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1-7-5

「嘘だ! そんなの!」


 パンターは顔を真っ赤にする。嫌な予感がする。


「みんな死んじゃえ!」


 パンターは左足を持ち上げ、その義足をこっちに向けた。


「ライ、避けろ!」


 ティーガーⅡが叫ぶ。


 その瞬間、銃声と共に、すぐ目の前の瀝青が吹き飛んだ。


 あれはただの義足ではなく機関砲だ。それも、あの大口径、当たったらただでは済まない。それを容赦なく叩き込んでくる。


「勿論だ!」


 状況を認識すると共に、俺はもといた建物の陰に飛び込んでいる。


 足から順に全身の様子を確認する。幸いにして傷は確認出来ない。


 ティーガーⅡを見る。


「なっ、お前! 大丈夫!」


 彼女は腹を撃ち抜かれていた。遠目でも分かる程の大穴が開いている。


 そしてそこから液体が流れ出て、地面を濡らしていた。こんな状態になっているのは初めて見る。故に焦る。


「安心しろ。これは、貯蔵しておいた水が出てきただけだ。人間で言えば、胃を撃ち抜かれたとか、そう言う状況だろう」


「いや、それは全然大丈夫じゃないんだが?」


「水は私の生存には必要ない。あくまで擬態の為のものだ」


「そ、そうか」


 確かに、人間に擬態するには水が不可欠だ。汗や涙を流すには水が不可欠。


 であれば、風穴もすぐに塞がったし、機能上の問題は殆どないと考えられる。安心だ。


 いや、そんなことを言っている場合ではない。


「パンターは?」


「逃げた。正面からやり合うのは不利と判断したらしい」


「なるほど。戦いになったら頭が冷めるタイプか」


 確かに、同じ条件で攻撃し合えばティーガーⅡに分があると言うのは、見た目からして想像に難くない。


 とは言え、ティーガーⅡの口ぶりから察するに、側面などから襲い掛かられればティーガーⅡももたないのだろう。


「氷室中佐はどこ行った?」


「さあ。消えたな」


 氷室中佐も吉川大尉も消えてしまった。死んだ訳でもないし、雲隠れが上手過ぎる。


「で、これからどうする?」


「基本的には、後ろを取られないように周囲を警戒しながら奴を射線に収めることだろう」


「だな。異論なし」


 最初の一撃を入れた方が勝つ。必然的に、極めて消極的な戦いとなるだろう。


「奴の場所は分からんのか?」


 アインザッツグルッペンをここに導いたのはティーガーⅡだ。それはパンターの位置を知り得たからである。ならば、ここでもパンターの位置を探ればいいのだはないかと。


「いや、分からん。向こうは完全に無線封鎖をしている。それに、こちらから探そうとすれば、逆探知されて死ぬ」


「他に、奴を探す手がかりは?」


「ないな。駆動音はかつてガソリンを使っていたころと比べれば遥かに小さいし、ここは舗装が強靭過ぎて跡が分からん」


「手探りしかないってことか」


 決してそう遠くに逃げれはしない。が、交差点の一つ一つを虱潰しに探さねばならないとなると、骨が折れるのは目に見えている。


「まあ、ここでぼうっとしていても仕方がない。歩くか」


「あ、ああ。そうだな」


 ここで戦車に乗るのは愚作だ。人間が先行して道の安全を確保してから戦車を進めるのが定石だろう。


「こっちはいない」


「こちらもだ」


 道路を横切る度に、左右を確認してから、全速力で突破する。その間にパンターが出てきたらやられるからだ。


 神経が磨り減っていく。


 どこかに敵がいるかもしれないと言うのは、思っていたより辛いものだ。やはり人は情報を得たがるものだ。


「いないか」


「いないな。まったく、逃げ足の速いことだ」


 ティーガーⅡはうんざりしている風で、特に恐れはないようであった。


「銃声か!?」


 銃声か響き渡る。恐らくはアインザッツグルッペンとパンターが接触したのだ。


 それも、鳴り止む気配はない。


「ああ。銃声だな」


「場所は分かるか?」


「分かる。行くか?」


「勿論だ」


 ティーガーⅡの導くままに突き進む。しかし、移動の間に銃声は途絶えてしまった。


 それかして場所に着いたが、潰れた弾丸が残っているだけであった。


「おい、東條、聞こえるか?」


 その時、通信機から氷室中佐の声が呼び掛けてきた。


「ああ。聞こえる」


「単刀直入に要件を言う。お前達、囮役をやってくれねえか?」


「囮?」


 やってくれと言われて快諾出来るものではない。死地に飛び込めと言われて素直に応じる奴もいないだろう。


「ああ。俺達は奴の動きを常に観察して、どこにいるかは把握している。が、さっきの銃声を聞けば分かっただろうが、奴に俺達の攻撃は効かねえ。そこで、罠を張った。そこに奴を誘き寄せて欲しい」


「随分と勝手な要請だな」


 つまりは俺達を排して自分達だけでやろうとしていたと言うことだ。それで上手くいかなかったから俺達を利用しようとする。


「まあ、悪かったとは思う。謝るから、協力してくれねえか」


 結構必死の願いである。


 ティーガーⅡに可否を問う。


「ふむ。囮と言うのは不愉快だ。狩りをするのなら、よいぞ」


「狩り? どういうことだ?」


「狩りは狩りだ。私がパンターを罠の場所にまで追い立てる。それならば、承諾してやろう」


「チッ。分かったよ。それでいい。今諸々の情報を送る」


 パンターの現在位置と市街地の地図、そして罠の場所が送られてきた。


「では、狩りといこうか」


 ティーガーⅡは楽しげである。流石は虎の名を冠する戦車だ。

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