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1-1-6

「何考えてんだ! さっさと止まって俺を降ろせ!」


 俺は何故だか自分の命を救おうとしている奴にブチ切れていた。普通なら感謝感激どころの騒ぎじゃないが、この時の俺は全く真逆の態度を取ったのだ。


「クソッ!」


 俺は拳銃を奴に突きつけた。だがすぐに自分でも気づいた。少なくともこの行為には何の効果もないと。


「言っただろう。ここにある体が死んでも、何も変わらない」


「何がしたいんだ、お前は……」


 銃は降ろした。だがまだ俺は納得していない。しかし、ティーガーⅡは俺の心を読んだかのように続ける。


「まず質問の答えは、お前を助けようとしている訳だが、お前のその銃程度ではどうにもならないぞ。どこを撃っても私の装甲は貫けない」


「もう一度言うぞ。さっさと俺を出せ」


 が、そう言った瞬間、ざばんとものを水中に投げ込んだ時の水音が聞こえた。聞こえた音は小さかったが、それは恐らく戦車の中だからだろう。


 こいつが投身自殺まがいのことを実行し終えたのは間違いない。


「クソッ……」


 俺の命は見事助かるだろう。だがこいつは一生水の中だと? 俺のどうでもいい命を助ける対価にしては重すぎるじゃないか。


 だが、もう遅い。


 俺に命が助かったことへの喜びはなく、反対に絶望感だけが押し寄せていた。


「爆撃が来る。問題ないとは思うが、衝撃に備えておけ」


「一体何がしたいんだ……」


 衝撃に備える気などはなく、俺は呆然としていた。


 すぐに外から爆発音が連続して聞こえてきた。だが、それによって俺が焼け死ぬようなことはなかった。ここが水中だからだろう。


「じゃあ、今からハッチを開ける。海水が入ってくるだろうが、このくらいの深さなら泳いで海面に出られるだろう」


「待て」


「何だ」


 ティーガーⅡは顔色一つ変えず、事務連絡みたいな調子で話しかけてくる。俺にはそれが気に入らなかった。


「お前は本当にこのままなのか?」


「ああ。私の意識は作動し続けるが、戦車として動くことはもう叶わないだろう」


「永遠に牢獄に入れられるようなものじゃないか」


「確かにな。だがもうお前には関係ないだろう」


「馬鹿を言え! お前を見捨てて俺だけ出ていける訳がないだろ……」


 俺は何を言っているんだ? さっきから意味がわからないことばかりを考えている。俺はこいつを何だと思っているんだろうか。


「どうして俺を助けた?」


 せめてそれだけは聞いておきたい。今生の別れになるならなおさらだ。


「お前は、私を撃たなかった」


「撃ったが?」


「いや、正確には、撃つのを躊躇ってくれた。そうだろう?」


「ああ。まあな」


 逆に躊躇わない奴がいるのか? いたとしたら、この俺ですら、そいつの品性を疑うが。


「人は私を撃つことを躊躇わなかった。私がアイギスだとわかった瞬間、一斉に銃を向けてきたんだ」


「そんなことが……」


 こいつも結構、辛い過去という奴を持っているのか。何も考えてない奴だとばかり思っていたが、俺の早とちりだったようだ。


「それで、少しでもお前のことを想った俺を助けたと?」


「ああ。そういうことになる」


「はあ…… お前って奴は」


 ただただ呆れるばかりだ。そんな浅薄な理由だけで俺を助けたというのか。俺にはそんな価値はないというのに。


「言っておくが、私にとってお前のしてくれたことはとても大きかった。私にとっては、意識が目覚めて以来一番大きなことだったんだ」


「だからってな……」


「だからお前は生きてくれ。私がこうしたいと思ってやったことだ。お前には生きていて欲しい」


「しかし……」


 こういう時はどうすればいいんだ?


 素直にこいつの願いを聞き入れてやるべきなのか?


 だが、本当にそれでいいのか?


「俺は……」


「待て。また通信だ」


 ティーガーⅡはまたも虚空に向かって話し始める。そうだ、通信という簡単なことを忘れていた。それで仲間が呼べる、かもしれない。


「本当か? ……感謝する」


「お、おい、何だって?」


 まさか助けでも来たのか? この近くに味方がいるなんて考えにくいが。


「さっき爆撃を教えてくれた奴だ。彼女は私達を見ていて、助けに来てくれると言っている」


「本当か! よかったじゃないか!」


 俺は自分のことのように喜んでいた。兎に角、これで最悪の事態は回避できたのだ。


「取り敢えず、一回地上に出よう」


「お、おう。そうだな」


 確かに、ここに籠って助けを待つだけというのは流石にないな。地上に出て誘導なり何なりをすべきだろう。


「じゃあハッチを開けるぞ」


「ん? ちょっと待て。お前も出るのか?」


 まあこの少女の体のインターフェースと本体の方はある程度独立して動けるようだが。


「ああ。出るぞ。但し、私は泳げない。そして酸素が要らないから、海底を歩いていく」


「お、おう」


 それはまたなかなかシュールな絵になりそうだ。


 そしてハッチが開いた。案の定水が入り込んできた。荷物はどうせ持っていってもずぶ濡れになるだろうから中に置きっぱなしにする。そして俺は海中に飛び出した。


 ここで死んだらシャレにならない。後ろから出てくるであろうティーガーⅡを気にすることはできず、俺は全力で水面を目指して泳いだ。


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