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「私を殺せば、ここの兵は全て停止する」
「全てお前が動かしてるからか」
「ああ。高度な戦闘能力を持った部隊だが、これが唯一の弱点だ」
「だったら、殺すしかないな」
こうしている間にも戦いは続いている。彼らがもう死なない為にも、そして死んだ者の為にも、殺す以外の選択などあり得ない。
寧ろ俺は何を迷っていたんだ?
「ティーガーⅡ、こいつを殺してくれ」
「了解した」
「諸君、また会おう」
「ん?」
聞き間違いでなければ、確かにクラッススは「また会おう」と言った。
その真意を問おうと思ったが、しかし、俺が言葉を発するよりも前に、ティーガーⅡの主砲はクラッススの体を跡形もなく粉砕した。
そしてその瞬間、本当に、さっきまで自立していたアイギスが全て、糸を切られたかのように倒れ伏せた。
その時感じたのは、喜びと言うよりは、呆然と言った方が近いだろう。
「か、勝った!」
「やったぞ!」
そんな無邪気な声を聞いて、やっと俺も勝利したのだと言う実感を得始めた。だが不思議なことに、大して嬉しくはならなかった。
確かに、この寡兵でアイギスを打ち破ったと言うことに対して、理性的な喜びはある。しかし、どこか素直に喜べない自分があった。
「ライ、お前は嬉しくはないのか?」
騒ぎ立てる群衆の中で特別浮いている俺の様子は、鈍感なティーガーⅡにも気付かれたようだ。かく言うティーガーⅡも全然嬉しそうではないが。
「そうだな…… そうかもしれない」
「何故だ? このような状況で喜ばない人間など見たことがないが」
「何でだろうな。俺にも分からん」
「そうか。だったらいい」
ティーガーⅡがこう言うところに全然突っ込んでこないのは、非常に助かる。
「東條。そこにいたか」
「磯埜か」
「ああ」
後ろから声をかけてきたのは、いつになく覇気のない磯埜二等兵であった。疲れているからかもしれないが、それだけでもない、気がする。
「ええと、何をしに来たんだ?」
「一応あんたにも、誰が死んだか伝えておこうと思ってな」
「お前達のことはそんなに知らないが」
「眞柄二等兵と遠藤二等兵は、死んだ。他は言っても仕方がないだろう」
「なっ、そ、そうか。分かった。残念、だったな」
そうか。死んだのか……
「で? あんたらはこれからどうする? 俺達といてくれてもいいが」
「どうするったってな……」
特に何も考えてはいない。とは言え、わざわざこいつらと別れる必要もないだろうし、それは互いにとっての利益にもなるだろう。
「別に、このままでいいんじゃないか? 何かあるまでは、このまま同行しよう」
「私も、それでいいと思うぞ」
「そうか。感謝する」
大分人数は減ってしまったが、まだ同行は続けることとした。
さて、次にやることは、死んだ者を弔うことだ。
クラッススの制御していたアイギスの規模は相当広いらしい。偵察隊を出しても、動いているアイギスが全く見当たらないのである。
と言う訳で、粗野なものだが、仮の葬儀くらいを行う余裕はある。
「死体を燃やして、意味はあるのか?」
ティーガーⅡは聞いてきた。
「それが文化だからとしか言いようがないな。理由は知らん」
「使えん奴だ」
目の前には百を超える数の死体がならべられ、それに火がつけられ、巨大な焚き火の様相を呈している。
残った火薬をふんだんに使ったお陰で、火はかなり強い。骨以外は悉く燃え尽きるだろう。
磯埜二等兵は、その様子を静かに見つめていた。
「さて、墓掘りだ。皆、気張れよ」
今回は俺とティーガーⅡも駆り出され、人数分の墓穴を掘ることとなった。
腕を回収してきたティーガーⅡが凄まじい速度で穴を掘っていくのには唖然とするしかなかったが、作業は半日程度で完了した。
最後に日本らしく祈りを捧げて、一行はその場を後にした。
「で、これからどこに行くんだ?」
磯埜二等兵に尋ねた。
「東だ。アイギスが動いていない今なら、人類の生きているところまで辿り着けるかもしれないだろ?」
「そうだな。正しい判断だ」
もっとも、果たして今の前線がどこにあるかなど全く分からない。既に日本全土がアイギスの手に落ちていた、何てこともあり得ない話ではない。
まあ、とは言え、生きて帰れる可能性が最も高い道がこれであるのは確かだ。異を唱えるつもりはない。
ただ、一つ問題をあげるとすれば、移動手段が徒歩しかないことである。
「ティーガーⅡ、俺を乗せてくれないのか?」
「ああ。お前だけが楽して移動をしていたら、無用な軋轢を生みかねないからな」
「はあ……」
と言う訳で、つい先週までは毎日ただ乗りさせてもらっていたティーガーⅡに乗車を拒否されているのである。
ああ、辛い。




