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「じゃあ、行こうか」
「お前と一緒にか?」
「ああ。悪いか?」
「いや、まあ、そんなことはないが」
「なら決まりだな」
ティーガーⅡの部隊には氷室中佐と吉川大尉が加わって、計4名。それだけティーガーⅡの実力は信用されているのだろう。
まあ、吉川大尉が持ったÄF-79(七九年式對アイギス擲彈筒)が常にこっちを向いているのは、多分気のせいだろう。
両名とも決して心を許してくれている訳ではないようだ。
「ライ、パンターから通信だ」
「何だと?」
「出てみてくれ」
「ああ、ちょっとお待ち下さいますかな?」
吉川大尉はティーガーⅡを制止する。ティーガーⅡは訝しげな目を向ける。
「これに、通信の声を流すことは、可能ですかな?」
と言って片手に収まるくらいの通信機をティーガーⅡに見せる。
なるほど、俺達は未だかつて、パンターとやらの声を聞いたことがない。
そして、ティーガーⅡが人間の通信機を使うことは可能だ。
「ああ。やってみよう」
ティーガーⅡは通信機に手を触れた。
「…… あー、あー、聞こえてるー? おーい」
「なっ、んと……」
一同唖然。
通信機から流れてきたのは、ティーガーⅡなどとは似ても似つかぬ快活な女性の声。
「ふざけているのか?」
と言う言葉しか出てこなかった。
「ん? 誰? まさか私の声だだ漏れ?」
答えるべきか否か。まあ答えてやろうか。と考えたところ。
「ああ。その通りだ」
ティーガーⅡは先んじて真実を告げた。
声は、僅かな唸り声を漏らしながら、少し黙り込む。
そして、何かを思い付いたらしく、感嘆を飛ばしてから言う。
「じゃあさ、おいかけっこは終わりで、勝負しようよ」
「勝負? 私とか?」
「いやいや、一緒にいるみんなも、どうぞご一緒に」
「随分と自信があるようだな」
わざわざ自分に不利な状況を作るとは。
声の主は一笑。
しかし、何を聞くでもなくティーガーⅡに友軍がいることを知っているとなると、表裏のなさそうな雰囲気は信用しない方がよさそうだ。
「おい、何ダチみたいに喋ってやがる」
氷室中佐はそれすら許せないらしい。まあ、流石にそういわれて引っ込む俺達ではないが。
「悪いか?」
「ああ。そいつは敵だ」
「味方になるかも知れないだろ? ティーガーⅡみたいに」
「そうかも知れねえが、敵か味方か分からねえうちは全部敵だ」
「まったく、若い癖に頭が固い奴だな……」
「何だと?」
氷室中佐はぞっとするような低い声を出す。そして通信機を奪おうと手を延ばした。
しかしその腕は吉川大尉に掴まれる。
「まあまあ中佐殿、何も彼らが利敵行為をしている訳ではあらんですよ」
穏やかな口調だが、目は鋭い。氷室中佐もその気迫に気圧されたと見え、手を引いた。
吉川大尉はうんうんと頷くと、堂々と通信機の向こうの相手と会話を始める。
「勝負、と申されましたが」
「うん」
「具体的には何をするおつもりで?」
「戦うんだよ、命をかけて。他に何かある?」
「確かに、その通りですな。これは失礼を致しました」
まあ、だろうなと言った感じだ。殺し合いを挑まれているのである。
「でしたら、日時と場所は?」
「日時は、出会ったらすぐ。まあでも、ちょっとはお話してみたいかも。場所は、これからティーガーⅡに送るね」
「ありがとうございます」
位置情報はすぐに送られてきた。ここから数キロメートルと、すぐ近くであった。
「他に、質問はある?」
随分と丁寧な奴だな。
「いえ、特にはございませんよ」
「りょーかい。じゃ」
そこで声は、唐突に途切れる。通信が切れたのかと思ったが、そうではなかった。
「ああ、そうそう、最後に。Mee in oo peo okisido amika tuu o.Tuu ripeo ya?」
「な、何語だ?」
氷室中佐は吉川大尉に尋ねる。が、彼も知らんと首を振る。それもその筈。これはアイギス語(みたいな奴)だ。
まあ、俺にも意味は全く分からんが。
「Aa. Tuu sisuteru kia in gensu mee ripeo te」
ティーガーⅡは平然とその言語で答えた。
「Likuesu.Esu,vare」
「Vare」
非常に短かったが、終わった、らしい。
「何だって?」
「下らぬことだ。言うまでもない」
「そうか」
下らないことでも教えてくれていいではないかと思うが。いや、そもそも教えたくないことなのだろうか。
まあ敢えて尋ねはするまい。
「では、向かうぞ。決戦の地へ」
「おう」
ティーガーⅡが柄にもなく格好つけたのは、少し面白かった。誰もやる気がなさげなのもまた、この集団らしいと思った。
しかし、やる気がなさげなだけであって、やる気がない訳ではない。
氷室中佐は部隊に連絡を飛ばしているし、吉川大尉は歩きながら武器の手入れをしている。器用なもんだ。
「この角を曲がれば、いる」
動きが止まる。緊張に唾を飲む。それは歴戦の両名も同様のようだ。
深呼吸をして、ティーガーⅡが履帯を回すのに合わせ、意を決して足を踏み出した。




