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1-7-3

「じゃあ、行こうか」


「お前と一緒にか?」


「ああ。悪いか?」


「いや、まあ、そんなことはないが」


「なら決まりだな」


 ティーガーⅡの部隊には氷室中佐と吉川大尉が加わって、計4名。それだけティーガーⅡの実力は信用されているのだろう。


 まあ、吉川大尉が持ったÄF-79(七九年式對アイギス擲彈筒)が常にこっちを向いているのは、多分気のせいだろう。


 両名とも決して心を許してくれている訳ではないようだ。


「ライ、パンターから通信だ」


「何だと?」


「出てみてくれ」


「ああ、ちょっとお待ち下さいますかな?」


 吉川大尉はティーガーⅡを制止する。ティーガーⅡは訝しげな目を向ける。


「これに、通信の声を流すことは、可能ですかな?」


 と言って片手に収まるくらいの通信機をティーガーⅡに見せる。


 なるほど、俺達は未だかつて、パンターとやらの声を聞いたことがない。


 そして、ティーガーⅡが人間の通信機を使うことは可能だ。


「ああ。やってみよう」


 ティーガーⅡは通信機に手を触れた。


「…… あー、あー、聞こえてるー? おーい」


「なっ、んと……」


 一同唖然。


 通信機から流れてきたのは、ティーガーⅡなどとは似ても似つかぬ快活な女性の声。


「ふざけているのか?」


 と言う言葉しか出てこなかった。


「ん? 誰? まさか私の声だだ漏れ?」


 答えるべきか否か。まあ答えてやろうか。と考えたところ。


「ああ。その通りだ」


 ティーガーⅡは先んじて真実を告げた。


 声は、僅かな唸り声を漏らしながら、少し黙り込む。


 そして、何かを思い付いたらしく、感嘆を飛ばしてから言う。


「じゃあさ、おいかけっこは終わりで、勝負しようよ」


「勝負? 私とか?」


「いやいや、一緒にいるみんなも、どうぞご一緒に」


「随分と自信があるようだな」


 わざわざ自分に不利な状況を作るとは。


 声の主は一笑。


 しかし、何を聞くでもなくティーガーⅡに友軍がいることを知っているとなると、表裏のなさそうな雰囲気は信用しない方がよさそうだ。


「おい、何ダチみたいに喋ってやがる」


 氷室中佐はそれすら許せないらしい。まあ、流石にそういわれて引っ込む俺達ではないが。


「悪いか?」


「ああ。そいつは敵だ」


「味方になるかも知れないだろ? ティーガーⅡみたいに」


「そうかも知れねえが、敵か味方か分からねえうちは全部敵だ」


「まったく、若い癖に頭が固い奴だな……」


「何だと?」


 氷室中佐はぞっとするような低い声を出す。そして通信機を奪おうと手を延ばした。


 しかしその腕は吉川大尉に掴まれる。


「まあまあ中佐殿、何も彼らが利敵行為をしている訳ではあらんですよ」


 穏やかな口調だが、目は鋭い。氷室中佐もその気迫に気圧されたと見え、手を引いた。


 吉川大尉はうんうんと頷くと、堂々と通信機の向こうの相手と会話を始める。


「勝負、と申されましたが」


「うん」


「具体的には何をするおつもりで?」


「戦うんだよ、命をかけて。他に何かある?」


「確かに、その通りですな。これは失礼を致しました」


 まあ、だろうなと言った感じだ。殺し合いを挑まれているのである。


「でしたら、日時と場所は?」 


「日時は、出会ったらすぐ。まあでも、ちょっとはお話してみたいかも。場所は、これからティーガーⅡに送るね」


「ありがとうございます」


 位置情報はすぐに送られてきた。ここから数キロメートルと、すぐ近くであった。


「他に、質問はある?」


 随分と丁寧な奴だな。


「いえ、特にはございませんよ」


「りょーかい。じゃ」


 そこで声は、唐突に途切れる。通信が切れたのかと思ったが、そうではなかった。


「ああ、そうそう、最後に。Mee in oo peo okisido amika tuu o.Tuu ripeo ya?」


「な、何語だ?」


 氷室中佐は吉川大尉に尋ねる。が、彼も知らんと首を振る。それもその筈。これはアイギス語(みたいな奴)だ。


 まあ、俺にも意味は全く分からんが。


「Aa. Tuu sisuteru kia in gensu mee ripeo te」


 ティーガーⅡは平然とその言語で答えた。


「Likuesu.Esu,vare」


「Vare」


 非常に短かったが、終わった、らしい。


「何だって?」


「下らぬことだ。言うまでもない」


「そうか」


 下らないことでも教えてくれていいではないかと思うが。いや、そもそも教えたくないことなのだろうか。


 まあ敢えて尋ねはするまい。


「では、向かうぞ。決戦の地へ」


「おう」


 ティーガーⅡが柄にもなく格好つけたのは、少し面白かった。誰もやる気がなさげなのもまた、この集団らしいと思った。


 しかし、やる気がなさげなだけであって、やる気がない訳ではない。


 氷室中佐は部隊に連絡を飛ばしているし、吉川大尉は歩きながら武器の手入れをしている。器用なもんだ。


「この角を曲がれば、いる」


 動きが止まる。緊張に唾を飲む。それは歴戦の両名も同様のようだ。


 深呼吸をして、ティーガーⅡが履帯を回すのに合わせ、意を決して足を踏み出した。

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