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「貴様ら! 少し、黙っていろ」
ティーガーⅡは凍てつくような声で兵士らを掣肘した。目の前の少女から発せられた予想外の声に、彼らは一時剣幕を潜める。
「いいか。この者が、この酒に毒を盛り、殺そうとした。私達は、この者に、その真意を尋ねに来たまで」
「こいつなら、或いは……」
犯人候補の兵士をよく見るや、周りの兵士は疑いの目をそいつにも向けた。どうも、向こうも向こうで嫌われ者らしい。これは助かった。
いや、まだ助かってはいないか。
「どうする?」
「どうするったって、中佐殿の判断を仰ぐしか……」
「どっちも拘束するのがいいんじゃないか?」
「そうだな。そうしよう。もう一度言う! 武器を置け。但し、小早川一等兵、お前もだ」
小早川一等兵と呼ばれた件の犯人候補は、舌打ちをした後、その兵の命令に従った。
俺とティーガーⅡも同様に武器を置いた。ここで妙な虚勢を張る意味はないだろう。
「おい、お前ら! 何事だ!?」
「おっ、来たな」
氷室中佐が駆けつけてきた。流石は軍人、こう言う時でも対応は素早い。
周りにいた兵士が中佐に現在の状況を説明する。
「なるほど。なあ東條さんよ、詳しい事情を聞かせてくれねえか」
「ああ。無論だ」
ここまでの出来事を一切何も包み隠さず、全て語った。隠すこともないし、下手に縮めては無用な疑いを招く。
氷室中佐は同じことを小早川一等兵にもしようとしたが、しかし、一等兵は即座に自白をする。
「僕がやったんすよ。ええ。毒を盛りました。これでいいっすか?」
全てがどうでもよさそうな声で、小早川一等兵は言った。
一体奴は何がしたいんだ?
「ほう。理由を聞かせてもらおうか」
「理由? 簡単っすよ。帝國の誉れ高きアインザッツグルッペンが、アイギスなんかを飼っているのがおかしいんです。さっさと駆除した方がいい」
うん。今度機会があったら殺してやろうか、こいつ。
「で、毒か?」
「はい」
「お前、馬鹿じゃねえのか? アイギスが毒で死ぬ訳がねえだろ」
確かにそうだ。そんなことは誰でも少し考えれば分かること。苟もこの精鋭部隊にいるこいつが、そこまで馬鹿だとは思えんが。
「ああ、それですか。ちゃんと考えたんすよ。あれは、確かに毒薬ですが、正確には爆薬っす」
「ほう?」
「僕が手元でちょっと信号を飛ばせば、あれは吹き飛ぶでしょうね」
小早川一等兵はさっと懐に手を突っ込んだ。なるほど。そのスイッチがそこにあるらしい。
氷室中佐は一瞬だけ苦虫を噛んだような顔を見せた。
そして俺も。
「ならば、それを押してみるがいい」
しかしティーガーⅡは平常の声音で言った。
「遠慮なく」
小早川一等兵の手が僅かに動いた。動いた、が、ティーガーⅡに何かが起こる様子はない。
小早川一等兵は苛立った様子でスイッチを連打しているようだが、それでも特に何も起きない。
「分かったか。お前ごときの企みが、私に通用する筈がないのだ。身の程を知るがいい」
ティーガーⅡは嘲笑を浴びせた。
「な、何故?」
「そんな仕掛けにはとうの昔から気付いていた。この液体の中に微少な受信機が入っていると。よって、それらは全て破壊した」
「クソッ。化け物が」
「貴様……」
ティーガーⅡはその液体の入ったグラスを持って小早川一等兵に迫る。
そして一等兵の首を掴むや、グラスを口に押し当て、酒が口に入る直前で止めた。
氷室中佐はその様子を傍観しており、止める気はないようだ。
「呑むか? 旨かったぞ、この酒は」
「あ、あ。是非とも、呑みたいっすね」
「この減らず口が」
と言ってティーガーⅡは酒を呑ませた。小早川一等兵も、抵抗するでもなく、それをぐいぐいと呑み干した。
そしてそのまま地べたに寝っ転がって、穏やかな面持ちで目をつぶった。
しかし、そのまま何も起きなかった。特に苦しみ始めるでもなく、一等兵はそこに眠っている。
すごく楽に死ねる毒薬だったりするのだろうか。
「こいつは……」
氷室中佐は手にした小銃の柄で小早川一等兵の頬を叩いた。
すると一等兵は普通に目を開けた。普通に生きているらしい。
「死んでいない……?」
「ああ。生きてるな」
「な、何故……?」
小早川一等兵はティーガーⅡを見た。するとティーガーⅡは誇らしげな笑みを浮かべて言う。
「毒などとうに分解してある。それはただの水だ」
「だから、そんなことを、何故?」
「お前など、わざわざ殺す必要はない。お前は、殺す価値もない人間だ」
「余計なことを」
「そんなに殺して欲しければ、首を捻じ切ってやってもいいのだぞ」
「そんな趣味はないっすよ」
小早川一等兵は立ち上がって、何人かの兵士に連れられていった。
「今回の一件は、俺の責任だ。俺は約束を裏切るのは好きじゃねえからな。申し訳ない」
氷室中佐は帽子を脱いで頭を下げた。
「いやいや、謝らないでくれ」
「そういう非合理的な行動は好きではない」
「そうか。感謝する」
取り敢えず、一件落着である。




