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「そいつがお前を騙して、人類の中枢に侵入しようとしてねえと、断言出来るのか?」
前にも全く同じ会話をした気がする。
そしてその時と同様、残念ながら、俺にはそれを否定する客観的な証拠はない。
なれば、そうだ、磯埜二等兵に対してやったことと同じことをもう一度やればいい。
「一度俺達がアイギスと戦おう。そうすれば、証拠になるだろ?」
「馬鹿じゃねえのか。お前は」
「な、何故だ?」
完全に突っぱねられた。なんてこった。
しかし、どうしてこんなテキトウそうな奴がやけに頭が回るんだ?
「そいつは別格だ。多少の雑兵を、人間を騙す為に使ったところで、問題はねえだろうな」
「ぬ……」
道理だ。
取り敢えずこれ以上何も思い付かないので、ティーガーⅡ本人に目で助けを求めてみる。
するとティーガーⅡには回答が用意出来ているようであった。
「そう私達を疑うのならば、金輪際関わらねばよい。そうすれば、私が人類の中枢とやらに行く機会もなくなるであろうからな」
「そういうこと?」
それは、思っていたのと違う。何故に徒に争いの種をばらまくのだ、こいつは。
「そうはいかんな。敵性存在であるのならば、どういう事情であっても排除しないといけねえからな」
「ここで一戦交えることを望むか?」
「そっちがやるってんなら、受けて立つが?」
氷室中佐は、眉を吊り上げて、不敵な笑みを浮かべながら言った。まったく、どいつもこいつも……
「ライ?」
ティーガーⅡは突撃銃を持ち上げた。
ティーガーⅡも発砲の許可を求めてきている。やる気満々である。当然そんな許可など出せんが。
「駄目だ、駄目。馬鹿かお前は」
「なっ、お前に馬鹿と言われたくはない」
「だったら手を引け」
「ぐぬ……」
と、その時、氷室中佐が何やら盛大な独り言を始めた。どうやらまた通信がかかってきたようである。
内心、ほっとした。ほんの先延ばしだが、衝突は回避出来たからだ。
「は? はあ…… はあ…… 面倒な…… ああ、分かった分かった。あ? お前は黙ってろ」
相変わらず態度が悪い。いくら相手が部下とは言え、その調子はどうなんだろうか。と言うか、普段はちゃんと統制が取れてるのだろうか。
あまりにも普通の緩い会話を聞いて、今にも殺し合いに発展しそうであるのに、そんなことをふと思ってしまうのである。
「チッ。分かったよ。通信終わり」
「何だって?」
「お前、連れがいるな?」
磯埜二等兵とかのことだろうか?
「ああ。そうだが」
「磯埜とか言う奴か?」
「正にその通り」
「はあ……」
氷室中佐は非常に残念そうにため息を吐いた。一体何があったのだろうか。
「さっきな、そいつと俺の部下がばったりと遭遇してな、そこでティーガーⅡさんと東條さんの潔白とやらを語ったそうだ」
「おお、流石は磯埜二等兵」
有能だ。これならば、こいつとて認めざるを得ない筈。多分。
はあと再びため息を吐いて、氷室中佐は一言。
「この件は、保留にしておいてやる」
「そりゃどうも」
「別に、感謝することなどはないが」
よし、完全に僥倖に頼った形となったが、何とかなった。これ以上面倒なことが今後起こらないことを祈る。
しかし、よくよく考えると、いやわざわざ考えずとも、こいつらは帝國の正規部隊だ。磯埜二等兵らの世話を頼めるかもしれない。
一か八かと聞いてみる。
「なあ、保留ついでなんだが、あいつらを本土に送ってくれないか?」
「ん? いいぞ、それくらい」
「お、おう」
あんまり早い返事だったものだから、尋ねたこっちが面食ってしまった。アイギスがからまなければ、この男はやはりいい人間なのだろう。
「何だ? 不満か?」
「いや、そんなことはない。素直に感謝したい」
「そうか。まあ、その件については任せろ。鈴木大将閣下に、輸送機を要請しておく」
アイギスの対空戦闘能力は皆無と言っていい。飛行戦艦のようなとろいデカブツ以外、落とすことは出来ない。故に輸送機は安全である。
もっとも、今の帝國では満足な数の輸送機すら造れてはいないが。
「それと、お前達は俺達と行動を共にしろ」
「へ? 何で?」
てっきり互いに不干渉として放置されるとでも思っていたのだが。
「お前達が、と言うよりかはお前がだが……」
と言って氷室中佐はティーガーⅡを指差した。
「俺達の敵なのか否かを確かめる。それだけのことだ」
「はあ……」
どうやら拒否権はないらしい。勝手に行動を共にすることにされている。
まあ、拒絶する理由も特にはないが。
「ティーガーⅡ、どうだ?」
「ライがよいと言うのなら、私は構わない」
全然よさそうではないが、まあ、よいと言ってくれたのなら、そう受け取っておく。多分、暫くすれば慣れるだろう。多分……
「だそうだ。と言うことで、行動を共にさせてもらう」
「ならば、当面は、食事と安全くらいは保障しよう」
「安全?」
食事は分かるが、こんな修羅場で安全など保障出来るものだろうか? それも、ただの人間の部隊が。
「疑うか?」
「まあな」
「なら、見せてやろうじゃねえか。俺達の実力って奴を」
「お、おう……」
氷室中佐は意気揚々として言った。俺とティーガーⅡはそれを胡散臭そうに見ていた。




