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1-6-11

「貴様ら! 少し、黙っていろ」


 ティーガーⅡは凍てつくような声で兵士らを掣肘した。目の前の少女から発せられた予想外の声に、彼らは一時剣幕を潜める。


「いいか。この者が、この酒に毒を盛り、殺そうとした。私達は、この者に、その真意を尋ねに来たまで」


「こいつなら、或いは……」


 犯人候補の兵士をよく見るや、周りの兵士は疑いの目をそいつにも向けた。どうも、向こうも向こうで嫌われ者らしい。これは助かった。


 いや、まだ助かってはいないか。


「どうする?」


「どうするったって、中佐殿の判断を仰ぐしか……」


「どっちも拘束するのがいいんじゃないか?」


「そうだな。そうしよう。もう一度言う! 武器を置け。但し、小早川一等兵、お前もだ」


 小早川一等兵と呼ばれた件の犯人候補は、舌打ちをした後、その兵の命令に従った。


 俺とティーガーⅡも同様に武器を置いた。ここで妙な虚勢を張る意味はないだろう。


「おい、お前ら! 何事だ!?」


「おっ、来たな」


 氷室中佐が駆けつけてきた。流石は軍人、こう言う時でも対応は素早い。


 周りにいた兵士が中佐に現在の状況を説明する。


「なるほど。なあ東條さんよ、詳しい事情を聞かせてくれねえか」


「ああ。無論だ」


 ここまでの出来事を一切何も包み隠さず、全て語った。隠すこともないし、下手に縮めては無用な疑いを招く。


 氷室中佐は同じことを小早川一等兵にもしようとしたが、しかし、一等兵は即座に自白をする。


「僕がやったんすよ。ええ。毒を盛りました。これでいいっすか?」


 全てがどうでもよさそうな声で、小早川一等兵は言った。


 一体奴は何がしたいんだ?


「ほう。理由を聞かせてもらおうか」


「理由? 簡単っすよ。帝國の誉れ高きアインザッツグルッペンが、アイギスなんかを飼っているのがおかしいんです。さっさと駆除した方がいい」


 うん。今度機会があったら殺してやろうか、こいつ。


「で、毒か?」


「はい」


「お前、馬鹿じゃねえのか? アイギスが毒で死ぬ訳がねえだろ」


 確かにそうだ。そんなことは誰でも少し考えれば分かること。苟もこの精鋭部隊にいるこいつが、そこまで馬鹿だとは思えんが。


「ああ、それですか。ちゃんと考えたんすよ。あれは、確かに毒薬ですが、正確には爆薬っす」


「ほう?」


「僕が手元でちょっと信号を飛ばせば、あれは吹き飛ぶでしょうね」


 小早川一等兵はさっと懐に手を突っ込んだ。なるほど。そのスイッチがそこにあるらしい。


 氷室中佐は一瞬だけ苦虫を噛んだような顔を見せた。


 そして俺も。


「ならば、それを押してみるがいい」


 しかしティーガーⅡは平常の声音で言った。


「遠慮なく」


 小早川一等兵の手が僅かに動いた。動いた、が、ティーガーⅡに何かが起こる様子はない。


 小早川一等兵は苛立った様子でスイッチを連打しているようだが、それでも特に何も起きない。


「分かったか。お前ごときの企みが、私に通用する筈がないのだ。身の程を知るがいい」


 ティーガーⅡは嘲笑を浴びせた。


「な、何故?」


「そんな仕掛けにはとうの昔から気付いていた。この液体の中に微少な受信機が入っていると。よって、それらは全て破壊した」


「クソッ。化け物が」


「貴様……」


 ティーガーⅡはその液体の入ったグラスを持って小早川一等兵に迫る。


 そして一等兵の首を掴むや、グラスを口に押し当て、酒が口に入る直前で止めた。


 氷室中佐はその様子を傍観しており、止める気はないようだ。


「呑むか? 旨かったぞ、この酒は」


「あ、あ。是非とも、呑みたいっすね」


「この減らず口が」


 と言ってティーガーⅡは酒を呑ませた。小早川一等兵も、抵抗するでもなく、それをぐいぐいと呑み干した。


 そしてそのまま地べたに寝っ転がって、穏やかな面持ちで目をつぶった。


 しかし、そのまま何も起きなかった。特に苦しみ始めるでもなく、一等兵はそこに眠っている。


 すごく楽に死ねる毒薬だったりするのだろうか。


「こいつは……」


 氷室中佐は手にした小銃の柄で小早川一等兵の頬を叩いた。


 すると一等兵は普通に目を開けた。普通に生きているらしい。


「死んでいない……?」


「ああ。生きてるな」


「な、何故……?」


 小早川一等兵はティーガーⅡを見た。するとティーガーⅡは誇らしげな笑みを浮かべて言う。


「毒などとうに分解してある。それはただの水だ」


「だから、そんなことを、何故?」


「お前など、わざわざ殺す必要はない。お前は、殺す価値もない人間だ」


「余計なことを」


「そんなに殺して欲しければ、首を捻じ切ってやってもいいのだぞ」


「そんな趣味はないっすよ」


 小早川一等兵は立ち上がって、何人かの兵士に連れられていった。


「今回の一件は、俺の責任だ。俺は約束を裏切るのは好きじゃねえからな。申し訳ない」


 氷室中佐は帽子を脱いで頭を下げた。


「いやいや、謝らないでくれ」


「そういう非合理的な行動は好きではない」


「そうか。感謝する」


 取り敢えず、一件落着である。

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