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しかし、こうも行く先々で狙われるとなると、やはりティーガーⅡが原因なのではないかと思えてくる。
いや、思えてくるどころではなく、ほぼ間違いないと言ってもいいだろう。
まあ、アイギスの雑兵が来たところで俺達の敵ではない。それかティーガーⅡを手放す理由にはなり得ぬが。
「クソッ。奴らにこんな頭があるのかよ……」
氷室中佐はそのようにぼやきながら指示を飛ばしていく。しかし彼らが苦しい状況であるのは明らかだ。
彼らの作戦は、自軍が情報戦において完全に勝利することを前提として構築されている。故に、先手を取られてしまえば脆いだろう。
「お前らは……」
氷室中佐は一瞬助けを懇願するような目をしたが、しかし、すぐに殺気を帯びた酷しい目に変わった。
俺達に八つ当たりされても困るんだが。
「いや、ここにいろ。下手打とうなんざ思うなよ」
「そう言うのなら、そうしよう」
「私は知らんぞ」
「それでいい」
そして氷室中佐は走り去った。
「こいつらが勝てるとは思えぬが」
ティーガーⅡは言った。
「同感だ」
「うむ。死にたい奴は死ぬのが一番だ」
「まあ、そう、だな」
ティーガーⅡは手を貸す気など微塵もないらしい。
そして俺も、頼まれてもいないし、何なら拒絶されたのだから、わざわざ手助けしてやる道理もないと思った。
と言う訳でここで暇をもて余していようとも思ったのだが、如何せん何もなく暇だと言うことで、嫌がらせついでに氷室中佐の防衛線の見物に行くこととした。
無論、手助けに行く訳ではない。
「確かに上手く戦ってはいるようだが……」
「いずれ崩れるな」
「そうだな」
小高い茂みから見下ろすと、戦いの様子は相変わらず異様なものである。
アインザッツグルッペンの姿は一切見えない。身を隠し、多方から銃弾を浴びせている。確かに物資は豊富なようだ。
それに、既に何体かのアイギスが破壊されている。帝國一般では考えられない光景だ。
とは言え、兵力は薄く、既に線は突破されそうである。後ろに回り込まれてしまえば、すぐに総崩れになるだろう。
「お前ら! あの場にいろと言ったろうに」
「氷室中佐か」
氷室中佐と吉川大尉が走り寄ってきた。氷室中佐は息を切らしているが、吉川大尉の方は平然としている。
なるほど。ついに音を上げたと言うことか。
「何の用だ? 俺達は何もしなくていいんじゃなかったのか?」
少々意地悪をしてみたくなった。
「単刀直入に言おう。お前達の力を貸してくれねえか?」
これまた恥じることもなく堂々と。思っていたより氷室中佐は焦っているらしい。
「それはティーガーⅡに聞いてくれ」
「何故…… まあいい」
俺の力は、まあ頼まれれば貸してもいいが、別に大したものではない。一応この九九式狙擊銃ならアイギスの歩兵くらいは一撃で葬れるが。
氷室中佐は舌打ちしながらティーガーⅡと向かい合う。
「ティーガーⅡ、力を貸して欲しい」
氷室中佐は素直に深々と頭を下げた。仲間の生死と自分の矜持を天秤にかければ生死の方が重くなる、そう言う類いの人間だろうか。
ティーガーⅡは冷淡に彼を見下ろした。
「対価もなしに我が力を使えと言うのか?」
「対価か。なるほど。何が欲しい?」
「そうだな……」
ティーガーⅡは数秒だけ考え、そして子供っぽい笑みを浮かべて言った。
「私とライに未来永劫弓を引くな。それと、毎日私に上手い食事を提供しろ」
「はい?」
「はあ……」
あんなにもったいぶっておいてそれかよ……
「どうなのだ? その条件ならば、私は力を貸してやろう」
「わ、分かった。我が隊の輜重兵にはその旨を伝えておく」
「ならば、契約成立だ。人類の民法では口頭でも契約は成立するのだろう?」
「そ、そうなのか?」
「ええ。双方が合意をすれば契約と見なされますな」
吉川大尉は助け船を出した。確かに、契約とはそう言うものだ。
しかし、契約、か。法律上の問題がどうとかの話は置いておいて、俺とティーガーⅡの関係は、果たしてそれに相当すると言えるのだろうか。
「よし。では、そうと決まれば本気を出そう」
そう言うや、ティーガーⅡの本体、重戦車ティーガーⅡが木々を踏み倒し戦場に乗り込んだ。
主砲を放って大物を仕留めると、すぐさま同軸機銃から弾をばらまき、あっという間に一群のアイギスを平らげた。
「ライ、乗れ。行くぞ」
「あ、ああ、そうだな」
最早俺がティーガーⅡの付属品みたく扱われているんだが……
まあ兎も角、ティーガーⅡのハッチから頭を出して、俺も戦うこととなった。やはり、同軸機銃が正面しか撃てないと言うの集団と戦う上では宜しくないからだ。
「付近に敵性存在の反応なし」
「楽勝だったな」
「当たり前だ」
アインザッツグルッペンの面子を丸潰れにしてしまったが、まずは勝利した。
しかし、俺達が到着した時点で相当な数のアイギスが倒れていた以上、彼らの実力もまた認められるべきだろう。不意打ちを食らわなければ、十分に背中は任せられる。
「感謝する」
氷室中佐はそれだけ言って、それ以上の感謝は述べなかった。まあ、ちゃんと感謝してくれただけマシだろう。




