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1-7-1

μύθος(ミュトス)から通信を受けた」


 とTigerⅡ(ティーガーⅡ)が言い出したのはついさっきのことである。


 取り敢えず氷室中佐に言ってみると、彼はたちまち士官を集めて軍議を始めた。


 氷室中佐は勿論、彼のお目付け役みたいな吉川大尉、面倒臭そうにしている小早川一等兵などがいる。どうして一等兵がここにいるのかは謎なのだが。


「で、何て言われたんだ?」


 氷室中佐はティーガーⅡに躊躇いなく尋ねた。有用な情報となれば、相手がΑιγίς(アイギス)か、などとは気にしてられんのだろう。


「単に、暇だから会わないかと言われただけだ」


「暇だから、だと?」


「ああ。そうだ」


 ティーガーⅡは至極真面目に言っている様子だ。


 まあ実際、アイギスにとって九州は何の面白味もない場所だろうから、おかしな話ではない。


 氷室中佐は納得出来ない風であったが、話を進めることを優先させた。


「相手は名乗ったか?」


「Panzerkampfwagen Ⅴ Panther(パンター)と」


「……は? 日本語で頼む」


 氷室中佐のドイツ語力のなさは、軍事の分野でも同じらしい。


 ティーガーⅡは呆れ果てたようなため息を吐くが、しかし、ちゃんと日本語に訳して言う。


「Ⅴ號戰車パンターだ。私と同じ頃に造られた戰車だな」


「そいつも、お前と関係があるのか?」


 その名からはⅣ號戰車が想起された。


「そう言っただろうが」


「ああ、いや、名前のことだ」


 ティーガーⅡは得たりと頷いた。


「勿論だ。Ⅴ號なのだから、順序としては姉に当たる」


 NS(エンエス)ドイツ(俗に言うナチスドイツ)の世において開発された戦車にはⅠからⅧまで番号が振られている。


 ティーガーⅡはⅥ號戰車で、今回のはⅤ號戰車だと言う。つまりティーガーⅡの方が最新型と言うことだ。


「姉、か」


「我々を姉妹に喩えれば、そうなるな」


 ティーガーⅡが姉と言う言葉を発するのはなかなか奇妙であるように、面白く感じられた。


 兵器にも、同類を自然と愛する心があるのだろうか。


「で、そのパンターとやらは、どんな戦車なんだ?」


「ふむ、何か描くものと、紙はあるか?」


「それなら、こちらに」


 突然のことである筈なのに、吉川大尉はさも当然のように紙と鉛筆を差し出した。しかし鉛筆なんぞ久しぶりに見るな。


「うむ。ありがとう」


 ティーガーⅡはそれを受け取ると、慣れた手つきで戦車の絵を描き始めた。


 上手い。本当に上手い。まるで写真から線を抽出しているかのように、正確無比な絵を描いていく。


 そこに現れたのは、外観においてティーガーⅡと非常に似通った戦車であった。ただ、ティーガーⅡと比べると全体的に細身と言う印象を受ける。


「こいつは……」


 氷室中佐は絵をまじまじと見る。


「報告にあった戦車とは、違うでしょうな」


「だな。だが、強力な兵器なのは違えねえ」


 報告にあった戦車とは、平戸辺りを防衛していた兵士の寄せた、箱の積み重なったような戦車のことである。


 この絵を見るには、そのような印象は一切受けない。現代の戦車と比べても、さして差のない見た目をしている。 


 まあ、確かに敵に回ったら厄介そうだ。


「で、そいつはどこにいるんだ?」


「それは伝えられなかった。しかし、おおよそ、ここから北北西の方向なのは分かった」


「使えねえ奴だなあ」


「あ?」


 ティーガーⅡは半ば反射的に声を出した。しかし氷室中佐は気にせず話を進める。


「他に情報は?」


「いや、他にはない。かくれんぼでもする気なのかもな」


「へえ、そりゃ面白えな」


「まあ、私からは以上だ。後は勝手にしてくれ」


 情報は少な過ぎる。それに、そもそも氷室中佐らの探していたミュトスではない。であればどう遇するべきか。


「俺としては、接触の価値があると判断する。皆はどうだ?」


 氷室中佐は問いかける。


 将兵らは皆、静かに頷いた。


「決まりだな。じゃあ次は、どうやって接触するかを決めようか」


 と言うと今度は皆視線を下げる。


 北北西にいると言うあまりにも大雑把な情報では、どうにもならないのである。今現在も移動している可能性も考えれば、実質何も分からないのと同じだ。


「こっちから通信を要請することは、出来るんすか?」


「な、お前は……」


 小早川一等兵はダルそうに尋ねた。


 ティーガーⅡは暫し彼を睨んだが、しかしその問いにはしっかり答える。


「可能だ。それが何か?」


「それで方向は分かります?」


「分かるが」


「じゃ、適当に移動しながら通信してけば、いずれ場所は割れますよ」


 なるほど。目標と自分を結ぶ線を2本引けば、その交点は1つに定まる。相手が動いていたとしても、繰り返せば動きも分かる。


 一同はその言葉を即座に理解した。


「ティーガーⅡ、協力してくれるな?」


 氷室中佐は言った、


「ああ。そう言う契約だ。異論はない」


「だったら、早速出撃だ」


 彼が号令をかけるや、アインザッツグルッペンの全員が出撃の支度にかかる。散らかっていた野営の設備もほんの20分程度で装甲車に詰め込まれた。


 そして、6両の装甲車にティーガーⅡを加えた車列は走り出した。

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