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1-8-8

「ライ、持ってきた爆弾はあるな?」


「ああ。ここに」


 大きく広げた手のひらくらいの大きさの爆弾。これが一応、帝國でも最新鋭の爆弾らしい。


「出るぞ」


 ハッチを開けて外に出る。


 ティーガーⅡはマウスの側面に張り付きながら進んでいた。


 しかし、やはり、マウスの方が高い。ティーガーⅡの上に立っている時点で大抵のものは見下ろせるのだが、今は逆に見上げるハメになっているのだ。


「どうするんだ?」


「飛び移るのではないのか?」


「これをか?」


 一歩足を踏み外したら、2両の戦車の間に挟まれてミンチになることは明らかだ。


 これは流石に、思っていたのより遥かに怖い。


「何を怯えているんだ?」


「いや、怯えてなどは……」


「まあいい。私が先に行く」


「ちょっ、ま……」


 止めるのも間に合わず、砲塔の上の僅かな空間で助走をつけたティーガーⅡは軽々とマウスの上に飛び乗った。


 そうだ。砲塔は確かにこちらより高いが、その下の車体ならば、高さは同じくらい。


「ライ、来い」


「わ、分かった」


 意を決して飛び込んだ。


「問題ないな」


「ああ。問題ない」


 無事に飛び乗ることが出来た。では次にどうするか。


「爆弾を私にくれ。付けてくる」


「ああ。これだ」


 ふと思う。これは、俺が飛び乗る必要はなかったのでは? ティーガーⅡが一人でやればいいことではないか。


「なあ、俺がいる意味は何だ?」


「特にない」


「は?」


「私が一人で行っては暇だからな」


「はあ……」


 嵌められた。こいつはこんなに悪戯好きな奴だったか。


 まあいい。爆弾は無事に設置された。


 しかし、上に乗られていると言うのに、マウスに反撃をする素振りもない。例えば砲塔を回したりすれば、上に乗った俺達の邪魔くらいは出来ると思うが。


「爆発するぞ」


 爆弾は時限式。加えて指向性が強いから、少し離れれば安全である。


 耳をつんざく爆音がして、砲塔の前面、主砲の付け根から煙が上がる。


「どうなった?」


「折れて、いないな」


「何だって?」


 至近距離どころかそれ本体に爆弾を付けたと言うのに、主砲は無傷であった。


 なるほど。これすらマウスの脅威たり得ないと言うことか。道理で俺達を無視したと。


「ライ、どうする?」


「どうするって言われてもな……」


 一応、やってみれることはなくもない。


 背中の九九式狙擊銃を取り、主砲に向け、何発か撃ってみた。しかし結果は軽快な金属音のみ。


 寧ろ跳弾でこっちが危なくなるだけだ。


「万事休すか……」


「そう、だな。私もどうしようもない」


 主砲は上に向けるものではない。ティーガーⅡの主砲でマウスの主砲を撃つのは不可能。同軸機銃も同じこと。


 周囲のアイギスの雑兵は殆ど排除されつつあるが、ここでマウスを無力化出来なければ、人類にとって重大な脅威になる。


「上にいる人! ぶつかるから気をつけて!」


「ん? パンターか?」


 パンターがマウスに突進してきて、体当たりをかまし、ティーガーⅡと同じように側面に取りついた。


 これでマウスはティーガーⅡとマウスに挟まれた訳だが。


「何でマウスの主砲を壊してないの?」


 パンターは無邪気に尋ねてくる。


「壊してないんじゃなく、壊せないんだ」


「へー。大変だね」


「お前も当事者だろうが」


「私は別に、暇になったから来ただけだよ?」


 こいつの場合は多分、その言葉は事実そのものだ。


 何か策を持っているのなら、嬉しそうに走り寄ってくるだろう。つまり状況は一切好転していない。


「ん、通信だ」


 氷室中佐からの通信だ。


「調子は良くないようだな」


「ああ。見ての通りだ」


 状況は、見れば分かるだろう。立派な主砲が今もアインザッツグルッペンを狙っている。


「あの爆弾でも効かねえのか?」


「ああ。全く効かない」


「チッ。そうなると、他に手はねえな……」


「あんたもか」


 俺達の負け、なのか。


 別に人類の防衛線が破られようと知ったことではないが、単に、負けると言うのは好きではない。


「何か、貫徹力か、破壊力のある武器は……」


 何となくだが、足下、マウスの装甲を見下ろした。そして再び視線を前に向けようとした時、それに気付いた。


 パンターの左脚にくっつく鉄の筒。いや、鉄かは分からないが、何であれ、それは紛れもなくアイギス製の機関砲だ。


「パンター、その脚の奴、撃てるよな?」


「え? ああ、うん。いつでも撃てるよ」


「なるほど。それがあったか。私を撃った奴だが……」


 ティーガーⅡの気持ちはよく分かるが、今は堪えてもらう。パンターのそれは切り札だ。


「それであの主砲を撃て」


「あー、その手があった。賢いね」


「自分の脚じゃないのか……」


「うう…… ま、まあ、りょーかい。撃つね」


「頼んだぞ」


 パンターは砲塔の上に飛び乗って、主砲を鉄の義足で踏みつけた。


「よし!」


 聞いたことのある銃声が響き、パンターは躊躇なく銃弾を叩き込んだ。

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