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1-5-10

「奇襲か…… 知恵が回るではないか……」


 と余裕そうな発言をしているものの、クラッススの顔からは僅かに焦りの色が感じられた。


 これは本当に想定外であるらしい。ならばまだ勝機はある、のか?


「諸君らは安全な場所に隠れたまえ」


「は?」


 どうして急に敵軍の兵士の心配をし出すんだ?


「捕虜が戦闘に巻き込まれて死んだとなれば、我らの名折れだ。武器を持っていないものは皆平等に遇するべきだろう?」


「ま、まあ、そうだが」


 それを決めた人類ですら、それに則った戦争を行えた試しはないんだが。これが圧倒的な余裕と言うものか。


「諸君らが先程までいた空母の中にいるがよかろう」


「そうさせてもらう」


 武器を持っていない俺達は、アイギスに対して全くの無力。寧ろここにいる方が、ここに迫る者の邪魔になるだろう。


 これは勝利の可能性を上げることにも繋がるのだ。素直に装甲の中に引き籠らせてもらう。


「勝てるか……?」


 ちょっと顔を出して外の様子を観察する。


 騎兵の突撃と言う想定外の事態に対しても、クラッススはよく対応し、俺達を囲んでいた兵を迎撃に回している。


 なるほど。そういう意図もあったのか。してやられた……


 まあいい。ここに来たからには、やらねばならないことがある。


「ティーガーⅡ! 生きてるか?」


 瓦礫に埋まったティーガーⅡに呼び掛ける。が、やはり反応はない。


「お前ら、手伝ってくれ」


 瓦礫をどかす。まずはそれから始めるしかない。


 少し声を掛ければ、兵は従ってくれた。これが最後の可能性だと言うのは、言わずとも分かるだろう。


 崩落しているとは言え、装甲は装甲だ。やはり、重い。


「よし。そっちを持ち上げろ。せえの!」


 俺達は、ティーガーⅡの天辺のハッチまでの道を切り開いた。これくらいが人力の限界である。


 しかし、砲塔は大きく欠損していて、ハッチを開けずとも中が見える程だ。垣間見える車内には、細かな瓦礫が散乱している。


 そして更に覗き込むと、いつもの少女の体が力なく倒れているのが見えた。


「おい! 起きろ!」


 銃や荷物は外に置き、体を車内にねじ込み、少女の元で叫んだ。


「ん、ああ……」


「起きたか!」


 酷く気だるそうな様子だが、確かにその目は開かれた。


「大丈夫か?」


「はあ? 大丈夫な訳がないだろうが……」


「た、確かに……」


 装甲に穴が空いているのだ。大丈夫な訳がなかった。


「しかし、やっとマシになってきた」


「動けるのか?」


「出来なくは、ない」


「どう言うことだ?」


「私は今、人間で言えば、片足を吹き飛ばされたくらいの痛みを感じている。このまま動くのは、苦しい」


 片足を吹き飛ばされたことはないから分からないが、とんでもなく痛いと言うのは想像に難くない。そんな奴を無理矢理動かしていいのか?


「東條さん! 友軍がそろそろ全滅してしまいます!」


「クソッ。ダメだったか……」


「外はどういう状況なんだ?」


「クラッススがすぐそこにいて、味方が攻撃しているんだが、突破出来ていないと言う状況だ」


「そこにいる? お前達はそれを傍観しているのか?」


「ま、まあ、色々とな」


 こんな情けない姿を晒してしまうことになるとは…… 俺はティーガーⅡがいないと何も出来ないのかもしれない。


「で? ここで私が出れば勝てると?」


「多分な」


「では、出るとしよう。私が動けば、この瓦礫などどうと言うことはない」


「本当に、いいのか?」


 多分、こいつは無理をしている。それを戦場に駆り立てるなど好かないが、しかし、そうしなければ勝てない。


 心配している風を装うが、結局、自分で決めるのを避けて、ティーガーⅡに責任を押し付けることになってしまった。


「ああ。ドイツの戦車の本懐と言うものを見せてやろう」


「すまんが…… 頼んだ」


「任せろ」


 足元がガタガタと揺れ始めた。ティーガーⅡがついに動き出したのである。


 その身に積もる瓦礫の山などは、埃のように吹き飛ばした。


「装甲は、このまま破る」


「お、おう?」


 どう言うことかと思ったが、それはすぐに判明した。


 ティーガーⅡは空母の装甲に対し、主砲の先端から突進し、これを破って外に出た。


 ハッチから身を乗り出すと、既に多数の死体と少数のアイギスの残骸が転がっているのが見えた。


 そして眼下にはクラッススも。


「諸君らは、目覚めたか」


「ああ。お礼参りだ」


 と言って不敵な笑みを浮かべると、ティーガーⅡは主砲の同軸機銃を始動させ、たちまちにクラッススの周囲のアイギスを殲滅した。


 そして、その人に向けるにはあまりにも強力な主砲をクラッススに突きつけた。


「私を殺すのか?」


「それを決めるのは、私ではなくライだ」


「俺?」


「私はこいつに個人的な感情は特に抱いていない。撃たれたことも、戦場では当然のことで、恨むようなことではない。だから、お前が決めろ」


 まあ恨んでないと言うのは嘘だろうが。


「そ、そうか……」


 クラッススを生かすか殺すか、その決定権が突如として俺の手にもたらされた。


 本当なら眞柄二等兵にでも決めてもらいたかったが、彼を呼んでいる余裕はない。通信機ももう反応がない。


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