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「さて、パンター、味方になってくれると言うのなら、まず俺達の目的を説明しなきゃならねえ」
「確かに、そうだね」
「と言う訳で、吉川大尉、お前に説明を任せる」
「はっ。了解しました」
格好つけておいて結局説明が面倒臭いだけの氷室中佐と、それに不快感を一切示さない吉川大尉。これは一種の共犯関係なのではあるまいかと思う。
吉川大尉は、パンターにアインザッツグルッペンの任務、即ち例の戦車の撃破を伝えた。
するとパンターは突然ぽんと手を叩いた。
「どうしましたかな?」
「それ、多分知ってる」
「何だと!?」
悠々と腰掛けていた氷室中佐は鬼の形相でパンターに迫る。
パンターは反射的に数歩程後退したが、見かねた吉川大尉が氷室中佐を押し止めた。
そして大尉は穏やかな口調で問う。
「知っている、とは、具体的に教えて頂けますかな?」
「う、うん。箱みたいなダサい見た目で無駄にデカい戦車でしょ?」
「そうですな」
「Ⅷ號戰車マウス。あいつしか考えられない」
パンターの声はこれまでになく暗かった。まるで恨みでもあるかのようだ。
しかし吉川大尉は、十中八九それに気付いているだろうが、質問を続けた。
「マウス、ですか。それについての情報は、他にありますかな?」
「情報、って程のものは特にないね。資源の無駄だってのは聞いたけど」
「ありがとうございます」
取り敢えず聴取はこれ以上やっても意味がなさそうであった。
吉川大尉はその後マウスとやらについて色々と調べたようだが、特に有用な情報は得られなかった。
そんな大昔の戦車の情報なんぞどこにも残ってはいないのである。
まあ、博物館なんかにはあるのかもしれないが、生憎そこはアイギスの支配下に落ちてしまっている。
「ライ、服が乾いたぞ」
やっとティーガーⅡが出てきた。ちゃんと服を着ている。
そう言えば、マウスについて、パンターが知っているのならティーガーⅡも知っているのではなかろうか。
「なあ、ティーガーⅡ、マウスって言われて、ピンとくるか?」
「マウス? ネズミが何なのだ?」
これは全く知らない様子。
とは言え単に記憶の奥底にあるだけかもしれないと、パンターの言っていたことをそのまま反復してみた。
しかしティーガーⅡの顔が晴れることはなかった。
「そんなものは聞いたことがないな」
「へえ、私の妹は私より先に死んだんだー」
と、パンターが要らぬちょっかいをかけてきた。
しかし、まあそう言うことになるだろう。
ティーガーⅡの方が新型とは言え、その全てがパンターより後に製造された訳ではない。終戦まで同時並行で生産されていた筈だ。
このパンターは割と末期に造られて、このティーガーⅡは中盤くらいに造られたのだろう。
とは言え、末期まで生き残れなかったと言う事実は認めざるを得ない。
「な、何を言う」
「いやー、私は結構長く生き残って、春の目覚めまでは生きてたんだけどさ」
「春の目覚め?」
何かの暗号とかだろうか。
「ああ、春の目覚めって言うのは、ドイツ軍最後の大規模攻勢のことだよ」
「なるほど」
と、納得している場合ではない。
ティーガーⅡが現在進行形でおちょくられているのだ。
「因みに、妹はいつ死んだの?」
「わ、私は、その……」
そう言えば俺もティーガーⅡの前世の最期については知らない。故に気になりはする。
しかしティーガーⅡは本当に言いたくなさそうであった。
「まあまあ、この話はまた今度な」
「ま、いいよ。じゃあね」
パンターは、機関砲の義足で瀝青をかつかつと鳴らしながら去っていった。
ああそうだ、聞きたいことがもう一つ。
今度はパンターが十分に離れたのを確認してから問う。
「パンターの脚は、機関砲って言う、まあ有能な機能を持ってるよな?」
「そうだな。それが何だ?」
「だったらティーガーⅡの右目にも何かないのか?」
例えば目からビームが出るとか、そう言う機能はないのだろうか。
「特にはない。これはただの穴だ」
「そうなのか」
「奴の頭がおかしいだけだ。あんなことをする奴は見たことがない」
「と言うと?」
「作るなら普通に機能的な義足にすればいいものを、あんな機関砲にするのは、戦闘狂そのものだ」
ティーガーⅡはパンターが心底気に食わないようである。
しかし、まあ確かに、義足まで武器にし出すような狂人は人間にはいない。そもそもあんな義足で人間がマトモに歩けるとは思えんし。
「しかし、義足を作れるんだったら、何で普通に足を作らないんだ?」
パンターは例外であるとしても、良識を持ったミュトスなら、普通に足を作ってしまえばいいと思うのだが、作るのはあくまで義足らしい。
それは何故かと。
「それは、不可能だ。私達はそのように規定されている」
「誰に?」
「さあな。私は知らん」
「そう言うもんか」
結局、ミュトスについてちょっとした知識を得ただけであった。




