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1-7-11

「はっ」


 薄い布団を捲り上げて、パンターは起き上がった。


「何だ?」


 日々周囲を警戒しながら生きていたせいだろうか、そんな大したことのない物音と声でも、俺は起こされた。


「通信だ」


「通信?」


「クラッススから」


「クラッススだと?」


 奴は確かにティーガーⅡが殺した筈だ。確かに奴が吹き飛ぶのを確認した。


 それが、パンターに通信をかけてきただと?


「何て言っているんだ?」


「まだ応答を要請されたとこだから、何も言ってはないけど」


「出るのか?」


「まあ、一応ね。出てところで減るもんはないし」


 と言うと、パンターの視線が虚空を向いて静止した。


 これは通信をしているのだろうが、当然、俺には何をしているのかさっぱり分からん。


 ただただ静寂だけが流れる。あまりにも虚無な時間である。


「ああ、パンター?」


「ん? 何?」


 声をかけるとパンターの意識はすぐに現実に戻ってきた。


 そして、出来るかは分からない要請をしてみた。


「その、クラッススの声を外部に出力することは可能か?」


「あー、出来るよ」


 どうも俺がどうしようもなく暇していたことには気付かなかったらしい。


 そして今の問いで、おおよそのことを理解してくれたようだ。


「ちょっと待ってね」


 パンターは少し離れたところの床板に触れた。


 すると板が一部くり貫かれたようになって、小さな鉄の箱状のものが現れた。


「何だそれ?」


「見れば分かるよ」


 パンターはそれを俺との間に置いた。


 するとその箱から、聞いたことのかある、やけに偉そうな声が聞こえてきた。まあ音質は大分悪いのだが。


「これで、聞こえているのかね?」


「ああ。聞こえてる」


「おお、久しぶりではないか、君。ティーガーⅡは?」


「そこで寝てるが」


 と言って振り返って見ると、ティーガーⅡはむくっと起き上がってきていた。流石に起きたか。


「寝てなどいない」


「さっきまで寝てたじゃないか」


「べ、別に、私は必要なかっただろ? 多分」


「まあ、それはそうだが」


 と言い終えて気付く。必要ないなどと言ってはティーガーⅡが落ち込むのではないかと。


「うう、そ、そうか」


 ティーガーⅡの声が暗くなった。案の定、気を落としてしまった。


 しかし、これで実は必要だったなどと言っては、それもそれでティーガーⅡを責めることになってしまうし、つまるところこれ以上はどうしようもない。


「久しぶりだな。元気にしていたか?」


「お前、死んでなかったのか?」


「いかにも。私に限らずだが、我々は意識を何回でも違う器に移すことが出来る。そのくらいは、知っているだろう?」


「そうなのか?」


 もしそれが本当だったら、ミュトスの意識は実質的不死と言うことになるが。


「大半の者にとっては、その通りだ。だが私達のような裏切り者にその機能はない」


「なるほど」 


 言われてみればその通りだ。


 クラッススの能力にはアイギスのインターネット的なものが必要だろうが、それがティーガーⅡやパンターでも使えるようになっているとは思えない。


 つまるところ、彼女らは死んだら死ぬと言うことだ。復活はない。


「話を戻そう」


 クラッススは言った。


「二度目だが、私は諸君らに降伏を勧告しに通信を試みた」


「またか?」


「そうだ」


 まったく、懲りない奴だ。


 装備が貧弱そのものの眞柄二等兵らといたときですら降伏しなかったのに、帝國最強(多分)の部隊と新たなミュトスが共にあるこの状況下で降伏する訳がない。


「俺達が降伏するとでも思ったか?」


「ふむ。君の一存でそれが決められるとは思えんが、恐らくは諸君らの指導者も、そのように答えるだろうな」


 俺達のことを知っている。監視されていたとでも言うのか……


 いや、そこで動揺を見せてはならない。あくまで平然と言葉を紡ごう。


「ああ。その通りだ。だから、無駄だ」


「では、諸君らが降伏すれば、我々全体が停戦に応じるとしたら?」


「何? それは、全世界においての停戦か?」


「その通り。全面的な停戦に応じよう」


 本当だとしたら破格の条件ではあるが、そう簡単に信用は出来ん。


「お前にそんな権限はあるのか?」


「私にはない。私の主が言っているのだ」


「主?」


「我々の宰相だ」


「そうか……」


 まあ、それは信じるとしよう。


 しかし、そうまでして、人類を滅ぼす好機を逃してまで俺達を捕らえようとする理由が全く不明だ。


「何故、俺達にこだわる?」


「それは言えんな。我々の秘密だ」


「まどろっこしい奴だ」


 しかし、よくよく考えれば理由などどうでもいい。


 理由は何であれ、アイギスが人類との停戦に応じると言っているのだ。


 これを俺の一存でどうこうしていいものではあるまい。


「他に条件は?」


「いや。他にはない」


「まずはうちの軍人に聞いてくる。返答は待て」


「無論だ。よい返答を期待している」


 しかし、本当に降伏することになってしまってら、どう振る舞うべきだろうか。


 人類の為を思えば、ティーガーⅡとパンターを差し出すべきだろう。


 だが、そんなことが俺に出来るだろうか。

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