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1-7-2

 さて、九州をジグザグに南下しながら百と数十キロメートル。


 ティーガーⅡは小早川一等兵の求めに応じて適当に通信を送っていた。


 しかし、そう上手くはいかないらしい。


「こちらの思惑が読まれた」


「何だって?」


 あまりにも自然に言うものだから言い間違えを疑ったが、確認してもその通りだと言う。かくれんぼを制しようとする試みは読まれたと。


 これは大変なことになったと、それとざまあみやがれと言う祝辞をかねて、小早川一等兵に繋ぐ。


「へえ、機械の化け物のくせに知恵が回るんすね」


「お前、馬鹿にしているのか?」


 漏れ出た声にティーガーⅡがつっかかる。その声もまた小早川一等兵に聞こえたようだ。


「馬鹿になんてしてませんよ。せっかく誉めてあげたんすよ」


「こいつ……」


 ティーガーⅡは通信機を叩き割ろうとしたが、それは止めた。流石に困る。


「で、どうするつもりだ?」


「ああ、もうデータは要らないっすよ。十分です」


「ほう?」


「敵は現下、第七街道を北上してます。こっちの動きはばれてるっすね。でも、どうも広い道を好むようなので、後の動きは予想出来ます」


 いまいち要点の纏まらない話だが、言いたいことは分かった。そしてこいつがここで働いている理由も。


「じゃ、後は適当にやって下さい」


 こっちは何も言ってないんだが、通信は切られた。


「ああ、聞こえるか?」


 今度は氷室中佐の声。毎回通信の状態を律儀に確認してくる。


「聞こえてる」


「小早川の話は聞いたな?」


「ああ。聞いた」


「それで、部隊を分けて捜索に向かわせることとした。資料は送ったから、それに沿って動いてくれ。頼んだ」


「了解だ」


 6両の装甲車、GPT-64(六四年式装甲兵員輸送車)は4と2に分けられ、2にティーガーⅡがつくこととなった。氷室中佐はこっちに来るらしい。


 彼等の進むのについていくと、やがて街道に出た。九州を縦断する大動脈の一本である。


 進むと都市が見えてきた。市街戦と言うと、嫌な記憶が甦る。


「ここで止まれ」


 都市と外部との境界で、部隊は止まった。


「何で止まるんだ?」


「ここから俺達は徒歩で行く。装甲車で戦うことはねえからな」


「つまり、ここにパンターがいるのか?」


「その公算は高えな」


 それだけ説明すると、氷室中佐は部隊に指示を飛ばす。すると機関銃やら狙撃銃やらを携えた面々は、都市の中に消えていった。


 なにやら装置を手元で弄っている氷室中佐と他数名と俺とティーガーⅡだけが取り残される形となった。


「あのー、いいっすか?」


 不意打ちに小早川一等兵。


「な、何だ?」


「これ、そいつに飲ませてもらえます?」


 と言って毒々しい色をした液体の入ったグラスを手渡してくる。


「は?」


 いっそ清々しいまでの態度に、激怒する気力すら、かっさらわれてしまった。


「なるほど。よいぞ」


「は?」


 ティーガーⅡも訳の分からんことを言う。どうなってるんだ、まったく。


「まいどあり」


 小早川一等兵は骸骨みたいな顔に不気味な笑顔を浮かべて、ティーガーⅡにそのグラスを渡した。


 そしてティーガーⅡはそれを一気に飲み干した。


「どうっすか?」


「これは、何と言うか、その……」


「ん?」


 様子がおかしいと思った途端、ティーガーⅡはよろけ、それを受け止める。


「何をした?」


「あ、安心しろ、ライ。ただの酒だ」


「それこそ安心出来ないんだが」


 酒と言ったら、また死にかけた記憶が甦る。前に酒に酔ったこいつに殺されかけたことがあった。


「へえ、酔いはするんすね」


「お前、ティーガーⅡを実験台にしたのか?」


「はい。色々と試してみたくて。いや、中には人間一瞬で死ぬ猛毒も入れたんすけどね、死ぬ様子はなくて、でもアルコールで酔いはする。久しぶりに研究意欲が湧いてきますよ」


「お前……」


 しかし、同様の疑問は俺も持っていた。


 毒で死なないと言うのは、機械なのだから当然である。しかし、ではどうしてアルコールには人間同様に反応するのだろうかと。


 故に、死にはしないと分かっているのもあって、責め立てる気にはならなかった。


「おい、ティーガーⅡ、大丈夫か?」


「あ、ああ。ちょっと、頭が痛いが」


「前よりはマシだな」


 人間の基準からすると、そこまで酔っているようには見えない。まあ何とかなるだろう。


 小早川一等兵は、その様子を見届けると、ボソボソと不気味に何かを呟きながら歩き去って行った。


 すると代わりに氷室中佐がおもむろにやって来る。


「さっき言った通り、ここにパンターがいる可能性は高い。お前達はそのまま、戦車に乗って捜索を行ってくれ」


「了解だ」


「構わんぞ」


 アインザッツグルッペンは隠れてこそこそやるのが(別に非難はしていない)得意であるし、ティーガーⅡは正面からぶつかるのが専門だ。


 適材適所と言うことで、それはそれでいいのであるが、探索と言うのはなかなか面倒だ。


 世界地図で見れば一都市など点に過ぎないが、人間から見ると広大で入り組んだ最高のかくれんぼ場所である。

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