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「あれは……」
「人間の兵器とは思えないな」
「となると、私の同類か」
まだ数キロメートルの距離があるのだが、確かに異様な姿をした影が、自走しているのが見えた。
直方体の箱を二つ重ねたような見た目をしており、上の方には戦車砲らしきものがついているが、見たこともないような形をしており、果たしてそれが何なのかは不明である。
TigerⅡも知らないようだし、磯埜二等兵も知らないとなれば、Αιγίςの新兵器か何かかと推測することくらいしか出来ない。
まあ何かしらの兵器であるのは明らかなので、それと一戦交える可能性も頭をよぎったが、結局何も起こらず、影は遥か遠くへと消えていった。
「大分、疲れが見えてきたな」
「ああ。やっぱり九州横断なんて無謀だったのかもな」
磯埜二等兵はため息を吐いた。
当初はアイギスが全く襲って来なかったものの、近頃は動きを再開し、何回かの襲撃に遭っている。
それらは全てティーガーⅡが撃退しているが、少なからず死者も出てしまっている。疲れが溜まるのも、無理はない。
「お前がそんなんでどうするんだ?」
「ああ、そうだな。俺だけでも元気にしておかないと」
「その意気だ」
とは言え、精神論でどうにかなる問題でもない。果たして九州を抜け出せるのか、それは未知数である。
「ライ、南に未知の反応を確認した」
ティーガーⅡは言った。またアイギスに目をつけられたか……
「またアイギスか」
「いや、違う」
「違う? 人間だとでも?」
「恐らくは。少なくともアイギスではない」
他に宇宙人が飛来したとかなら話は別だが、そんなことは考えにくい以上、アイギスでないのなら人間である。少なくとも通信機を持った人間が近くにいると言うことだ。
「せっかくだし、会いに行ってみるか」
「反応は強い。相当に秩序を持った集団であることが想定される」
「つまり、何だ?」
「正規軍に相当する、或いはそれ以上の装備を持った集団だ。迂闊に近寄らない方がいいだろう」
「なるほど……」
確かに、いい予感はしない。そんなのがこの九州に残っているのはおかしいのだ。
考えられるとすれば、帝國軍が何らかの目的の為に送り込んだ特殊部隊、とかだろう。確か帝國軍にはそういう部隊があった筈だ。
或いは、裏切り者か。
いずれにせよ、ロクなことにならない気がした。
「ほう。確かに対応に迷うな」
「だろ?」
取り敢えず、仮の引率者をやっている磯埜二等兵に報告した。
「更に言うと、反応は現下接近中だ」
「何だって?」
初耳だ。そう言うことは最初に言って欲しいんだが。
「ここにいたら、ぶつかるか?」
「ああ。ぶつかるだろう」
「面倒だな……」
今から兵を動かしたとしても、反応と接触するまでに移動を完了させるのは不可能であろう。
回避は不可能。なれば、どう対応すべきかを考えるしかない。
「私達が偵察にでも出ようか?」
ティーガーⅡは言った。
確かに、まずは相手がどんなものかを把握するのが肝要である。全てはそこから始まる。そしてそれに適任なのは、最強の戦力であるティーガーⅡであろう。
異論はない。
「いいのか?」
磯埜二等兵は申し訳なさそうに尋ねてきた。
「ああ。ライもいいな?」
「ああ。問題ない」
「感謝する。俺は部隊を纏めておくから、宜しく頼んだ」
磯埜二等兵は、万が一に備え、部隊を移動させる準備と戦闘の用意を始めた。その間に俺達が偵察に出てくると言う寸法である。
さて、目標からおよそ8キロメートル、いい感じに身を隠せ、視界も広い茂みを見つけた。
「確かに、正規兵のようだな」
「所詮は人間の軍隊だが」
「まあな」
並走する6台の装甲車が確認出来た。それ以外のものは特に見えない。
装甲車は妙に綺麗で、この戦場には似つかわしくない。やはり、何か裏があると見るのが自然だろう。
「お前ら、何をしている?」
「っ!?」
誰もいない筈の背中から、若い男の鋭い声が聞こえた。
一瞬にして冷や汗が垂れる。この距離になるまで気付かなかったのか?
横に立っているティーガーⅡを見る。彼女もまた、狼狽を隠せないでいた。
どうする? 状況は悪い。完全に先手を取られている。
とは言え、いきなり撃たれなかった辺り、まだ話は通じる相手のようだ。ここは平和的に話し合いで解決しよう。
ゆっくりと振り返る。
その際、ティーガーⅡには、前に見せてくれたような人間への擬態をするよう、目で合図を送った。奇跡的に伝わったようであった。
さて、そこには、冷たい目をした若い男が立っていた。その黒い整った服装軍服らして、帝國の正規の軍人である。
訝しげな目で俺とティーガーⅡを交互に見るが、その手に握られた拳銃の照準が狂うことはない。
やがてその視線はティーガーⅡに集中し始めた。自分で質問したくせにその回答など気にせず、少女の体を観察していた。
そしてそいつは言った。
「お前、人間じゃねえな」
「なっ」
どうして分かった? ティーガーⅡの擬態は完璧だった筈。呼吸もまばたきも発汗もしていると言うのに、何故だ?




