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1-7-8

 さて、パンターの酔いが覚めるのを待ってから、アインザッツグルッペンがどこからか調達してきたクレーン車でパンターを引っ張り上げる。


 パンターの方が重かったからクレーン車をティーガーⅡが引っ張る感じとなったが、無事、パンターは地上に復帰した。


「おい、お前、降りてこい」


 氷室中佐は言った。


「うん。分かった」


 少女のパンターは地上に降り立った。


 その機関砲になっている片脚は、歩くのには全く支障がないらしい。平然と歩いている。


「で、これでも負けてないと言い張るか?」


「ううん。負けを認めるよ」


「そうか。それはよかった。じゃあ俺達に協力してくれるか」


「そうするよ。約束は守る主義だからね」


 あっさりと、負けを認めた。


 パンターが約束を反故にするような奴でないことには安心した。しかし気になることがある。


「氷室中佐、あんたはどうして、そんなにパンターに優しいんだ?」


 ティーガーⅡは出会った瞬間殺そうとしてきた癖に。


「そりゃ、まあ、こいつが気に入ったからだ」


「気に入った? どこが」


「面白え奴だからな。それだけだ」


 と言って氷室中佐は高笑い。


 果たしてアインザッツグルッペンがこんな個人的な感情で動いていいのかは疑問だが、まあ仲良くやってくれるなら、余計なことを言うこともないだろう。


 まあ、ティーガーⅡは面白くない奴なのかと文句はつけたいが。


「中佐殿、それでは隊員に示しがつきませんぞ」


 実に真っ当な意見を口にする者が一人。吉川大尉である。


「いいじゃねえか、別に」


「我が隊には、それこそ小早川一等兵のように、アイギスへ強い憎しみを持っている者が多くあります。そう言う者は、中佐殿の話を受け入れはせんですよ」


「す、すまん」


 いつも俺に言ってくることを言われる程度には、氷室中佐は正気を失っていたらしい。パンターの何がそこまで彼を惹き付けるんだか。


「じゃあ、どうすりゃいいんだ?」


「ティーガーⅡさんと同じく扱えばいいでしょう」


「そ、そうだな。お前が人類を利するものなのか、見極めさせてもらうこととする」


 氷室中佐は改まってパンターに告げたが、パンターはポカンとしていた。


 何故かその建前ならばアイギスと行動を共にするのも許されると言う謎の慣習を補足しておいた。


「ところで……」


 吉川大尉はパンターに近付いて、その目をまじまじと観察し始めた。傍目から見たらただの変質者である。


「え、あ、あの」


 流石のパンターもこれにはドン引きしていた。


 吉川大尉に必要なのは数秒だけであった。すぐに心得たとばかりに元の位置に戻る。


「分かりやすい目をしておりますな。それこそ兵器と言った感じです」


「もっと分かりやすい言葉で解説してくれねえか?」


「表も裏もないと言いますか、自分の心の赴くままに進む、そんな精神が表れております」


「なるほど」


 吉川大尉のお墨付きとあれは、パンターが嘘をついていると言うことはないだろう。


「え、な、何?」


「ああ、これはだな……」


 困惑しているパンターに、この老人の趣味を教えた。


「へえ。ここは変な人しかいないの?」


「そうだな。間違いない」


 俺みたいな常識人が見当たらないのは事実だ。


「なあ、ティーガー……」


 そう言えば、ティーガーⅡがいない。いや、正確にはそこにいるが、戦車の中から少女が出てきていない。


 これで会話も可能だが、やはり話す時は人間の体とがいい。


「ティーガーⅡ、出てこないのか?」


「出てきてもいいが……」


 声がするとハッチが開いて、ティーガーⅡが出てくる。


「おま、何て格好してんだ」


「だから遠慮してやっているのだ」


 肩まで体が出てきたが、その体は服を着ていなかった。


「何で裸なんだ?」


「覚えていないのか? そいつに撃たれた時に服が濡れた」


「ああ、そうだったな」


 それは出てこない方がよさそうだ。そしてそれをティーガーⅡは理解してくれている。喜ばしいことである。


「ああ、ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだけど」


「貴様……」


 ティーガーⅡは主砲をパンターの本体に向けた。


「おいおいおい、止めろって」


「そいつが反省する気がないのが悪いのだ」


「へえ、もう一回やる?」


 パンターとティーガーⅡは睨み合う。どうしてどいつもこいつも戦闘狂ばかりなんだ。


「あ、人体実験の機会が増えるので、是非ともお願いします」


「あ?」


 小早川一等兵が何食わぬ顔で会話に参加してくる。


「あ、もしかして、私に毒注射した人?」


 パンターの関心は完全に小早川一等兵のみに向けられた。


「ああ、はい。そうっすよ」


「へえ。あれって何なの?」


 パンターが問うと小早川一等兵は何ら躊躇することなく答えた。


「なるほど。お酒か。まだ持ってるの?」


「はい。ありますよ」


「私、それ欲しいな。くれたら、もっと積極的に協力してあげるよ?」


「まあ、いいっすけど」


「ダメだダメだ」


 止めに入る。それはアルコール依存症と言うものである。ロクなことにならんぞ。


「えー、何で?」


「いいから止めとけ。小早川も余計なことをするな」


「あああ、折角面白くなりそうだったのに。まあいいっすけど」


 小早川一等兵はとぼとぼと歩き去った。

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