ。
これは流石に、思っていたのより遥かに怖い。
「何を怯えているんだ?」
「いや、怯えてなどは……」
「まあいい。私が先に行く」
「ちょっ、ま……」
止めるのも間に合わず、砲塔の上の僅かな空間で助走をつけたティーガーⅡは軽々とマウスの上に飛び乗った。
そうだ。砲塔は確かにこちらより高いが、その下の車体ならば、高さは同じくらい。
「ライ、来い」
「わ、分かった」
意を決して飛び込んだ。
「問題ないな」
「ああ。問題ない」
無事に飛び乗ることが出来た。では次にどうするか。
「爆弾を私にくれ。付けてくる」
「ああ。これだ」
ふと思う。これは、俺が飛び乗る必要はなかったのでは? ティーガーⅡが一人でやればいいことではないか。
「なあ、俺がいる意味は何だ?」
「特にない」
「は?」
「私が一人で行っては暇だからな」
「はあ……」
嵌められた。こいつはこんなに悪戯好きな奴だったか。
まあいい。爆弾は無事に設置された。
しかし、上に乗られていると言うのに、マウスに反撃をする素振りもない。例えば砲塔を回したりすれば、上に乗った俺達の邪魔くらいは出来ると思うが。
「爆発するぞ」
爆弾は時限式。加えて指向性が強いから、少し離れれば安全である。
耳をつんざく爆音がして、砲塔の前面、主砲の付け根から煙が上がる。
「どうなった?」
「折れて、いないな」
「何だって?」
至近距離どころかそれ本体に爆弾を付けたと言うのに、主砲は無傷であった。
なるほど。これすらマウスの脅威たり得ないと言うことか。道理で俺達を無視したと。
「ライ、どうする?」
「どうするって言われてもな……」
一応、やってみれることはなくもない。
背中の九九式狙擊銃を取り、主砲に向け、何発か撃ってみた。しかし結果は軽快な金属音のみ。
寧ろ跳弾でこっちが危なくなるだけだ。
「万事休すか……」
「そう、だな。私もどうしようもない」
主砲は上に向けるものではない。ティーガーⅡの主砲でマウスの主砲を撃つのは不可能。同軸機銃も同じこと。
周囲のアイギスの雑兵は殆ど排除されつつあるが、ここでマウスを無力化出来なければ、人類にとって重大な脅威になる。
「上にいる人! ぶつかるから気をつけて!」
「ん? パンターか?」
パンターがマウスに突進してきて、体当たりをかまし、ティーガーⅡと同じように側面に取りついた。
これでマウスはティーガーⅡとマウスに挟まれた訳だが。
「何でマウスの主砲を壊してないの?」
パンターは無邪気に尋ねてくる。
「壊してないんじゃなく、壊せないんだ」
「へー。大変だね」
「お前も当事者だろうが」
「私は別に、暇になったから来ただけだよ?」
こいつの場合は多分、その言葉は事実そのものだ。
何か策を持っているのなら、嬉しそうに走り寄ってくるだろう。つまり状況は一切好転していない。
「ん、通信だ」
氷室中佐からの通信だ。
「調子は良くないようだな」
「ああ。見ての通りだ」
状況は、見れば分かるだろう。立派な主砲が今もアインザッツグルッペンを狙っている。
「あの爆弾でも効かねえのか?」
「ああ。全く効かない」
「チッ。そうなると、他に手はねえな……」
「あんたもか」
俺達の負け、なのか。
別に人類の防衛線が破られようと知ったことではないが、単に、負けると言うのは好きではない。
「何か、貫徹力か、破壊力のある武器は……」
何となくだが、足下、マウスの装甲を見下ろした。そして再び視線を前に向けようとした時、それに気付いた。
パンターの左脚にくっつく鉄の筒。いや、鉄かは分からないが、何であれ、それは紛れもなくアイギス製の機関砲だ。
「パンター、その脚の奴、撃てるよな?」
「え? ああ、うん。いつでも撃てるよ」
「なるほど。それがあったか。私を撃った奴だが……」
ティーガーⅡの気持ちはよく分かるが、今は堪えてもらう。パンターのそれは切り札だ。
「それであの主砲を撃て」
「あー、その手があった。賢いね」
「自分の脚じゃないのか……」
「うう…… ま、まあ、りょーかい。撃つね」
「頼んだぞ」
パンターは砲塔の上に飛び乗って、主砲を鉄の義足で踏みつけた。
「よし!」
聞いたことのある銃声が響き、パンターは躊躇なく銃弾を叩き込んだ。




