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1-7-9

「さて、パンター、味方になってくれると言うのなら、まず俺達の目的を説明しなきゃならねえ」


「確かに、そうだね」


「と言う訳で、吉川大尉、お前に説明を任せる」


「はっ。了解しました」


 格好つけておいて結局説明が面倒臭いだけの氷室中佐と、それに不快感を一切示さない吉川大尉。これは一種の共犯関係なのではあるまいかと思う。


 吉川大尉は、パンターにアインザッツグルッペンの任務、即ち例の戦車の撃破を伝えた。


 するとパンターは突然ぽんと手を叩いた。


「どうしましたかな?」


「それ、多分知ってる」


「何だと!?」


 悠々と腰掛けていた氷室中佐は鬼の形相でパンターに迫る。


 パンターは反射的に数歩程後退したが、見かねた吉川大尉が氷室中佐を押し止めた。


 そして大尉は穏やかな口調で問う。


「知っている、とは、具体的に教えて頂けますかな?」


「う、うん。箱みたいなダサい見た目で無駄にデカい戦車でしょ?」


「そうですな」


「Ⅷ號戰車マウス。あいつしか考えられない」


 パンターの声はこれまでになく暗かった。まるで恨みでもあるかのようだ。


 しかし吉川大尉は、十中八九それに気付いているだろうが、質問を続けた。


「マウス、ですか。それについての情報は、他にありますかな?」


「情報、って程のものは特にないね。資源の無駄だってのは聞いたけど」


「ありがとうございます」


 取り敢えず聴取はこれ以上やっても意味がなさそうであった。


 吉川大尉はその後マウスとやらについて色々と調べたようだが、特に有用な情報は得られなかった。


 そんな大昔の戦車の情報なんぞどこにも残ってはいないのである。


 まあ、博物館なんかにはあるのかもしれないが、生憎そこはアイギスの支配下に落ちてしまっている。


「ライ、服が乾いたぞ」


 やっとティーガーⅡが出てきた。ちゃんと服を着ている。


 そう言えば、マウスについて、パンターが知っているのならティーガーⅡも知っているのではなかろうか。


「なあ、ティーガーⅡ、マウスって言われて、ピンとくるか?」


「マウス? ネズミが何なのだ?」


 これは全く知らない様子。


 とは言え単に記憶の奥底にあるだけかもしれないと、パンターの言っていたことをそのまま反復してみた。


 しかしティーガーⅡの顔が晴れることはなかった。


「そんなものは聞いたことがないな」


「へえ、私の妹は私より先に死んだんだー」


 と、パンターが要らぬちょっかいをかけてきた。


 しかし、まあそう言うことになるだろう。


 ティーガーⅡの方が新型とは言え、その全てがパンターより後に製造された訳ではない。終戦まで同時並行で生産されていた筈だ。


 このパンターは割と末期に造られて、このティーガーⅡは中盤くらいに造られたのだろう。


 とは言え、末期まで生き残れなかったと言う事実は認めざるを得ない。


「な、何を言う」


「いやー、私は結構長く生き残って、春の目覚めまでは生きてたんだけどさ」


「春の目覚め?」


 何かの暗号とかだろうか。


「ああ、春の目覚めって言うのは、ドイツ軍最後の大規模攻勢のことだよ」


「なるほど」


 と、納得している場合ではない。


 ティーガーⅡが現在進行形でおちょくられているのだ。


「因みに、妹はいつ死んだの?」


「わ、私は、その……」


 そう言えば俺もティーガーⅡの前世の最期については知らない。故に気になりはする。


 しかしティーガーⅡは本当に言いたくなさそうであった。


「まあまあ、この話はまた今度な」


「ま、いいよ。じゃあね」


 パンターは、機関砲の義足で瀝青をかつかつと鳴らしながら去っていった。


 ああそうだ、聞きたいことがもう一つ。


 今度はパンターが十分に離れたのを確認してから問う。


「パンターの脚は、機関砲って言う、まあ有能な機能を持ってるよな?」


「そうだな。それが何だ?」


「だったらティーガーⅡの右目にも何かないのか?」


 例えば目からビームが出るとか、そう言う機能はないのだろうか。


「特にはない。これはただの穴だ」


「そうなのか」


「奴の頭がおかしいだけだ。あんなことをする奴は見たことがない」


「と言うと?」


「作るなら普通に機能的な義足にすればいいものを、あんな機関砲にするのは、戦闘狂そのものだ」


 ティーガーⅡはパンターが心底気に食わないようである。


 しかし、まあ確かに、義足まで武器にし出すような狂人は人間にはいない。そもそもあんな義足で人間がマトモに歩けるとは思えんし。


「しかし、義足を作れるんだったら、何で普通に足を作らないんだ?」


 パンターは例外であるとしても、良識を持ったミュトスなら、普通に足を作ってしまえばいいと思うのだが、作るのはあくまで義足らしい。


 それは何故かと。


「それは、不可能だ。私達はそのように規定されている」


「誰に?」


「さあな。私は知らん」


「そう言うもんか」


 結局、ミュトスについてちょっとした知識を得ただけであった。

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