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1-7-7

「さあ、どうするの?」


 パンターは周りを見渡しながら言った。自分が高みに立っているかのように振る舞う。


 とは言え、何も出来ないのは向こうも同じ。正面は落とし穴で後ろはティーガーⅡが塞いでいる。


 さて、何を以て勝利と為すか、それを考えよう。


 今回の場合、パンターを破壊することは勝利の条件とは言えない。では無力化か。


「あいつを上手い具合に撃って無力化する、とかは出来ないか?」


 ティーガーⅡに問う。


「不可能ではないだろうが、この距離では木っ端微塵にしてしまう可能性の方が遥かに高い」


「それは止めた方がいいな」


「私もそう思うぞ」


 では残された条件と言えば捕獲だが、それは今封じられたばかり。


 結局、どうしようもない。


「おい、東條、聞こえるか?」


 氷室中佐からの律儀な通信。問題なしと伝えると、中佐はやけに早口で言う。


「今から奴に一発見舞ってやるから、見てろよ」


「何をするんだ?」


「そりゃ、見てのお楽しみだ」


「はあ」


 潜望鏡のような装置で外を覗く。戦車のパンターと少女のパンターが見える。


「ん?何だ?」


 静まり返った戦場に、ヒューと風を切る音がした。


 その音の正体はすぐに判った。


「え、な、何?」


 パンターの左腕にそこそこの長さの矢が刺さった。人間だったら痛みでのたうち回りそうなもんだが、彼女には全く堪えないらしい。


 パンターは平然と矢を抜いて投げ捨てた。


 そしてそれが飛んできたと思しき方向に向かって叫ぶ。


「こんなのが私に効くと思った?私は機械なんだ、し……?」


 パンターの様子が急におかしくなる。立ちくらみでもしたかのように項垂れて、大声も出せないようだ。


「あれは……」


 ティーガーⅡの声音は至って真剣なものだ。


 まあ確かに、アイギスに効く毒なるものが存在するのであれば、それはティーガーⅡにとっても大問題となる。


「あ、頭が……」


 少女の体がふらふらし出すと、それに釣られて戦車もずるずる動き始めた。


「下がった方がいいんじゃないか?」


「ああ、そうだな」


 ちょっと下がってパンターを観察する。


 先程の毒矢の正体が分かった気がした。


「ティーガーⅡ、お前、あれに見覚えがないか?」


「な、ない!」


「お、おう」


 この全力の拒絶はつまるところ見覚えがあると言うことだ。


 つまり、あれはティーガーⅡが酒を飲んだ時とよく似ているのである。


 となると、あの矢にはアルコールが塗られてでもいたのだろうか。それで酔うものなのかは分からんが。


 まあ氷室中佐に聞いてみるとしよう。


「氷室中佐、一体何をぶちこんだんだ?」


「ああ、あれか? 俺は知らねえ」


「はい?」


 それは司令官として失格なのでは。


「あいつ、小早川一等兵に任せたからな」


「はあ」


 そう言えば小早川一等兵にはティーガーⅡで人体実験をされた。それがこの為の実験だったとすれば、色々と辻褄が合う。


「あいつに聞くか?」


「ああ。気になる」


 それで氷室中佐が小早川一等兵から得た情報を伝えてくれるのかと思ったが、よく分からなかったらしく、小早川一等兵が何食わぬ感じで通信に出てきた。


「あれは、エチルアルコールとアセトアルデヒドを中に入れた毒矢っすよ」


「ああ、もっと分かりやすく解説してくれるか」


 名前くらいはどちらも聞いたことがある。が、それらがどう言う物質かと言うことまでは分からん。


 しかもティーガーⅡも、人間の物質名は知らないらしい。


「まあ、簡単に言うと、どっちも人間が酔う原因っすね。ティーガーⅡさんに飲ませたら効くっぽかったんで、血管に直接送り込むことにしました」


「それ大丈夫なのか?」 


 酒を注射するなど正気の沙汰とは思えんが。


「ま、大丈夫なんじゃないっすか。機械ですし」


「そう言うもんか?」


「まあ、多分」


 小早川一等兵の雑さには驚いたが、どうも彼の考えは慧眼らしい。ティーガーⅡも同意見だそうだ。


 つまるところ、実に癪だが、小早川一等兵の有能なのを認めざるを得ないのだ。


「ところであいつは……」


 会話に集中して全く気にしてなかったパンターの様子を見てみる。


 すると天辺にいた少女の姿はなく、戰車がゆっくりと前進していた。俺達から遠ざかる方向である。


 つまるところ落とし穴が開いている方向である。


「大丈夫なのか? あれ」


「まあ、捕獲するのならあのまま放置すればいいだろう」


「確かに」


 そうして少し待つと、パンターの履帯が地面から徐々に離れていき、そしてついには車体が垂直に立ち、穴の中にずり落ちていった。


 もう危険はないだろうと、ティーガーⅡを降りて穴を見下ろしてみる。


「酷いよー。出してよー」


 駄々っ子のようなパンターは、まあ元気そうであった。


 ここまですれば、こちらの勝ちであることに、もう誰も文句はつけられまい。

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