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1-6-8

「東條さん、今、お時間はよろしいですかな?」


 と吉川大尉に声をかけられ、手持ち無沙汰にしていた俺は、彼の招聘に応じた。


 ちょうど誰もいなかった装甲車の中に連れられる。


 吉川大尉は、柔らかい物腰とは反対に、手早く本題に切り込んだ。


「これは、老人のちょっとした好奇心に過ぎないのですが、あなた程の方が、何故、自ら銃を握られているのですかな?」


 あなた程の方、とは、そんな風に呼ばれるのは嫌いだ。故にその質問は冷たくあしらってしまう。


「単に身を守る為だ。特別理由はない」


「しかし、身を守るとはアイギスと戦うこと。つまり、戦う理由があるのではありませんかな?」


 確かにそうだ。身の安全を第一に考えるのなら、わざわざ銃を手に取る必要などない。抵抗などせず降伏して、余生をアイギスの支配下、のんびりと暮らせばいいのだ。


 それを言われると、身を守る為と言う言い訳をするのは、苦しいと言わざるを得ない。


 まあいい。少しくらいは、正直なところを話すこととしよう。


「実は、ある人を探していてな」


「ほう。どう言う方ですかな?」


「お前達が言うところの、ミュトスだな」


「ミュトス、ですか。ティーガーⅡ以外にもお知り合いが」


「そう言うことだ」


 無論、もう一人の知り合いであるⅣ號戰車のことではない。かつて俺を助け、弱かった俺に戦い方を教えてくれた()()だ。


 もっとも、手がかりなどは皆目存在せず、そもそも生存しているのかすら不明だ。そんなぼんやりとした目的の為に目の前が見えなくなることはない。


「なるほど。分かりました。一応、ですが、帝國で確認されているミュトスの一覧でも、見ますかな?」


「おお、それはありがたい」


 吉川大尉が持ってきたのは、「機密」と赤で大きく書かれた封筒であった。どう見ても余所者に見せていいものとは思えないが。


 これはどうやらアインザッツグルッペンの特権で手に入った代物らしい。また、本来は指揮官が所有すべきであるが、氷室中佐が頼りなさ過ぎると言うことで、吉川大尉が管理しているそうだ。


 まあ、こんなことをしている時点で、吉川大尉は管理人として失格なのだが。


 封筒を開けると、中には囚人の情報を記したような淡白な構成の書類が入っていた。その一枚一枚に、ミュトスに関する情報が記されている。


「九五式軽戰車……違うか。SOMUA(ソミュア) S35、M4中戰車、M26Pershing(パーシング)…… 何だか、その、いっぱいいるな」


 幼稚園児並みの感想だが、まず感じたのはそれであった。ティーガーⅡみたいなのがこの数いるとすれば、人類の状況も少しはマシになっているのだろうか。


 そして同時に、探しているミュトスがいないのも確認出来た。まあ、あれが人類の為に働いている姿など想像出来ない。この中にいたら寧ろ落胆していただろう。


 そう考えれば気は楽になる。


「もうじき、ティーガーⅡも、この中に載ることとなりますよ」


「そうなのか?」


「私どもは帝國軍の一部隊でありますからな。わざわざ隠す道理はあらんですよ」


「確かにそうだ。異論はない」


 そんなことをするだけ無駄だ。彼らとの不要な争いを招くかもしれないし。


 とその時、装甲車の扉、兵士の飛び出るところが開いた。


「吉川大尉殿、ここにいらしたのですね。氷室中佐がお呼びです」


「む、そうか。では、東條さん、お時間頂きありがとうございました」


 吉川大尉は去ろうとしたが、しかし、伝令の兵がそれを引き留める。


「あ、そ、その、東條さんも、連れてこいとのことでして」


「俺か?」


「は、はい」


 装甲車から出ようとすると、伝令は少し引き下がった。


 やはり、この異様な見た目に動じないのは、アインザッツグルッペンの中でも一部の猛者だけなのだろう。


 大半の奴は至って普通の人間なのだと思えて、この集団への警戒心は少し薄れた。


 伝令に引き連れられると、そこでは氷室中佐が野営地の整備を指示していた。


「お、来たか」


「ああ。来てやった」


「早速だが、話がある」


「何だ?」


「お前んところのティーガーⅡに、その、今後の俺達の作戦も、助太刀を願いたい」


 氷室中佐は頭をかいて視線を右往左往させながら言った。それほど不本意なのか。


 しかし、これは俺が決めることではなく、ティーガーⅡが自ら決めることであるべきだ。


「ティーガーⅡに直接聞いてくれ。俺は知らん」


「何故だ? 前は切羽詰まって聞かなかったが、お前はあれの所有者じゃねえのか?」


「所有?」


 なるほど、氷室中佐の中の常識では、ミュトスはあくまで人類に管理されるべき存在であるようだ。いや、彼だけでなく、大半の軍人はそう思っているのだろう。


 そんな奴にはますます、本人とちゃんと向き合ってもらわないと困る。


「馬鹿を言え。ティーガーⅡは俺の……」


 俺の、何だ? 明確な言葉にしようとすると、何が該当するのか分からなくなる。


「あ? どうした?」


「いや、まあ、何でもない。兎に角、あいつとちゃんと自分で話せ。以上だ」


「チッ……」


 その後、吉川大尉が氷室中佐を無理矢理連れていった。しかし、氷室中佐が吉川大尉を呼んだのは、何故なんだ?

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