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「破壊が無理ならば、捕獲と言う方向で考えるのは、いかがですかな?」
吉川大尉は言った。
「つってもな、破壊より捕獲の方が難しいんじゃねえか?」
氷室中佐は冷静に反論する。確かに、一般的には敵を殺すより捕まえる方が難しいとされる。
しかし、それはあくまで一般的な場合。いかなる火力を以てしても破壊が不可能なマウスについては、例外と言っていいだろう。
「確かに、難しいことは間違いありますまい。しかし、破壊が不可能なのですから、そうするしかないのではありませんか?」
「破壊が不可能と決まった訳じゃねえが…… いや、そうだな。何とかして捕獲する方法を考えよう」
吉川大尉はうんうんと頷いた。俺もそれに賛成である。
「捕獲だったら、落とし穴に落とせばいいんじゃないの?」
パンターは言った。しかし、それは恐らく正解ではない。
「お前が自ら、落とし穴は効果がないと示したんじゃないか」
「え? そうだっけ?」
「ああ。お前の記憶力はどうなってるんだか……」
パンターとアインザッツグルッペンが戦った時、アインザッツグルッペンは地面に爆薬を仕込んだ落とし穴を作ったが、パンターはそれを見抜き、片っ端から銃で処理した。
まあ、つい昨日のことなんだが。
言えば、パンターはぱんと手を叩いて納得してくれた。
「私に出来るんだから、マウスにも出来るだろうってことだね」
「その通りだ」
と言うことで落とし穴は却下。
しかしそうなると本当に策がない。
熟考すること数分。口を開けたのは再びパンターであった。
「じゃあ、マウスに直接乗り込むってのは、どう?」
「白兵戦か。捕獲ではなく破壊の方向ってことだな?」
氷室中佐の理解は俺と同じだ。戦車にとりついて、ハッチを開けて中に爆弾をぶちこんだり何だりして、それを破壊する。
大昔、旧アメリカ合衆国等の侵略に、有力な兵器を持たない兵士が抵抗する際に用いた常套手段だ。
「いやいや、私達が本気で引きこもろうと思ったら、ハッチは開かないし、人の手で持てる兵器くらいじゃ、マウスは壊せないよ」
「だったら、何が言いたい?」
「あいつの主砲と機銃、あれならへし折れる。そうすれば、重機とかを使って安全に捕獲出来るんじゃない?」
「無理な話ではない、か……」
古今東西、そんな話は聞いたことがない。故に即座にそれを採ることは難しい。
しかし、そんなことをしない理由をよくよく考えてみると、それは、わざわざ主砲そのものを狙うくらいなら、普通に破壊した方が早くて安全だからであろう。
だが、今回の場合、それは適用されない。何故ならば、普通にやっては戦車の本体が破壊出来ないからだ。
なれば、それに賭けるのもまた、荒唐無稽な話ではない。
「俺は、ありだと思うぞ。それなら何とかなる気がする」
「本気か?」
「ああ。本気だ」
アインザッツグルッペンの皆も、少しずつ首を縦に振り始めた。
まあ、馬鹿げた作戦と言われては反論も出来ないような代物だ。しかし俺は、確かに可能性を感じたのである。
「ティーガーⅡさんとパンターさんの重さから考えると、マウスの重さも大したものじゃないと考えられるんで、何とかなると思いますよ?」
助太刀をしてくれたのは小早川一等兵。
「わ、分かった。だが、どうやって近づくつもりだ?」
「ああ。奴の主砲に撃たれては、私達とて耐えられない」
意外にもティーガーⅡと氷室中佐は、計画の不備を指摘した。確かに、白兵戦を仕掛けようとしているのだから、近づけなければどうにもならない。
「私達が囮になれば、宜しいかと」
吉川大尉は静かに言った。
「お前は死ぬ気か?」
「まさか。しかし、死ぬ可能性は高いでしょうな」
「だったら、そんな馬鹿な提案はするな」
「いえ。アインザッツグルッペンが囮となって、マウスの元まで誰かがたどり着けるようにすることを、提案します」
「お前は……」
氷室中佐は怒りで燃え上がった目で吉川大尉を見据えた。しかし吉川大尉は退かず、諭すような目を合わせた。
誰もその沈黙に敢えて首を突っ込もうとはしなかった。
「はあ…… 分かった分かった。それでやってみる」
やがて折れたのは氷室中佐の方であった。
「まあ、確かに、最優先は任務だ。兵士の命じゃねえ」
「ありがとうございます。後は、マウスの居場所を捜すだけですな」
「どうやって捜すつもりだ?」
パンターの時は向こうからわざわざ居場所を教えてくれた訳だが、マウスがそんなことをするとは考えにくい。
「どうせ下關に向かうでしょうから、その間の適当な道を見張っとけばいいんじゃないすか?」
小早川一等兵は言った。
確かに、アイギスが渡河して本州に渡れるのは下關しかない。奴らの海軍力はそれ程までに貧弱だ。
下關に向かわないのなら、それはそれで人類の脅威にならないのだから、放っておけばよかろう。
「分かった。それは任せる」
「了解っす」
そうして次の日には作戦決行だ。




