表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/109

1-8-3

「助けに行きたいのか?」


 ティーガーⅡは言った。


「ああ」


 無論だと応える。ついでに、この中で最も有力な戦力であるティーガーⅡとパンターにもついてきて欲しいと。


「その必要はないだろう」


「何故だ?」


「奴はこの程度で死ぬ奴ではあるまい。それに、さっさと逃げろと命じられたのだから、それに従うべきだ」


「しかしな、流石に状況が状況だろ」


 軍人は状況の変化に応じて適切な行動を取るべきだ。一度出された命令に拘泥するのは愚者の行いである。


 などと説得するも、ティーガーⅡが意見を変えようとすることはなかった。


 そんなに氷室中佐が嫌いなのか。


「だったら他の隊員に聞いてみるか?」


「ああ。そうだな」


 思わず苛ついた口調になってしまった。


 しかしティーガーⅡの提案は理に適っている。


 その通りに先行の装甲車に連絡してみることとした。


「ティーガーⅡさんの言う通りにすべきかと、思いますがね」


 吉川大尉は俺の予想とは正反対のことを言ってきた。


「あんたは中佐の部下じゃないのか?」


「ええ、部下です。ですから、中佐殿を信頼している訳ですよ」


「信頼?」


「ええ。中佐殿は砲弾の一発くらいで死ぬお人ではありませんし、中佐殿が命じられたことならば、それに従うのが最善であると、私どもは信じておりますからな」


「はあ……」


 ティーガーⅡと殆ど同じことを言うのは驚きだ。


 どうしてそこまで人を信じ運命を委ねられるのか。俺にはどうも理解出来ない。


 しかし、ここまで四面楚歌の状況となると、流石の俺も折れざるを得ない。


「分かった。このまま進む」


「それが宜しいでしょうな」


 吉川大尉は軽快な笑い声を上げた。


 車輪を回せば、やがて集合場所に着いた。


 場所は丘か山か微妙な高台の陰であった。


 確かにここなら、高台の天辺から遠くまで見渡せるし、相当に近寄らないと砲撃を食らわすことは出来ない。


 まあ反対側から敵が来たらどうしようもないが、仮の隠れ場所としてなら悪くはない。


「ここで暫く待つとしましょうか」


 吉川大尉は言った。


「そうしよう」


 一体どういう感じで氷室中佐が来るのかは知らんが、皆がそうすると言うので、素直に待つこととした。


「ところで、東條さん、その銃を見せてもらえます?」


 小早川一等兵が幽霊のように話しかけてきた。何がところで何なのか分からんが。


 しかし、「その銃」とは十中八九、九九式狙擊銃のことだ。RP-52や双発小銃ではないだろう。


 だが九九式は人に見せたくない。


「それは……」


「何か問題でも?」


「いや、そんなことはないが……」


「じゃあ何で躊躇うんすか?」


「それはな……」


 手詰まりだ。うまい言い訳が全く思い付かん。


 傍目にはこの銃はただの古銃で、見せるのを躊躇うべき理由などないのだ。


「まさか、アイギスから貰ったものとか?」


 小早川一等兵の目が鋭くなった。


 俺の方が気圧されるくらいの気迫を持っている。いや、俺が動揺しているだけかもしれん。


「ま、まさかそんな……」


「図星っすね」


「……」


「黙っててあげますから、見せてもらえます?」


「面倒な……」


 この男、俺がこの人生で出会った人間の中でも一等危険だ。こんなろくでもない奴に無駄な知性を授けた奴は一体誰だ。


 しかし、俺に拒否権はなく、九九式狙擊銃を渡さざるを得なかった。


 氷室中佐は物珍しそうに隅から隅まで観察する。その様子は新しいおもちゃを貰ったばかりの子供のようであった。


「撃ってみてもいいっすか?」


「どうせ拒否権はないんだ」


「じゃあ遠慮なく。ティーガーⅡさーん、ちょっと来てもらえますか?」


「何がしたいんだ?」


「まあまあ。それはお楽しみっすよ」


 ティーガーⅡはすぐに来た。そんなに大きい声でもなかったのだが、地獄耳の機能でもあるのだろうか。


「何の用だ?」


「ちょっと的になってくれません?」


「は? お前は……」


 反射的に殴りかかろうとしたが、しかし、ティーガーⅡに制止された。


「構わん。この体は附属品に過ぎないからな」


「ありがとうございます。じゃ、まずは左腕を伸ばしてくれます?」


「こ、こうか?」


 ティーガーⅡは腕を真横に伸ばした。


 すると小早川一等兵は躊躇なく九九式狙擊銃を構え、その肘を撃ち抜いた。


 すると当然、左の肘から先は力なくぶら下がる格好となった。


 しかしティーガーⅡにそれを嫌がる様子は微塵も見られなかった。


「じゃあ、次は右も同じように」


「うむ。分かった」


 左腕は気にも留めず、ティーガーⅡは右腕を伸ばした。


 そして小早川一等兵は、今度は違う銃を構えた。アインザッツグルッペンがいつも使っている銃である。


 発砲すると、今度の弾丸は全く効かず、砕けた破片が砂粒のように地に落ちた。


「そりゃ、そうなるだろう」


 アイギスに通常の鉛弾は効かない。そんなことは誰でも知っている常識だ。


「まあまあ。ただの対照実験すよ。本命はこっち」


 そう言うと、小早川一等兵は弾倉を別のものに切り替えた。


「もう一発撃ちますね」


「ああ。撃つがいい」


 同じ銃から同じ条件での銃撃。


 しかし今度の弾丸は、ティーガーⅡの肘を貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ