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さて、閣議が開かれる。
宮殿の大会議室は、真ん中に細長い机があり、その短い辺の前に私が座り、左右の長い辺に大臣等が座る。
「まず、本日の議題について、既にお伝えした通りで御座いますが、一通り説明させて頂きます」
司会はゲッベルスだ。彼が司会をやってくれれば、会議が荒れても大抵のことはすぐに収まる。
「と言うことで御座います」
ゲッベルスも言った通り、既に大臣や将校らには今回の問題は伝わっている。
故に、特に問題はなく会議は進む。
「一体、それ程にアイギスが求めるものとは何なのですか?」
軍事には余り明るくない大蔵大臣は、素朴な疑問を口にした。
「それについては、参謀本部が予想を立てております」
グデーリアン参謀総長は迷いなく応えた。
「お聞かせ願いますか?」
「少々長くなりますが、宜しいですか?」
参謀総長はゲッベルスに許可を求める。さっきは許可など求めなかった辺りから分かるように、閣議における発言の許可とは実に曖昧なものだ。
ゲッベルスは快諾し、グデーリアン参謀総長はそのまま説明を始めた。
「まずもって、我々は、現下のアイギスの攻勢が著しく生ぬるく、故にこの帝都で未だに閣議を開催出来ている、と言う事実を認めねばなりません」
度々指摘されてきたことだ。緒戦の敗退以後でも、ヨーロッパ方面の前線は未だに後退していない。
ゲルマニアなどは前線の目と鼻の先であるから、相当な現実味をもって遷都が計画されていたのだが、その計画は未だに実行に移されてはいない。
「その原因は、アイギスが統制を欠き、ばらばらに攻勢を行っているからです」
「そんなことが、本当に?」
「はい。衛星からの偵察では、これまでの戦争の場合と比べ、内地の予備が著しく多いことが明らかになっています」
アイギスは無論賢い。
これまでの戦争では、嫌になるくらい優れた采配を見せつけられてきた。
前線で実際に戦っている兵力と、後方で万一に備える予備兵力との比率は、正に理想的なものであった。
ところが今次の戦争では、後方に備える兵力が異常に多いと言う。
つまるところ、アイギス同士の連携が上手くいってないと言うことだ。
「つまり、アイギスがこのように烏合の衆となっている原因が、或いは今回の一件と関係があるのではないかと睨んでいる訳であります」
大攻勢を大失敗させた癖に、グデーリアン参謀総長は自信満々に説明を終えた。
過去の過ちに引きずられないのは確かによいことではあるが、少しは反省の色を示して欲しいものだ。
「つまりは、アイギスに命令を下すべく、謂わば、パスワードのようなものが、ティーガーⅡかパンターに埋め込まれていると?」
デーニッツ軍令部長は尋ねた。流石は老将軍、理解が早い。
「その具体的なものについては推察しかねますが、何であれ、アイギスを制御するのに必要なものが」
「しかし、今回の一件がそれと関係していると、一概に言い切ることも出来ないのでは?」
「確かに。しかし、アイギスがこうまでして欲するものとなれば、これしか思い浮かびません」
「まあ、私にも他の可能性は思い浮かびませんから、探偵ごっこはここらが限界でしょう」
その通りだ。
この話は全て、証拠のない推理に過ぎない。証拠がなければ、いかに名探偵の言葉とて、誰も逮捕は出来ない。
しかし明らかなことが一つある。
「それが何であろうと、それがアイギスを利すること大なることは明らかだ。それでいいではないか」
「はっ。左様に御座います、皇帝陛下」
「私もそのように」
「うむ」
アイギスが欲しがっているものは、アイギスを利するもの。それたけは分かる。
「なれば、余は、それを渡すべきではないと考えるが、緒将、大臣はどう思うか?」
少しは反論も出来ることを期待したが、そんなものはなく、満場一致でアイギスの求めに応じるべきではないと決定された。
グデーリアン参謀総長もデーニッツ軍令部長も、その点においては意見を同じくした。
「我ら人類は、我らの力のみに恃んでこの地球を必ずや奪還する。その神聖な大義は変わらぬ」
「御意。既にAÄ彈(對アイギス彈)の量産化は、すぐ目の前にあります。反撃の機会はすぐに訪れましょう」
グデーリアン参謀総長は言った。
AÄ彈は現在、月に十万発程度しか生産出来ていない。とても前線に行き渡らせるには足りない数だ。
だが、この計画がなれば、ついに人類はアイギスと対等に戦えるようになる。
それが叶えば人類が負ける筈などはないのだ。
まあ、今度も計画責任者がグデーリアンなのは少々不安ではあるか。
「今度こそは、頼んだぞ」
「はっ。必ずや、完成させてみせます」
グデーリアン参謀総長は力強く言った。
さて、閣議の結論は、渡すべきにあらず、である。
これはすぐに氷室中佐に下達されるだろう。




