表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/109

1-6-9

「ん? 何だそれは?」


 暫く後のこと、ティーガーⅡが、何やら味噌のついた米が巻き付いている棒のようなもの、恐らく料理だろうが、を持って歩いてきた。


「きりたんぽと言うらしい。旨いぞ」


「ほう。確かに旨そうだ」


 特別な加工がしてあるようではないが、しかし、その単純さ故、ハズレはないように思える。米の味にも慣れてきたし、是非とも食べてみたい。


「ライも食べるか?」


「いいのか? しかし……」


「ほら。残りをやる」


「た、食べかけか?」


 木の棒が露出しており、残り半分くらいになったそれを、ティーガーⅡは笑顔で手渡してくる。


 何と言うか、流石の俺でも、ここまで分かりやすい食べかけは気が引けるのだが。


「ああ。どうした? 食べぬのか?」


「ああ、そうだな、食べよう」


 ティーガーⅡのせっかくの善意を突っぱねるのは忍びないし、純粋に味が気になりもした。


 しかし直前でやはりと思いとどまっていると、ティーガーⅡは悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「安心しろ。私の唾液は全くの無菌だ。それどころか、何なら抗菌作用まであるぞ」


「そう言う問題じゃない、と言うか……」


「ふむ。何が問題なのだ?」


 そんなことを言わなければすんなりと食べられていたものを、ティーガーⅡが余計なことを言うから、どんどん躊躇してしまうのだ。


 しかし、そうと正直に言うのも気恥ずかしく、論点をずらすこととした。


 まったく、こんな若者みたいなことを考えてしまうとは。


「抗菌作用とは、人間が口にして大丈夫なものなのか?」


 抗菌とか殺菌とか、そう言うのはつまるところ、毒をぶちまけているのである。


 日用に供されるものは、少量ならば人間に害は為さず、ちょうど微生物のみを殺せるように作られている。が、果たしてティーガーⅡのそれが人間のことなどを考えているのかは微妙だ。


「安心しろ。人間が死にはしない。もっとも、そのような毒物を精製することも可能ではあるが」


「なるほど。本物の死の接吻も出来る訳か」


「せ、せっぷ、ま、まあ、そう言うことだな。暗殺も、この私に任せろ」


 動揺している。人に裸を見せても全然気にしないこいつが。接吻ごときで。やっと常識的な貞操観念を理解してきたのだろうか。


 まあ、兎も角、俺の身の安全は保障された。


「じゃあ、そう言うことで、頂こう」


 これ以上焦らしても仕方がないと言うことで、ここは勢いに任せて食ってしまうこととした。


 なるほど。旨い。味噌と米と言うのはよくある組み合わせと聞くが、よくあると言うことはつまるところ、誰でも好むと言うことである。


 味噌単体では味が濃すぎるし、米単体も大量に食べようと言う気にはならないが、これらが組み合わさると、何十本でもこれを食らえるような気すらする。


 とここで疑問が一つ。


「どうしたんだ? これ」


「ああ、氷室中佐から頂戴した」


「あいつが?」


 そんな友好関係を築けたのか? いや、そんなことはあるまい。では、何だろう。


「契約だ。今後とも私がこやつらに力を貸す代わりに、大日本帝國中の旨いものを取り寄せさせることとした」


「はあ……」


 前回から契約が更新されているが、とは言え内容は大して変わらん。とても命の対価とは思えないんだが。


「あああと、月8,500マルクを振り込むことと、直接税全般を払わせることとした」


「それは、いや、それでも足りない気がするんだが……」


 8,500マルクと言ったら、まあ帝國の平均月収より上ではあるが、大体同じくらいの額である。直接税と言うのも、私有財産制の否定された帝國では、別に大したものではないし。


「私がそれでよいと判断したのだ。異論はないな?」


「お前がそれでいいと言うのなら、それでいい」


 異論を今まさに述べたと思うのだが…… 


 しかし、まあ、確かに、仮に帝國に入る機会があったとして、そこで無条件に金を貰えるのは悪い話ではない。


「しかし、何故、そう積極的に協力する気になったんだ?」


「積極的にではない。あくまで契約だ。互恵関係と言う奴だ」


「本当にそれだけか?」


 互恵関係と言うだけならば、もっと高額な対価を要求すべきだろう。ティーガーⅡも現在の物価は把握しているようだし。


 ティーガーⅡは、俺の指摘に答えるのに窮しているようだ。


 そして少しすると、恥ずかしそうに口を開く。


「ま、まあ、好奇心だな」


「好奇心?」


「ああ。この島のミュトスとやら、私も気になるからな」


「なるほど」


 俺もそうだ。ティーガーⅡの親類がいるのなら、この目で見てみたい。しかし、ティーガーⅡがそこまで興味津々であるとまでは思わなかった。


「まあ、そう言う訳だ。お前も、私の為に働け」


「おう」


 今回はティーガーⅡが諸々を主導しているように感じる。まあ、それに逆らう理由もないし、彼女の思うがままに流されるのも悪くない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ