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さて、九州をジグザグに南下しながら百と数十キロメートル。
ティーガーⅡは小早川一等兵の求めに応じて適当に通信を送っていた。
しかし、そう上手くはいかないらしい。
「こちらの思惑が読まれた」
「何だって?」
あまりにも自然に言うものだから言い間違えを疑ったが、確認してもその通りだと言う。かくれんぼを制しようとする試みは読まれたと。
これは大変なことになったと、それとざまあみやがれと言う祝辞をかねて、小早川一等兵に繋ぐ。
「へえ、機械の化け物のくせに知恵が回るんすね」
「お前、馬鹿にしているのか?」
漏れ出た声にティーガーⅡがつっかかる。その声もまた小早川一等兵に聞こえたようだ。
「馬鹿になんてしてませんよ。せっかく誉めてあげたんすよ」
「こいつ……」
ティーガーⅡは通信機を叩き割ろうとしたが、それは止めた。流石に困る。
「で、どうするつもりだ?」
「ああ、もうデータは要らないっすよ。十分です」
「ほう?」
「敵は現下、第七街道を北上してます。こっちの動きはばれてるっすね。でも、どうも広い道を好むようなので、後の動きは予想出来ます」
いまいち要点の纏まらない話だが、言いたいことは分かった。そしてこいつがここで働いている理由も。
「じゃ、後は適当にやって下さい」
こっちは何も言ってないんだが、通信は切られた。
「ああ、聞こえるか?」
今度は氷室中佐の声。毎回通信の状態を律儀に確認してくる。
「聞こえてる」
「小早川の話は聞いたな?」
「ああ。聞いた」
「それで、部隊を分けて捜索に向かわせることとした。資料は送ったから、それに沿って動いてくれ。頼んだ」
「了解だ」
6両の装甲車、GPT-64(六四年式装甲兵員輸送車)は4と2に分けられ、2にティーガーⅡがつくこととなった。氷室中佐はこっちに来るらしい。
彼等の進むのについていくと、やがて街道に出た。九州を縦断する大動脈の一本である。
進むと都市が見えてきた。市街戦と言うと、嫌な記憶が甦る。
「ここで止まれ」
都市と外部との境界で、部隊は止まった。
「何で止まるんだ?」
「ここから俺達は徒歩で行く。装甲車で戦うことはねえからな」
「つまり、ここにパンターがいるのか?」
「その公算は高えな」
それだけ説明すると、氷室中佐は部隊に指示を飛ばす。すると機関銃やら狙撃銃やらを携えた面々は、都市の中に消えていった。
なにやら装置を手元で弄っている氷室中佐と他数名と俺とティーガーⅡだけが取り残される形となった。
「あのー、いいっすか?」
不意打ちに小早川一等兵。
「な、何だ?」
「これ、そいつに飲ませてもらえます?」
と言って毒々しい色をした液体の入ったグラスを手渡してくる。
「は?」
いっそ清々しいまでの態度に、激怒する気力すら、かっさらわれてしまった。
「なるほど。よいぞ」
「は?」
ティーガーⅡも訳の分からんことを言う。どうなってるんだ、まったく。
「まいどあり」
小早川一等兵は骸骨みたいな顔に不気味な笑顔を浮かべて、ティーガーⅡにそのグラスを渡した。
そしてティーガーⅡはそれを一気に飲み干した。
「どうっすか?」
「これは、何と言うか、その……」
「ん?」
様子がおかしいと思った途端、ティーガーⅡはよろけ、それを受け止める。
「何をした?」
「あ、安心しろ、ライ。ただの酒だ」
「それこそ安心出来ないんだが」
酒と言ったら、また死にかけた記憶が甦る。前に酒に酔ったこいつに殺されかけたことがあった。
「へえ、酔いはするんすね」
「お前、ティーガーⅡを実験台にしたのか?」
「はい。色々と試してみたくて。いや、中には人間一瞬で死ぬ猛毒も入れたんすけどね、死ぬ様子はなくて、でもアルコールで酔いはする。久しぶりに研究意欲が湧いてきますよ」
「お前……」
しかし、同様の疑問は俺も持っていた。
毒で死なないと言うのは、機械なのだから当然である。しかし、ではどうしてアルコールには人間同様に反応するのだろうかと。
故に、死にはしないと分かっているのもあって、責め立てる気にはならなかった。
「おい、ティーガーⅡ、大丈夫か?」
「あ、ああ。ちょっと、頭が痛いが」
「前よりはマシだな」
人間の基準からすると、そこまで酔っているようには見えない。まあ何とかなるだろう。
小早川一等兵は、その様子を見届けると、ボソボソと不気味に何かを呟きながら歩き去って行った。
すると代わりに氷室中佐がおもむろにやって来る。
「さっき言った通り、ここにパンターがいる可能性は高い。お前達はそのまま、戦車に乗って捜索を行ってくれ」
「了解だ」
「構わんぞ」
アインザッツグルッペンは隠れてこそこそやるのが(別に非難はしていない)得意であるし、ティーガーⅡは正面からぶつかるのが専門だ。
適材適所と言うことで、それはそれでいいのであるが、探索と言うのはなかなか面倒だ。
世界地図で見れば一都市など点に過ぎないが、人間から見ると広大で入り組んだ最高のかくれんぼ場所である。




