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1-8-1

「交渉には応じるな、だとよ」


 氷室中佐は帝都へ問い合わせた結果を極めて簡潔に伝えてきた。


「そう来るだろうと思った」


「ほう?」


「この交渉を受ければ、アイギスに何か、とても有益なものを与えることになる。それは人類滅亡までの砂時計を進めるだけだ」


 仮に俺がティーガーⅡのことが大嫌いであったとしても、ティーガーⅡを渡すべきではないと主張するだろう。


 それ程に結論は分かりきっている。


 今回の確認も、一応は伝えておく程度のものだ。


「お前、賢いな」


 氷室中佐はすっかり感心した様子。


 誉められるのが嫌な訳ではないが、こんなこと、少し考えれば誰でも分かることだろうに。


「お前は何も考えずに皇帝に問い合わせたのか?」


「ま、まあ、確かに、その通りだ……」


「はあ……」


 氷室中佐の性質がまた少し分かった。


 彼は戦術を考えるのは得意だが、戦略は考えられないらしい。


 まあ、そもそもアインザッツグルッペンに戦略眼が必要かと問われれば、そうでもないと答えるのが正解ではあろうが。


 兎も角、これでティーガーⅡとパンターは渡さないことになった訳だ。


 ではこれをクラッススに伝えてやろう。


「ティーガーⅡ、こっちから通信は出来るのか?」


「ああ。可能だ。奴は通信を待ち構えている」


「じゃあ、頼む」


 吉川大尉と小早川一等兵の用意した立派なスピーカーに音声を流すようにすると、早速あのうざったい声が響いた。


「やっとかね。待ちわびだぞ」


「結論から言う」


「よいぞ」


「さっきの申し入れは、受け入れられない。以上だ」


 きっぱりと言い切った。実に爽快である。奴の鼻をへし折ってやれるのだから。


「残念だ。折角諸君らを助けてやろうと思ったのに」


「お前に助けられるほど、落ちぶれちゃいねえよ」


 氷室中佐は挑発的に言った。確かな自信が見てとれる。


「確かに、諸君は人類の軍隊の中では取り立てて高い実力を持っていると見える。とは言え、我がⅧ號戰車に勝てはするまい」


「望むところだ」


「中佐殿! いらっしゃいますか!?」


 と、その時、雰囲気をぶち壊す伝令の声。


 氷室中佐は忌々しげな目で睨むも、アイギスと普通に会話をしていたことを自覚したのか、苦虫を噛み潰したような顔をして、何事かと問うた。


「はっ! 北北西の方向より、未知のアイギスの反応! 会敵は20分もしないうちかと!」


「ほう」


 伝令の焦りようとは反対に、氷室中佐は少しも動揺していない。


 直ちに戦闘と移動の用意をするよう部下に伝えると、再びクラッススに話しかけた。


「これが、お前のマウスとやらか」


「いかにも。千年の昔の人類史上最強の戦車。それに我らが手を加えたのだ。よもや諸君らに抵抗などは出来まい」


「それはどうかな」


「まあいい。せいぜい、頑張りたまえよ」


 通信は唐突に切られた。しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。


「ティーガーⅡ、パンター、分かってるよな?」


「ああ」


「うん!」


 ティーガーⅡは当然と言わんばかりに、パンターは楽しそうに応えた。


 今すぐに戦闘を始められるのはティーガーⅡとパンターだけである。


 アインザッツグルッペンは、あらかじめ計画を立て、罠を仕掛けなければ戦えない。こう言う不意遭遇戦には弱いのだ。


 両名の戦車には補給も整備も必要ない。


 クラッススに宣戦布告されて、3分後にはもう市街をその履帯で駆けている。


 この二人が並走するのは、これが初めてのことだ。


「位置情報を送る。役立ててくれ」


「了解した」


 氷室中佐からマウスと思われるアイギスの場所が送られてきた。距離は4km程。


「このまま近づき、先制攻撃を浴びせる。いいな?」


「りょーかい! いい獲物が出てきた!」


「う、うむ」


 ティーガーⅡが戦いに怖じ気づくようなことはないが、パンターの底抜けの戦闘狂ぶりには引いているようだ。


「射程に入ったな。まずは一発見舞うぞ」


「うん! やっちゃおう!」


「照準合わせ…… っ!」


 決して大きくはないが、確かな爆音。その瞬間、ティーガーⅡの顔が青くなる。


「パンター、避けろ!」


「もちろん!」


「な、何が……」


 照準を合わせていたのも投げ捨てて、ティーガーⅡとパンターは鬼気迫る勢いで後退した。


 そして数秒と置かぬ間に、ティーガーⅡが存在していた空間が吹き飛んだ。


「向こうに先制されたのか」


「ああ。奴め、私達より射程が長い」


「大丈夫なのか? それ」


「安心しろ。射程の差など近寄ればいいこと。パンター、分かったな?」


「りょーかい!」


 言外に何かを共有したらしく、ティーガーⅡとパンターは左右に分かれ、猛然と突撃を開始した。


 途中で何度か死にそうになったが、すんでのところで回避し、距離を詰めていく。


「あれがマウスか……」


「そうらしいな」


 まだ人の目には遠く、ぼんやりとしか見えなかったが、僅かに異様な姿をした戦車が目に入る。


 報告にあった通り、箱を積んだような見た目をしていた。


「よし。好機だ。撃つぞ! パンター!」


「りょーかい!」


 よく見ると奥にパンターの姿が見える。


 なるほど。あれを見事に挟み撃ちした訳だ。

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