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1-6-6

「話してなかったっけか?」


「ああ。聞いてない」


 いや、正確には一度、氷室中佐が口走ったのを聞いてはいるが、ちゃんと聞いてはいない。


「じゃあ言おうか。簡単に言うと、俺達の目的は、九州の水際防衛線を壊滅させたミュトスの捜索、破壊だ」


「そいつはどんな奴なんだ?」


 候補は、2つある。


 一つは、ちょうどその海岸線で出会ったⅣ號戰車である。しかし、あれがわざわざアイギスの為に骨身を砕いて働くと言うのは想像しづらい。


 もう一つは、少し前に遠くから見た巨大な戦車らしきものの影である。確かにあれならば、防衛線を壊滅させたと言われても不思議ではない。


「報告では、箱を2つ積み重ねたような、巨大で、特異な見た目をしているらしい。もっとも、それ以上の情報はねえが」


「なるほど」


 これは明らかに後者だ。Ⅳ號戰車をそのように形容するのは無理がある。安心した。


「知っている顔だな」


 どうしてこの男はこうも観察眼が鋭いのだ。


「え? いや、まあ」


「知っていることがあるなら言え」


「分かった」


 隠すことではない。特に有益な情報とも思えないが、俺の見たままを氷室中佐に伝えた。


 氷室中佐はその時だけは真剣に俺の話に耳を傾けていた。


「意外と近くにいたって訳か」


「まあ、そうなるな」


「チッ。逃げられたってか」


 氷室中佐は顔をしかめた。


 そうして何ともしがたい雰囲気が漂っていた時、しかし、またも天祐が舞い降りた。


「中佐殿! やっと見つけましたよ」


「吉川か」


 吉川と呼ばれたのは、若い氷室中佐と対照的に年老いており、上級大将と紹介されても疑問を抱かないような威厳を持った老兵であった。


 普通に考えたら氷室中佐の方が部下なのだと思うのだが、逆らしい。


 吉川は、氷室中佐と俺達に気付くと、一礼して自己紹介を始めた。この男はティーガーⅡに対して特別思うところはないらしい。


「私は、氷室中佐の副官を務めております、吉川大尉と申します。この老体ですが、戦の腕は鈍ってはおりませんで、ご心配には及ばんですよ」


「ああ、俺は東條賴と言う。で、こいつが、ティーガーⅡだ」


「ふむ」


 やはり俺の全身包帯には目もくれず、吉川大尉もティーガーⅡの方ばかりをまじまじと見る。


 ここまで無視されると、残念ですらある。


「なるほど。なかなか、面白い目をしておりますな」


「面白い?」


 予想外の感想だったのだろう。ティーガーⅡは間髪入れずに尋ね返した。


「まあ、詳しいことを言ってしまうのは、ええ、プライバシーの侵害、とかに当たりますからな。ご説明はせんですよ」


「プライバシー?」


「ええ。人の目は、その人の心を何でも映しますから」


「分からん」


 今回ばかりは、ティーガーⅡが人間の常識に疎いとかの問題ではない。吉川大尉本人以外、誰も彼の話をよくは理解出来てはいないのである。


 氷室中佐はその言葉に苛立ったようである。


「人だって? それは機械だ。心が映る訳がねえだろ」


「最初に会った時の中佐殿より、余程複雑なものを映しておりますがな」


「チッ。勝手にしていろ。俺はそんな占いじみたことは信じねえからな」


「ええ。これは単なる占い。老人の世迷い言に過ぎんですから」


「……それならそうと早く言え」


 あの氷室中佐が、反撃の機会すらなく、手に取られている。


 この老人も、きっとただ者ではない。十分に警戒しておくべきだろう。


「ところであなたは……」


 吉川大尉は今度は俺に狙いを定めたようだ。包帯の隙間から目を見てくる…… っ!


 咄嗟に目を伏せた。教師に怒られている学生みたく。


 が、吉川大尉には、そうするまでの僅かな時間ですら、十分だったようであった。


「なるほど。いやはやこれは、驚きですな」


「な、な、何が、一体、どうしたんだ?」


 もし今包帯で顔を隠していなかったら、動揺しきった無様な顔をティーガーⅡや氷室中佐に見られるところであった。


「いえいえ。ただ、よくぞ生きておられたと、そうお伝えしたいだけです」


「そ、そうか。ありがとう」


 この男には隠し事は無駄なようだ。目だけを出すくらいなら、それだけで人相を判別出来る者などそうそういないと思っていたが、目の専門家かつ老人の前には、何の障害もないのだろう。


 しかし同時に、この男の口は鉄扉のように固いだろうと言うのにも、半ば確信は持てる。


「ああ、そうそう中佐殿、報告です」


 吉川大尉は、破壊したアイギスの処理などについて、簡潔な報告を行った。その言葉は的確で、余計なものは何一つもなかった。


「ああ、そうそう、東條さん。今度、是非とも私めとゆったりと話しませんかな?」


「まあ、よいが」


「お待ちしておりますよ」


 最後に丁寧に一礼し、吉川大尉は去った。遠藤二等兵などとはまた違った意味で嵐のような人であった。


「ん? 何だ?」


 氷室中佐は言った。恐らくは通信が入って来たのだろう。


「はあ…… はあ…… 何だと……」


 その声はどんどん深刻さを増していった。よくないことが起こっている気がする。


「包囲されている、だと…… 至急防衛線を構築! 戦うぞ!」


 なるほど。包囲されている。


 何てこった。

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